ミクロ経済学(読み)ミクロけいざいがく(英語表記)microeconomics

翻訳|microeconomics

精選版 日本国語大辞典 「ミクロ経済学」の意味・読み・例文・類語

ミクロ‐けいざいがく【ミクロ経済学】

〘名〙 家計・企業・市場が、希少な資源を、競合する目的のためにどのように選択・配分するかを研究する経済学。⇔マクロ経済学

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デジタル大辞泉 「ミクロ経済学」の意味・読み・例文・類語

ミクロ‐けいざいがく【ミクロ経済学】

微視的経済学。家計の消費活動や企業の生産活動といった個別経済の分析から始まり、全体の分析に至る経済学価格分析を中心とする。⇔マクロ経済学

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミクロ経済学」の意味・わかりやすい解説

ミクロ経済学
みくろけいざいがく
microeconomics

個々の消費者(家計)や企業(生産者)などの経済主体の動きを微視的(ミクロ)に分析し、市場を通じて財(モノやサービス)の配分や価格決定がどのように調整されているかを考察する学問。とくに、市場原理を重視するシカゴ学派などではミクロ経済学を「価格理論price theory」とよぶ。経済主体を巨視的に分析するマクロ経済学と並び、経済学の大きな柱である。

 W・S・ジェボンズらによって提唱された効用(満足度)価値説と、L・ワルラスらが基礎を築いた完全競争下での一般均衡理論を基に、ミクロ経済活動を数学的に分析する手法が整った。A・マーシャルが『経済学原理』Principles of Economicsを著し、これが現在のミクロ経済学の原型となった。J・R・ヒックスは財を含む多くの市場の同時需給均衡が時間的にどのように変化するかを分析。消費者の満足度に注目して市場分析する厚生経済学welfare economicsにも道を開き、ミクロ経済学の父とよばれている。

 さらに、フォン・ノイマンとO・モルゲンシュテルンらは利潤を最大化しようとする経済行動を予測する「ゲームの理論」を導入。現在、完全競争とゲームの理論はミクロ経済学の主たる分析手法として発展している。

 G・S・ベッカーの『人的資本』Human CapitalやJ・F・ナッシュらの「ナッシュ均衡」(Nash equilibrium)など最近のノーベル経済学賞の多くがミクロ経済分野の受賞である。こうしたミクロ経済学の分析手法は財政学公共経済学産業組織論などに幅広く応用され、最新のマクロ経済学の理論的な礎(いしずえ)となっている。

[編集部]

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改訂新版 世界大百科事典 「ミクロ経済学」の意味・わかりやすい解説

ミクロ経済学 (ミクロけいざいがく)
micro-economics

微視的経済分析ともいう。現代の経済理論は大別してミクロ経済学とマクロ経済学とに分かれる。後者が,国民所得などの集計量,物価指数などの平均値のあいだの関係を分析するのに対して,ミクロ経済学はまず,(1)消費者の家計,企業などの個々の経済主体の行動を分析し,(2)これら経済主体間の市場を通じての相互依存関係を重視しながら,経済全体の動きを解明する。経済主体間の市場を通じての相互依存関係とは,生産物,生産要素の交換の関係であるから,それを分析するには交換の比率である価格の体系を分析しなければならない。したがって,ミクロ経済学はまた価格理論とも呼ばれるのである。

 消費者家計は労働,土地,資本などの生産要素を供給して所得を獲得し,それをさまざまな生産物の購入のために支出する。市場で成立している諸価格は一家計にとっては変更不能であるから,いろいろな生産要素の価格と供給量の積の和である所得をさまざまな生産物の価格と需要量の積の和である支出が等しいという予算制約式を満たす範囲で,家計は効用を最大にするように生産要素の供給量,生産物の需要量を決定する。諸価格が変化すれば需要量,供給量は変化する。企業は,生産要素を購入して生産に使用し,生産物を販売する。企業が販売量を変更することにより価格を変化させることができる場合は不完全競争であり,企業にとって市場価格が変更不能の場合は完全競争である。生産要素の生産への投入量と生産物の産出量の間の技術的関係(生産関数)の許す範囲で,生産物の販売収入と生産要素購入費用の差である利潤を最大にするように,企業は生産物の供給と生産要素の需要を決定する。諸価格が変化すれば,完全競争の場合の需要量,供給量は変化する。

 生産物にしろ,生産要素にしろ,諸価格が与えられれば,企業や家計の需要量,供給量が決まる。たとえば,ある生産物の需要量の合計が供給量の合計より大であるとすると,需要者,供給者の競争によりその財の価格は上昇するであろうし,反対の場合は下落するであろう。価格が変化すると,需要量,供給量も変化する。このような需給の差による価格の調整を通じて,すべての生産物,生産要素の市場で需給が一致した状態を一般均衡と称する。一般均衡の条件である需要と供給の均等を意味する連立方程式体系を分析することにより,たとえば生産技術の変化が均衡価格体系を,どのように変化させるかを検討することができる。さらに,このような競争的な一般均衡状態は,諸資源のさまざまな用途への配分がパレート最適になっていることを厚生経済学は明らかにしている。

 しかし,実際には必ずしも価格が円滑に調整されて需要と供給が均衡するとは限らない。ケインズ経済学が主張するように,有効需要が不足すると,労働の需要は供給を下回り,賃金は下方に硬直的であって調整されず,非自発的失業が発生するということも考えられる。従来,ケインズ経済学はマクロ経済学に限られ,全体としての有効需要はなぜ不足するのかという問題の解明に重点がおかれてきた。しかし,完全雇用が実現せず非自発的失業が存在する場合,どうして賃金も含めて諸価格が調整されてそれが解消しないのか,なぜ市場機構が自動的に円滑に作用しないのか,ミクロ経済学的,価格理論的な解明はいまだ十分にはなされていない。
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百科事典マイペディア 「ミクロ経済学」の意味・わかりやすい解説

ミクロ経済学【ミクロけいざいがく】

経済における資源配分の問題を消費者や企業などの経済主体の行動から分析し,理論を構築しようとするもの。価格分析とも。すべての価格体系が与えられているとき,消費者行動や企業行動を分析し,さらにこの価格体系は全体としての需要供給によって決定されると論じる。フランスの経済学者ワルラス限界革命以後,極大原理に基づく一般均衡理論として発展した。市場経済は効率的な資源配分を達成する,という厚生経済学の基本定理に代表される。→マクロ経済学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミクロ経済学」の意味・わかりやすい解説

ミクロ経済学
ミクロけいざいがく
microeconomics

個々の経済主体,たとえば家計や企業の行動原理に基づいてさまざまな財をどのくらい生産し,個々の経済主体にどのように配分するかという,資源の最適配分メカニズムを分析する,経済学の基礎分野。マクロ経済学と対をなす。社会的に望ましい資源配分はパレート効率的配分(→パレート最適)であり,パレート効率的配分は完全競争市場の価格メカニズムによって達成される。しかしこの価格メカニズムをそこなう外部性,規模の経済性,公共財,情報の不完全性などの要因があり,これら市場の失敗は,公共部門の政策によって解決される。ミクロ経済学は,以上のことを明らかにした「価格理論」から発展している。公共経済学,都市経済学,環境経済学,情報経済学,国際経済学その他のさまざまな分野に応用される。

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知恵蔵 「ミクロ経済学」の解説

ミクロ経済学

19世紀末に英国のジェボンズ、マーシャル、欧州のワルラス、メンガー等が同時期に発見した限界効用や限界費用を中核とする極大原理を用いた消費者、企業の分析。20世紀前半は一般均衡論的な観点から完全競争を分析するのが主流であり、英国のヒックスや米国のアローは経済学の精緻化に多大な貢献を残した(一般均衡理論/完全競争参照)。他方、不完全競争や寡占競争に対する関心も当初からあったが、それらを分析する数学的ツールがなかったため精緻な分析は困難であった。この状況が一変したのはゲーム理論の登場によってであり、以後ミクロ経済学の分析対象は、寡占企業間の戦略的相互依存関係や消費者の情報の不完全の分析へと移った。こうしたミクロ経済学の静かな革命は、新しい産業組織論などいくつもの応用ミクロ経済学分野を生み出し、今日もなお脈々と続いている。

(依田高典 京都大学大学院経済学研究科教授 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内のミクロ経済学の言及

【経済学】より

…主としてその分析対象によって数多くの分野に分類される。まず経済理論はミクロ経済学マクロ経済学に分けられる。ミクロ経済学は,経済を構成する個別的な経済主体,つまり個人,企業がどのような経済行動を選択するかという問題を分析したり,個別的な産業について,生産技術,生産規模がどのようにして決定されるかということを論じ,さまざまな財貨・サービスの相対価格を分析する。…

【メンガー】より

オーストリア学派の限界分析の創始者。いわゆるミクロ経済学を現在の体系にまとめ上げたのは,メンガーとその弟子たちであるといえる。ケンブリッジ学派の創始者A.マーシャルにも理論面で大きな影響を与えた。…

※「ミクロ経済学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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