日本大百科全書(ニッポニカ) 「シザ」の意味・わかりやすい解説
シザ
しざ
Álvaro Siza
（1933― ）
ポルトガルの建築家。ポルト近郊マトシーニョス生まれ。1955年ポルト大学建築学科を卒業。その後1958年までフェルナンド・タボラFernando Távora（1923―2005）のもとで働く。1966～1969年ポルト美術上級学校建築学科で教鞭をとり、1976年から教授。その後もポルト大学で教えるかたわら、スイスのローザンヌ工科大学、アメリカのペンシルベニア大学、ハーバード大学大学院デザイン学科等の客員教授を務める。
シザは「Architect's Architect（建築家のための建築家）」といわれることがある。きわめてオーソドックスな建築のつくり方をベースとしながら、そこにかすかなデフォルメを加えることによって、図面からは想像もつかない複雑な空間を生み出すシザの独特の建築作法に対する建築家からの敬意の表れである。「建築家はなにも創造しない。ただ現実を変形するのみ」というシザの言葉が彼の建築に対するアプローチを物語っている。
ポルトガルは1932～1968年ファシズム的な独裁政権下にあり、西欧諸国のなかで孤立していた。建築の近代化においても後進的な状況にあり、彼の初期の作品にはやはり近代化の遅れていたフィンランドのアルバ・アールトの素材の扱い方や、近代的な技術に頼らずに近代的空間を作ったフランク・ロイド・ライトやアドルフ・ロースの空間構成が参照されている。周囲の環境に的確に応答しながら、わずかの創意によって独特の空間を組み立て、ケネス・フランプトンのいう批判的地域主義の代表的な建築家とみなされる。オーソドックスな造形に加えられる独特の微妙な変形は幾何学に裏づけられ、厳密さを保っている。
国外から招聘(しょうへい)されて取り組んだプロジェクトをのぞけば1980年代までは小規模なプロジェクトが多かったが、EUに加盟したことでポルトガルの景気が上昇し、1993年のガリシア現代美術センター（スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステラ）と1994年のポルト大学建築学部校舎以降、シザは規模の大きい建築物を次々に完成させている。スケールの小さな作品で評価された建築家が大規模な建築に取り組む場合、設計の密度が下がり以前の質を保てなくなることがあるが、シザの場合には大規模になるにつれデリケートな形態操作の効果がますます発揮されている。建築の規模が大きくなるにしたがい、大胆な建築的試みも行われる。たとえば、1998年、リスボンで開かれた万国博覧会のポルトガル・パビリオンでは65メートルものスパンをきわめて薄い懸垂されたコンクリート・シェルで覆っている。シザの作品で構造的な表現を露出させたものはほかに例がないが、この場合でもシザの視点は、構造そのものよりも、巨大なスケールの垂れ下がったコンクリートの下に獲得される空間にあり、巨大な日除けテントのような、不思議な広場空間が形成された。
アメリカ芸術・科学院会員、アメリカ建築家協会名誉会員、イギリス王立建築家協会名誉会員。おもな受賞歴はアルバ・アールト財団金賞（1988）、プリツカー賞（1992）、奈良世界建築博覧会金賞（1995）、アーノルド・ブルンナー記念賞、日本芸術院賞（ともに1998）。そのほかのおもな建築作品には、ボア・ノバのレストラン（1963、ポルト近郊）、レサのスイミングプール（1966、ポルト近郊）、カルロス・ラモス・パビリオン（1985、ポルト）、セトゥーバル教員養成学校（1993）、アベイロ大学図書館（1994）、セラルベス財団美術館（1999、ポルト）、サンティアゴ・デ・コンポステラ大学情報科学学部校舎（1999）などがある。
［日埜直彦］
『『GA DOCUMENT EXTRA 11: ALVARO SIZA』（1998・エーディーエー・エディタ・トーキョー）』▽『『a+u 臨時増刊号 アルヴァロ・シザ1954―1988』（1989・エー・アンド・ユー）』▽『「アルヴァロ・シザ ドローイングの思考」（『建築文化』1997年5月号・彰国社）』▽『Kenneth FramptonAlvaro Siza; The Complete Works（2000, Phaidon Press, London）』