アダムズ(Robert Adams)(読み)あだむず(英語表記)Robert Adams

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

アダムズ(Robert Adams)
あだむず
Robert Adams
(1937― )

アメリカの写真家。ニュー・ジャージー州生まれ。少年時代に中西部ウィスコンシン州、ついで西部のコロラド州転居カリフォルニア州のレッドランド大学、南カリフォルニア大学で英語学を学び、1965年博士号取得。1962年から1970年までコロラド大学で英語学を教える。1963年より写真を撮り始め、1967年より写真家として作品を発表、また写真に関する執筆活動を行う。

 現代のアメリカ西部の風景に独自の視点アプローチした作品で注目される。『ザ・ニュー・ウェストThe New West(1974)、『フロム・ザ・ミズーリ・ウェスト』From The Missouri West(1980)、『それを故郷とすること』To Make It Home(1989。同題の展覧会が同年から翌1990年にかけてフィラデルフィア美術館ほかを巡回)、『コロンビアの西』West from the Columbia(1995)などの写真集、またアメリカ国内外での展覧会を通じて、アメリカ西部における人と土地との結びつきを探求する作品を発表してきた。

 アダムズ主題であるアメリカの西部は、フロンティアとしてその自然環境が無限の可能性と結びつけられてきた土地である。広々とした空間を選び、明瞭な描写を可能にする十分な光量のもと、安定した構図で撮影されたアダムズの写真のなかで、ハイウェー郊外住宅などの人工物がかつてのフロンティアの空間に自然と並存する現代の西部の景観は、単なる風景美の礼賛でも自然破壊の告発でもない、緊張感をはらんだ光景として定着されている。アダムズの写真は、現実を直視することで、アメリカの建国理念に結びついて神話化されたフロンティアとしての西部の風景を脱神話化する一方、現代の西部の風景をあくまで肯定的に受け入れ、そこに新たな美を見いだそうとする。それはまたアンセル・アダムズに代表されるフロンティア神話と結びついた雄大な自然を称揚する近代アメリカ風景写真の系譜の脱神話化でもあり、写真というメディアによる風景へのアプローチの新たな方向性の模索でもあった。

 アダムズも出品者の一人であった「ニュー・トポグラフィックス」展(1975、ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館、ニューヨーク州ロチェスター)をきっかけに、社会学的あるいは環境論的な視座をもふまえ、科学調査のような客観性をもって風景にアプローチする新しい風景写真の動向が、ニュー・トポグラフィックスと呼ばれるようになり、その影響は1970年代後半から1980年代にかけてアメリカだけでなく、ヨーロッパや日本などにも及んだ。

 フロンティアとしての西部の風景というアメリカ固有の主題に取り組んだアダムズの作品も、都市化や郊外といった世界各地で進行する風景の変容への先駆的アプローチとして、固有の文脈を越えて注目された。

[増田 玲]

『The New West; Landscapes Along the Colorado Front Range (1974, The Colorado Associated University Press, Boulder. Reprint 2000, Walter, Berlin)』『From the Missouri West (1980, Aperture, New York)』『Beauty in Photography; Essays in Defense of Traditional Values (1981, Aperture, New York)』『To Make It Home; Photographs of the American West 1965-1986(1989, Aperture, New York)』『Why People Photograph; Selected Essays and Reviews (1994, Aperture, New York)』『West from the Columbia; Views at the River Mouth(1995, Aperture, New York)』『California; Views by Robert Adams of the Los Angeles Basin 1978-1983 (2000, Frankel Gallery, San Francisco/Mathew Marks Gallery, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例