日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
クロムウェル(ユゴーの韻文劇)
くろむうぇる
Cromwell
フランスの作家ユゴーの五幕韻文劇。1827年作、同年初演。イギリスの宰相クロムウェルは権勢拡大を目ざして王冠に野心を抱き、議会もこれを承認しようとするが、一夜、歩哨(ほしょう)に変装して反対派陰謀の事実をつかみ、結局戴冠式(たいかんしき)当日劇的に王冠を辞退して人望を高める。幕切れの独白は「されば余が王たらんはいつの日ぞ?」。作品自体は長すぎて上演不能だったが、序文はロマン主義宣言書として著名。その主張は、原始以来の歴史を叙情詩、叙事詩、ドラマの三つの時代に分け、劇的葛藤(かっとう)の根幹をキリスト教的二元論に置くことで現代こそドラマの時代と規定した。古典主義演劇の諸規則をほぼ全面否定し、地方色、歴史色を尊重して主題の更新を、また十二音綴詩句(アレクサンドラン)を柔軟化して文体の刷新を唱えた。
[佐藤実枝]