カーカップ(読み)かーかっぷ(英語表記)James Kirkup

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーカップ」の意味・わかりやすい解説

カーカップ
かーかっぷ
James Kirkup
(1918―2009)

イギリスの詩人、小説家、自伝作家、劇作家生年は、日本内外の文献にみられる1923または1927年ではなく、実際は1918年である。イングランド北部の出身で、ダーラム大学でヨーロッパ近代語学を専攻。少年時代を描いた『ひとりっ子』(1957)で名声を得、多彩な創作活動で知られる。上記の肩書きのほか、オペラ台本作者、翻訳家、ジャーナリスト、大学生用テキストの作者、イギリスの俳句協会会長等々、がある。1959年(昭和34)初めて来日し、東北大学教授、のちに日本女子大学、名古屋大学などでも教える。イギリス、アメリカ、スペインなどでも教えた。その後、ピレネー山脈中のアンドラ国に在住。

 詩人としては、徳永暢三(しょうぞう)との共著『詩人の声』(1967)収録の「正確な同情」(1952)にみられるように、ルポルタージュと芸術を融合した新しい詩風をイギリスの詩に加えたことが大きな特徴の一つである。多数の詩があるが、現在入手可能なものはザルツブルク大学から発行されている。1998年出版の400ページに及ぶ、カーカップの傘寿(さんじゅ)を祝う論文集は日本人を含む多くの知人、友人、学者の寄稿を集めたもので、カーカップが自身を定義したように、「きれぎれのくさぐさの一個の万華鏡」を祝う多様な内容となっている。イギリス文学の主流から逸(そ)れているカーカップは、国際的視野をもって著作活動を続けているため、イギリス(および日本)で編まれている文学辞典には、片寄った紹介がままみられる。

 日本文化への造詣(ぞうけい)が深く、禅や禅とかかわりのある短詩形文学(俳句、短歌)を創作し、1997年(平成9)に宮中の歌会始めに招待されたことがある。日本で出版された著書も相当な数に上るが、比較的最近のものは玉城周(たまきまこと)(1943― )との共著『齋藤史(ふみ)歌集――記憶の茂み』(和英対訳、2002)である。また、『カーカップの英文学再見』(1980)は、著者独特の英文学観を示すエッセイ集となっている。好評を博した三木稔(みのる)作曲のオペラ『雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)』の台本を執筆した。

[徳永暢三]

『三浦富美子訳『病める国、イギリス』(1967・英潮社)』『三浦富美子訳『日本随想』(1971・朝日出版社)』『速川浩・徳永暢三訳『にっぽんの印象』(1975・南雲堂)』『三浦富美子訳『沈みゆく老大国』(1976・英潮社)』『J・カーカップ、中野道雄著『日本文学英訳の優雅な技術』(1978・研究社出版)』『J・カーカップ、中野道雄著『日本人と英米人――身ぶり・行動パターンの比較』(1979・大修館書店)』『J・カーカップ著、徳永暢三編訳『カーカップの英文学再見』(1980・大修館書店)』『武本明子訳『ジェイムズ・カーカップ自叙伝1 ひとりっ子』『ジェイムズ・カーカップ自叙伝2 光と陰と』(1986、1987・匠出版)』『J・カーカップ、徳永暢三著『詩人の声』(1988・研究社)』『J・カーカップ、玉城周選歌・英訳『齋藤史歌集――記憶の茂み』(2002・三輪書店)』

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