アンセルムス(カンタベリーのアンセルムス)(読み)あんせるむす(英語表記)Anselmus Cantaberiēnsis

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

アンセルムス(カンタベリーのアンセルムス)
あんせるむす
Anselmus Cantaberiēnsis
(1033―1109)

初期スコラの神学者。北イタリアのアオスタに生まれる。1060年にノルマンディーに出て、ベネディクト会クリュニー系のベック修道院に入り、当時の碩学(せきがく)ランフランクLanfranc(1005ころ―1089)の下で神学研究に励む。この師がカーンに移ったあと、副院長となり、ついで院長となる。1093年カンタベリー大司教に推された。このとき、イギリスのウィリアム2世とその後継ヘンリー1世とを相手に叙任権闘争を行い、二度の追放にあったが、やがて和解がなり、イギリスにおける政教条約の基礎を置いた。アンセルムスは、アウグスティヌスの神学を摂取し深化しただけでなく、新しい方法によって神学独自の課題と思考を明らかにし、当時の思想界に活気を与えた。その方法は、不信仰者には信仰の合理性を示し、信仰者には信仰の理解を求めるという二重の機能をもつものであった。すなわち「知らんがために信ず」の命題は、信仰に関することがらを、直接聖書に依拠して証明するのではなく、むしろ理性による論証の道をたて、その極限で理性の転換を明らかにする方法として自覚された。アンセルムスはこれによって神の存在、三位(さんみ)一体キリスト受肉贖罪(しょくざい)を解明し、さらに自由の問題に深く入って、神と人間の関係秩序を明らかにした。その鋭い論理と深い内容理解は、スコラ学の範となっただけでなく、今日まで多く議論をおこし続けている。主著モノロギオン』『プロスロギオン』『なぜ神は人となったか』。

[泉 治典 2015年1月20日]

『古田暁訳『アンセルムス全集』全1巻(1980・聖文舎)』

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