贖罪(読み)しょくざい(英語表記)reconciliation

翻訳|reconciliation

精選版 日本国語大辞典 「贖罪」の意味・読み・例文・類語

しょく‐ざい【贖罪】

〘名〙
① 金や品物を出して罪のつぐないをすること。つみほろぼし。
延喜式(927)二九「凡贖罪無銅。准価徴銭」
夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第二部「その度に徴せらるる贖罪(ショクザイ)の金だけでも」 〔漢書‐貢禹伝〕
イエスキリストが人類のために十字架にかかり、身をささげたことによって、世の罪をあがない、神と人との和解を成就したこと。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉四「基督の贖罪(ショクザイ)神性、永遠の罰と永遠の生(いのち)、信仰の意義、聖書の天啓、などを頻りに説いた」

とく‐ざい【贖罪】

〘名〙 (「とく」は「贖」の慣用読み) =しょくざい(贖罪)
※架空邂逅記(1950)〈渡辺一夫〉「邪魔な奴を先ず殺して置いて、後で贖罪(トクザイ)の意味も兼ねて記念碑を建てるという〈略〉方法が人生にはある」

ぞく‐ざい【贖罪】

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デジタル大辞泉 「贖罪」の意味・読み・例文・類語

しょく‐ざい【×贖罪】

[名](スル)
善行を積んだり金品を出したりするなどの実際の行動によって、自分の犯した罪や過失を償うこと。罪滅ぼし。「奉仕活動によって贖罪する」
キリスト教用語。神の子キリストが十字架にかかって犠牲の死を遂げることによって、人類の罪を償い、救いをもたらしたという教義。キリスト教とその教義の中心。罪のあがない。
[補説]「とくざい」と読むのは誤り。
[類語]罪滅ぼし

とく‐ざい【×贖罪】

しょくざい(贖罪)」の誤読。

ぞく‐ざい【×贖罪】

しょくざい(贖罪)

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改訂新版 世界大百科事典 「贖罪」の意味・わかりやすい解説

贖罪 (しょくざい)
reconciliation

一般には文字通り〈罪を贖(あがな)うこと〉で,なんらかの手段を講じて罪ある状態を解消すること。罪の観念を前提とする諸宗教に広く見られるが,とりわけ古代イスラエルとキリスト教の伝統において重視され,基本的概念として深められた。ヘブライ語のgā'al(〈贖う〉の意)は古代オリエントに共通する私法用語で,他人の手に渡った奴隷を代価を払って買い戻すことをいう。これが宗教的意味で用いられ,しかも従来の犠牲観念を批判するとともに深化させたのはバビロン捕囚後の預言者第2イザヤにおいてである。総じてイスラエルの預言者は祭儀に批判的で,犠牲による神のなだめと罪責免除よりも罪の告白と悔い改めを要求し,終末的な新しい人間の誕生と新しい契約の成就を指示したが,イスラエルは捕囚を通って初めてこれを現実のこととして受けとったのである。第2イザヤは〈神のしもべ〉と呼ぶ仲保的な存在の死を通して贖いが成ることを告げた(《イザヤ書》53章)。

 そこでキリスト教においては,罪の赦(ゆる)しは終末的な神の自由な恵みであるとともに,キリストの十字架による一回的なできごとであるとし,これを〈贖い〉〈償い〉〈なだめ〉〈赦し〉〈解放〉〈和解〉などのさまざまの語で呼んでいる。英語のatonementは一体となること,reconciliationは交わりの回復を,ドイツ語のVersöhnungはなだめることを意味するが,これらはみな原意を離れ,十字架のできごとに結ばれて比喩化される。日本語では通常〈和解〉で代表させている。パウロは《ローマ人への手紙》3章21節以下で,イエスの信仰が救いの源であり,その死は完全なしかたでの〈なだめの供え物〉であったという。教会において罪の赦しはさまざまのしかたで具体化されるが,これをまったく物化することはできない。例えば免罪符売買のような行為は宗教改革者によって徹底的に退けられた。神学的な贖罪論は,その具体性と普遍性(終末性)を同時に生かす課題をもっている。この点で,K.バルトが〈和解Versöhnung〉と〈救贖Erlösung〉とを区別し,その間に歴史的実存としての教会を位置づけたことはすぐれた理解であるといえる。

執筆者: キリスト教におけるがごとき原罪という観念のなかった中国や日本では,贖罪という言葉は金品を出して刑罰を免れることを意味した。刑罰の重さに対応する所定の額の財貨を徴して実刑に換えるという贖罪の思想は,古典の《尚書》にも見え,漢・晋の律に規定されて以後,唐律をへて明・清の律に引きつがれた。唐律では一貫して絹何疋(ひき)何尺をもって貨幣単位としているのに,贖だけは銅の地金の量目をもって単位とした。贖という実刑緩和の制が適用されるのは,身分的特権として,官品を有している者やその家族が流罪以下の罪を犯した場合と,老人や小児あるいは身体障害者が流罪以下を犯したときのほか,疑罪すなわち嫌疑濃厚にして確証のない場合に罪まことならば科されるべき刑に相当するだけの贖を徴し,いずれも国庫に入れられた。誣告(ぶこく)の事件や過失で人を殺傷した場合にも贖銅を徴したが,これらの場合には被害者の家に入れられた。
執筆者: 日本古代における贖銅の額は,笞(ち)10に対して銅1斤(きん)からはじまり絞斬の200斤に至るまで,それぞれ律に規定があり,中国のありようにほぼ似る。すなわち贖の許されるのは,次の場合である。(1)八位・勲十二等以上の者,七位・勲六等以上の者の一定範囲の親族,および五位以上の者の妾が流罪以下を犯した場合。(2)年70以上,15以下および廃疾者が流罪以下を犯した場合。以上の場合は,その刑の相当額を官が徴する。(3)過失で人を殺傷した場合。闘殺傷の刑の相当額を徴し,被害者側に納入する。(4)疑罪,すなわち嫌疑は濃厚であるが確証がなく,有罪無罪いずれとも定めがたい場合。その行為が事実ならば科せられるべき刑の相当額を官が徴する。贖銅の納入には,その額に応じておのおの期限があり,家が貧しく納入できない者は,身を役することにより代替した。日本では,銅の代りに一定額の銭,布をも納めることを許した。官に納入された贖物は,獄舎の修理等に充てられた。
蔭贖(おんしょく)
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「贖罪」の意味・わかりやすい解説

贖罪
しょくざい
redemption 英語
Erlösung ドイツ語
rédemption フランス語

主としてキリスト教で用いられる宗教用語。元来は、犯した罪に対して償いをするという意味の法的な概念であるが、とくに人格的な神概念が明確であったユダヤ・キリスト教的な伝統においては、神に対して人間が犯した罪が償われて、両者の敵対関係が和解されることを意味するようになった。この場合に、自分の力では償いをすることができない人間にかわって、犠牲(いけにえ)が捧(ささ)げられ、その代価によって失われたものがふたたび買い戻されるという意味で贖(あがな)いといわれた。『旧約聖書』においては祭司の手によって動物が犠牲として捧げられることによって贖罪がなされた(たとえば贖罪羊=スケープゴート)。『新約聖書』では、大祭司としてのイエス・キリストが自分を十字架で犠牲として捧げることによって、一度限り決定的な贖罪がなされて、永遠に有効なものとなったと説かれ、パウロにおいては、そこに神の義の主張と愛のできごとの相交わるできごとがあるとされている。このイエス・キリストの十字架における贖罪は、歴史上種々の強調点をもって理解されてきた。

 たとえばアンセルムスは、人間にかわって罪の償いをなしたキリストに対して神から与えられる報償が、キリストにかわって人間に与えられて贖罪が成立したという満足説を唱え、同時代のアベラールは、キリストの死を人間を道徳的に感化して新しい歩みへと向けさせる愛の最高の表現だとする道徳感化説を説いた。宗教改革者は、人間は元来神の怒りの刑罰を受けなくてはならない罪深い存在であるが、キリストは十字架において人間にかわってその刑罰を受け、それによって刑罰を免れた人間の贖罪が成り立つという刑罰代償説を主張した。近代においては、神の怒りとか刑罰などについて批判的な見解が多く、キリストの死を神の愛の表現、倫理的模範などと理解することが多くなったが、現代に至って、とくに弁証法神学者たち(バルト、ブルンナーなど)は宗教改革者の贖罪理解を復活させ、アウレンは贖罪における勝利者キリストを強調している。

[熊澤義宣]

『G・アウレン著、佐藤敏夫・内海革訳『勝利者キリスト――贖罪思想の主要な三教理の歴史的な研究』(1982・教文館)』

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普及版 字通 「贖罪」の読み・字形・画数・意味

【贖罪】しよくざい

罪をあがなう。〔三国志、呉、統伝〕統曰く、死に非ざれば、以て罪を謝する無しと。乃ち士卒を(そつれい)し、身、矢石に當り、攻むるの一面、時に應じて披壞す。~(孫)、其の果毅を壯とし、功を以て罪を贖(あがな)ふことを得しむ。

字通「贖」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「贖罪」の意味・わかりやすい解説

贖罪
しょくざい
redemptio

この観念は人間の罪と苦しみからの解放を願う多くの宗教にみられるが,キリスト教においては特に重要な意味をもつ。広い意味では神の救済,償い,和解,ゆるしと同義であるが,キリストの生と死と復活を通じての,神の恩恵として実現される人間の罪からの解放と,これによってもたらされる神との交わりの回復をいう。新約聖書ではパウロの手紙でキリストの血を通して罪がゆるされて贖罪 apolutrosisが成り (エペソ書1・7) ,すべてのものがキリストにあって一つになる (同1・10) と説かれている。キリスト教神学ではこの贖罪は人間存在の根本的悪としての原罪からの解放であり,救済の条件であるとされている。しかしこれにあずかるには,通常洗礼を受け,キリストの神秘的生命と一体化する必要があると説かれている。教理史においては,贖罪論史はキリスト論史の一部をなす。

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世界大百科事典(旧版)内の贖罪の言及

【十字軍】より

…ロマネスク芸術を駆使した大聖堂(カテドラル)の建設,修道院における霊的修練生活の普及,各地の聖所をめぐり聖遺物を崇敬する巡礼の流行などがその具体的表れである。さらに異教徒の住む諸地方への軍事的進出を正義の戦いとみなし,これを苦行として実践しようとする贖罪意識の高揚も重要な要素である。この精神的動機から西欧中世人の集団的心性の産物として,定期的に遠隔地の聖所へ向けて巡礼団を送る習慣が定着した。…

【罪】より

…聖書の罪意識はまったく具体的・現実的なので,たとえば《イザヤ書》45章のように神は〈光をつくり,闇を創造する〉といった,ゾロアスター教の二元論すれすれのことがいわれ,《ヨハネによる福音書》のようにグノーシス的二元論をかかえこむことすらある。あるいは,イエスは病気癒(いや)しの奇跡を多く行ったが,これが罪の赦し(贖罪)と一つであって,およそご利益宗教的ではなかったことは,先に述べた罪の全体性からしてのみ理解されよう。《ヘブル人への手紙》5章は,イエスには罪がなかったが,弱さのゆえにはげしく神に祈ったと述べており,これもイエスの無罪性を,弱さという人間一般のものから切り離して教義的・形式的にはいえないことを示している。…

【罰金】より

…日本の刑法は,1万円を境として,1000円以上1万円未満の科料と,1万円以上の罰金とを分けている(15条,17条)が,罰金の語は両者をあわせて,制裁的な意味をもつ金銭剝奪である財産刑の総称としても用いられ(以下ではおおむね罰金刑と表示する),刑罰簡明化などを根拠に罰金刑単一化の主張もある。 古代における贖罪金は刑罰の源流の一つともされるが(贖罪),中世においては死刑や身体刑,その後も流刑や自由刑の背後にあった罰金刑が再び脚光を浴びたのは19世紀後半に至ってである。当時から,弊害のみ多くて効果がないとされた短期自由刑に代わるものとして,また産業化の進展によって過失犯や行政犯などの,自由刑では重すぎる犯罪が増加したことに支えられて,罰金刑の適用数は増大し,今日では自由刑をはるかにしのいでいる。…

※「贖罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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