ガムラン(英語表記)gamelan

翻訳|gamelan

デジタル大辞泉 「ガムラン」の意味・読み・例文・類語

ガムラン(〈インドネシア〉gamělan)

《「ガメラン」とも》インドネシアジャワ島やバリ島で行われる、旋律打楽器を主体にした合奏形態。宗教儀式のほか、演劇や舞踊の伴奏としても使われる。

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精選版 日本国語大辞典 「ガムラン」の意味・読み・例文・類語

ガムラン

〘名〙 (gamělan) インドネシアの民俗音楽。銅板、銅製のつぼ、木板などからなる旋律打楽器を中心に編成され、祭式や劇、舞踊の伴奏に用いられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ガムラン」の意味・わかりやすい解説

ガムラン
gamelan

ジャワ島,バリ島を中心とするインドネシアの合奏音楽とその楽器群をいう。ガムランは〈たたく〉〈操る〉を意味する動詞ガムルgamelの名称形で,〈たたかれるもの〉すなわち打楽器が合奏の中心を成すことからこの名が使われる。編成の規模と構成楽器の種類によってさまざまなガムランがあり,中心となる旋律楽器の名称やその音楽の特徴を表す語をガムランの後に付加して呼称する。例えばガムラン・アンクルン(竹製打楽器),ガムラン・クビヤル(〈閃光〉の意)など。また狭義でのガムランは旋律楽器としての青銅製打楽器を中心とする大編成のガムランを指す。

ガムランの合奏は,別々の機能をもった四つの楽器群が組み合わされて成り立っている。(1)旋律楽器群 音楽の中心となる旋律を担当する楽器。竹笛(スリン),オーボエ類(スルナイ,トロンペ),竹・木製の音板を打つ楽器(ガンバンチャルン),青銅製の音板を打つ楽器(グンデルサロン)など。人声(歌)の場合もある。(2)リズム楽器群 曲の終止やテンポ・強弱・曲想の変化を導く楽器。形態や大きさこそ異なれ,多くのガムランにおいて太鼓クンダンがあてられる。(3)節目(ふしめ)楽器群 断続的に一定の周期で鳴らされて,曲の節目や段落をつくり形式を決める楽器。主として金属製ゴングや,太い竹管グンタンがあてられ,周期の異なる数個を組み合わせて用いることが多い。(4)装飾楽器群 中心となる旋律の音と音の間を一定のリズム型と旋律で装飾的に埋める楽器。さまざまな小型打楽器が用いられる。この四つの楽器群の組合せのバランス,旋律楽器として用いられる楽器の種類によっておのおののガムランの特性が形成される。

1本ないし数本のスリンが旋律を担当し,小型のクンダンがテンポとリズムをリードし,節目楽器と装飾楽器に竹製打楽器があてられるガムランが,おそらく最も古く民俗的なものであろう。現在でも演奏されているもののうち,このタイプのガムラン・アンクルンとガムラン・チャルンが重要である。次に,同じタイプで節目楽器と装飾楽器に金属製打楽器の用いられるガムラン・ガンブがある。これは呪術的・宗教的意味合いを濃くもつガンブと呼ばれる舞踊の伴奏音楽を奏し,古くから用いられていた。これらとは別系統に,数台の木製や金属製の音板を打つ楽器のみから成り,太鼓や節目楽器の類を用いないガムランがあり,柔らかで神秘的な音色ゆえに,降霊や魂送りの儀式に用いられる。代表的なものは,ガムラン・ガンバン,ガムラン・グンデル・ワヤンである。最後に太鼓以外のほとんどが青銅製楽器によって編成されるガムランがあり,これはすべてのガムランの中で最も規模が大きく高い芸術性をもつ。青銅という高価で神聖な金属を用いていることからも推察されるように,宮廷音楽および寺院の儀式音楽として発達してきたもので,舞踊や演劇などと結びついて豊かな総合芸術をつくり上げている。音楽的には他のより古い小編成のガムランを吸収し集大成する形で完成されたもので,圧倒的な音量と幅広い表現力をもっている。

楽器を中心とする青銅ガムランは,ジャワとバリのどちらにおいても四つの楽器群から合奏が成り立っていること,骨格となる主旋律を基にして,構成楽器が比較的自由に変奏を行うこと,4拍子を基本とし最後の拍に重点がおかれる独特のリズム構造をもつこと,5音音階を用いること,など多くの共通点をもっているが,ジャワの西部・中部・東部・バリの4地域にそれぞれ様式の差が見られる。西部ジャワには,ガムラン・ドゥグン,ガムラン・クリニガンという二つのタイプがあり,前者はスリン,後者は歌が,はっきりとした主旋律を受け持ち,他の楽器の合奏自体はあまり複雑でなく,上の主旋律に対して従の関係にある。一方,バリにはいくつかのタイプがある中で,ガムラン・クビヤルが最もポピュラーである。これは西部ジャワのそれと対照的に器楽的で,すべての楽器が組み合わされ,高度な演奏技巧と,奏者同士の掛合いの妙を特色とする。中部ジャワの演奏は最も編成の大きいもので,構成楽器の多様性,声楽的要素と器楽的要素とが高度に融合されている点など,群を抜いて高い芸術性を見せている。東部ジャワの演奏は,バリと中部ジャワの中間的様式をもっている。

 1889年のパリ万国博覧会に,中部ジャワとバリの大編成青銅ガムランと舞踊が参加したことに起因して,ドビュッシーをはじめとするフランス近代の作曲家たちが,その作風にガムラン音楽の影響を受けていることは,よく言及される。一方,1920年代以降,現地に長期滞在した欧米の研究者や芸術家のうち,J.クンストやマクフィーC.McPhee(1900-64)らによってすぐれた研究書や,作品が生み出されている。1960年代以降,欧米の高等教育機関において,民族音楽学の一環として,楽器を購入し演奏家を招いてガムラン音楽の演習が行われている。日本では東京芸術大学において,1979年より現地から招いた演奏家による講座が開かれている。
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百科事典マイペディア 「ガムラン」の意味・わかりやすい解説

ガムラン

ジャワ,バリの打楽器を中心とする大編成アンサンブル。大別すると主旋律部(サロンスルントゥム),装飾旋律部(ボナングンデルガンバン,サロン),リズム部(ゴン・アグン,ゴン・スウアン(ゴン),クンプルクノンクトッ)に分かれ,これにスリンルバブオブリガートと歌唱が加わる。バリでは,人形劇の伴奏のためのグンデル・ワヤン,少女舞踊劇のためのプレゴンガン,20世紀以降の代表的な新しい様式のゴン・クビャルなどの種類がある。
→関連項目クンダンケチャジャイポンガンジョクジャカルタ鉄琴ドビュッシーバリ[島]ラベルワヤン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガムラン」の意味・わかりやすい解説

ガムラン
gamelan

インドネシアの代表的な器楽合奏およびその音楽。大小さまざまの規模の合奏形態が,舞踊や演劇と結びついたり,純音楽の形で,ジャワ島とバリ島にほぼ集中して存在する。楽器編成は多種の旋律打楽器,太鼓,笛,擦弦楽器から成る。 (1) ジャワのガムラン楽器の調律は,スレンドロあるいはペロッグの音階に従っているが,綿密には団体ごとに多少のずれがある。音階に含まれる音は,すべての曲のなかで使用されるわけではなく,曲ごとに応用する旋法が規定されており,これがパテットと呼ばれる。インドのラーガに似て,パテットは時間や季節の概念と連関しており,ヒンドゥー文化の影響としての『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ叙事詩に基づく,舞踊劇や影絵人形芝居 (ワヤン・クリ) の上演時間をおのずから規定する。ジャワ島の内部で,ジャワ様式とスンダ様式 (西部ジャワ) を区別することができる。スンダでは小編成の微妙な音の美を楽しむ合奏が好まれ,ジャワ様式では,かつて宮廷音楽として大規模の合奏形態があった。オーケストレーションは,楽器を機能的に3つの群に分けて,層化された音楽構造をねらっている。主旋律を奏する楽器群 (サロンとスレンテム) ,旋律装飾を行う楽器群 (ボナン,グンデル,ガンバン) ,周期的な拍節法を執拗に明示するコロトミー楽器群 (ゴング,クンプール,クノン,クトック) が主要なグループで,さらにクンダン,レバーブ,スーリーン,独唱,合唱が加わると最大の規模となる。 (2) バリ島のガムラン楽器の調律は,サイリマ (スレンドロ) とサイピトゥ (ペロッグ) に基づいているが,演劇や舞踊にはペロッグ音階のものが用いられる。合奏形態はジャワ島の場合より詳細に規定される。たとえばガムランガンブー (7音ペロッグ) の形態は,ガムランゴングやゴングケブヤル (5音ペロッグ) の形態の元祖である。竹製楽器だけのガムランジョゲは,ジョゲという民俗舞踊のための音楽を奏する合奏形態である。影絵芝居を伴奏するグンデルワヤンはスレンドロのみが用いられる。2台1対のものが大小の2組,合計4台のグンデルが使われ,高度の音構成美を追究する知的な音楽のための合奏で,それに対しガムランアンコロンは,儀礼や村祭に使われたり,学校教育で使われたりする演奏の容易な機能音楽,あるいは娯楽音楽のための合奏形態である。

ガムラン
Gamelin, Maurice Gustave

[生]1872.9.20. パリ
[没]1958.4.18. パリ
フランスの陸軍軍人,将軍。第1次世界大戦中は J.ジョッフル将軍の幕僚をつとめたのち,師団長。 1931年陸軍参謀長。 38年国防軍参謀総長。第2次世界大戦が起ると西部戦線で連合軍司令官として指揮をとったが,40年5月にドイツ軍の攻勢によってフランス軍が崩壊すると,免職となった。敗戦の責任を問われて P.ペタン政府によって逮捕され,裁判にかけられた。 43~45年ドイツに抑留された。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ガムラン」の解説

ガムラン
Maurice Gustave Gamelin

1872~1958

フランスの将軍。陸軍参謀総長をへて第二次世界大戦開始のとき英仏連合軍総司令官となったが,ド・ゴールの主張する戦車による機動作戦をしりぞけ,マジノ線を固守する戦術をとってドイツ軍に大敗した。

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世界大百科事典(旧版)内のガムランの言及

【インドネシア】より

…この独得のリズム感覚と,集団で音楽を作り上げる傾向が,アジアの他の地域にくらべて合奏音楽をより盛んにしている。その代表的な形態がガムランである。(4)ジャワとバリを中心とした地域の音楽は5音音階圏に入る。…

【楽譜】より

…タイの音楽では唱歌式の方法で旋律を記憶することが普通であるが,記譜をする場合には楽器の指孔やポジションによる数字譜が用いられることが多い。インドネシアの音楽では,バリ島で古くから階名に当たる記号を木の葉に記して用いたといわれるが,ジョクジャカルタ王宮では,19世紀後半から西洋五線譜の影響を受けた記譜法がガムランのために考案された。現在は,ジャワ(中央ジャワ)式,スンダ(西部ジャワ)式,バリ式の3種類の数字譜がガムランの演奏に用いられており,いずれもアラビア数字を用いて,音階の基本音列に,下からあるいは上から割り当てたものである。…

【楽器】より

…金属製打楽器で音階を奏することができるのは,木琴を金属製にした鉄琴のほか,なべ形の銅鑼を横に並べたタイプのものがある。インドネシア(ジャワおよびバリ)のガムランは,このように音階をもった金属製打楽器群を主体に編成された大規模なアンサンブルである。また,古代中国および現代の朝鮮半島にみられる編鐘は,音の高さの異なる鐘(しよう)を多数配列した,珍しい金属製打楽器である。…

【ガンサ】より

…インドネシアのジャワ島とバリ島では,共鳴管を持つもの(グンデル),共鳴管を持たないもの(サロン)の両者を包括する青銅製打楽器の総称である。この種の楽器は,旋律打楽器を中心に編成される器楽合奏ガムランの骨格をなす。ジャワ島では,青銅製ガムランの同義語としてガンサが用いられる。…

※「ガムラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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