ウィルソン(Robert Butler Willson)(読み)うぃるそん(英語表記)Robert Butler Wilson

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウィルソン(Robert Butler Willson)
うぃるそん
Robert Butler Wilson
(1937― )

アメリカの経済学者。ネブラスカ州ジュネーブ生まれ。1959年にハーバード大学を卒業(数学士)し、1961年に同大学で経営学修士(MBA)、1963年に経営学博士(DBA)を取得。1964年からスタンフォード大学教鞭(きょうべん)をとり、1976年に教授、2004年に同大学名誉教授となった。2020年、オークション理論auction theoryを発展させ実用的な新オークション方式を開発した功績で、弟子のポール・ミルグロムとともにノーベル経済学賞受賞した。

 専門はゲーム理論で、オークション理論などのマーケット・デザインのほか価格理論、交渉学、産業組織論、情報経済学など業績は多岐にわたる。弟子には、ミルグロムのほか、アルビン・ロスAlvin E. Roth(1951― )(2012年ノーベル経済学賞)らがいる。

 古典派経済学は市場によって効率配分が実現するとしてきたが、実際には情報の非対称性などで「市場の失敗」が起きる。これを避けるためミクロ経済学では、ゲーム理論や実験経済学の研究が盛んになり、その一環としてオークション理論がビッカリー(1996年、ノーベル経済学賞受賞)、ウィルソンマイヤーソン(2007年、ノーベル経済学賞受賞)らによって発展した。ウィルソンは1960年代から1970年代にかけて、無線周波数採掘権、不動産といっただれにとっても共通価値common valueをもつ財に関するオークション理論を導入。オークションの落札額が高値だったと後悔する「勝者の呪いwinner's curse」を避けるため、合理的な入札者は共通価値より低い価格で応札する傾向を理論的に解明し、オークション理論を発展させた。ミルグロムらとともに、複数オークションを同時並行で繰り返す「同時複数ラウンド競り上げ入札Simultaneous Multi-Round Ascending Auction」を開発。1994年のアメリカ政府の電波割当てに採用され、莫大な国庫収入をもたらした。その後、多くの国が周波数、資源電力、空港発着枠などの割当てに同方式を導入し「納税者を含め、社会に多大な恩恵を与えた」ことがノーベル賞受賞につながった。ウィルソンらの受賞はノーベル経済学賞の実用重視の最近の傾向を象徴している。

[矢野 武 2021年2月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例