日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウヒ」の意味・わかりやすい解説
トウヒ
とうひ / 唐檜
[学] Picea jezoensis (Sieb. et Zucc.) Carr. var. hondoensis (Mayr) Rehd.
マツ科(分子系統に基づく分類:マツ科)の常緑針葉高木。エゾマツの一変種。大きいものは高さ40メートル、径1メートルに達する。樹皮は暗赤灰褐色、小さな鱗片(りんぺん)となってはげる。葉はやや扁平(へんぺい)な線形で長さ0.7~1.5センチメートル、幅2~2.2センチメートル、先は丸くてやや湾曲し、表面は濃緑色、裏面は灰白色を呈する。雌雄同株。5~6月、開花する。雄花は円柱形で小枝につき紅色、雌花は円柱形で小枝の先に斜め上向きにつき紅紫色。球果は円柱形で長さ3~6センチメートル、径2~2.5センチメートル、初め紅紫色を帯び、10月ころ熟すと黄褐色となって枝先から垂れ下がる。種子は倒卵状楕円(だえん)形で長い翼がある。福島県南部から奈良県までの亜高山帯に分布。名は、唐(中国)風のヒノキに見立てたものという。材は木目が美しく、弾力性が強く、軽くて柔らかく、緻密(ちみつ)で加工が容易であり、建築、船舶、器具、楽器などに利用する。基本種のエゾマツは葉の先がとがり長さ1~2センチメートル、球果、種子ともにやや大きい。北海道、南千島、岩手県早池峰山、および朝鮮半島、中国東北部、樺太(からふと)(サハリン)に分布する。トウヒ属にはほかにアカエゾマツ、イラモミ、ハリモミ、ヒメバラモミ、ヤツガタケトウヒ、ドイツトウヒなどがある。
[林 弥栄 2018年5月21日]