アウストラロピテクスアファレンシス(英語表記)Australopithecus afarensis

デジタル大辞泉 の解説

アウストラロピテクス‐アファレンシス(Australopithecus afarensis)

《「アファレンシス」は代表的な化石産地のアファール盆地由来》400万年~300万年前に生息していたアウストラロピテクス属猿人一種。1970年代から東アフリカエチオピアタンザニアなどで多数の化石が発見されている。アファール猿人。→ルーシー

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改訂新版 世界大百科事典 の解説

アウストラロピテクス・アファレンシス
Australopithecus afarensis

鮮新世の猿人の一種。アファール猿人とも呼ばれる。学名は〈アファール地区の南のサル〉という意味。いわゆる華奢型猿人に含まれる。1973年にジョハンソンD.Johanson,コパンスY.Coppensたちの率いるアメリカ・フランス合同調査隊によって,エチオピアの地溝帯,アファール低地ハダールで発見され,新種であることがわかった。それ以降も,エチオピアだけでなくケニアのトゥルカナ湖付近やタンザニアのラエトリでも発見されている。模式標本は,アファールでの発見より前にリーキーM.D.Leakeyたちによってラエトリで発見されていた下顎骨(LH 4)。年代は,アファール地域では340万~300万年前,ラエトリでは370万~350万年前と推定されている。

 アファレンシスは多くの化石が発見されているので,アウストラロピテクスのスタンダードとして研究が進んでいる。全体的印象としては,頭顔部はチンパンジーと似ているが,体はヒトと似ている。眼窩上隆起の発達,低く平らな額,側頭筋の発達による眼窩後方の狭窄,350mlほどの頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい),強い口吻の突出,顎先(オトガイ)の強い傾斜,平行な左右の歯列などはチンパンジーと似ている。しかし,犬歯が小さく,臼歯のエナメル質が厚い点ではヒト的な特徴を示す。さらに,頭蓋底の大後頭孔(脊髄が通る)が前方に寄り,下方を向いていることは,頭が脊柱によって下から支えられていたことを意味し,直立姿勢の証拠と考えられる。

 四肢や体幹はチンパンジーとは異なり,ヒト的な特徴を示す。上肢(腕)は長く頑丈で,ややチンパンジーとも似ていて,樹上での自由な移動を可能としたが,手はチンパンジーのように親指が短く残りの指が長いのではなく,ヒトのように親指が大きく発達し,残りの指との対向把握が巧みだった。骨盤は,チンパンジーのように長く,狭く,背腹方向に薄いのではなく,ヒトのように短く,広く,背腹方向に厚い。とくに幅は現代人以上に広いので,安定した片足立ちを繰りかえす直立二足歩行が可能だった。ただし,骨盤が幅広く,腹部も大きいので,いわゆるウエストのくびれは目立たなかっただろう。下肢(脚)は,体幹や上肢のわりに短いが,構造はヒトと似ている。とくに左右の膝が近接して下腿(スネ)が垂直な点は,ヒト的な印象を与える。足もヒトとよく似ていた。親指は残りの指と平行で,チンパンジーのような把握能力は失っていた。そのかわり,強固なアーチ構造が形成され,足の裏には土踏まずがあった。踵の骨は大きく,海面質で構成されていて,固い地面に踵から着地する現代人的な歩き方をすることに適応していた。つまり,かなり長時間にわたって体重を支え,歩くことができた。アファレンシスは,他のアウストラロピテクスもそうだが,腰,股関節,膝関節を伸ばして直立していたのであって,以前よく描かれた復元画のように膝を曲げた中腰姿勢やうつむき加減ではなかった。身長は,女性110~120cm,男性130~150cm,体重は,女性25~30kg,男性40~55kgと推定されている。

 犬歯や体の性差(オスメスの違い)は,ゴリラオランウータンほど大きくはないが,ヒトやチンパンジーよりは大きかったので,それに対応した家族・社会構造が推測されている。犬歯が小さいことは,外敵あるいは群れの中の競争相手に対する攻撃が,犬歯ではなく,たとえば棒を振り回すような別の手段によって行われたことを意味している。形態特徴の分析から推測されるアファレンシスの生活は,森林で,木に登り,林床を歩き,果物や軟らかい木の芽などを食べるだけでなく,しばしば草原に出て行って,硬い豆や根茎などを食べていたと考えられる。なぜなら,歯のエナメル質が厚いことは,草原で乾燥した硬い砂混じりの食物を食べる際におこる摩耗を少なくするための適応と考えられているからである。もちろん,機会があれば昆虫や哺乳類の肉も食べただろう。2010年に,エチオピアのディキカで340万年前の地層から石器による解体痕のある動物化石が見つかったという報告があり,人類による最古の石器使用事例と考えられている。

 アウストラロピテクス・アファレンシスは,猿人の系統の中心的な位置を占め,アルディピテクス・ラミダスの子孫であり,後の猿人やホモ属の祖先であると考える研究者が多い。
アルディピテクス・ラミダス →猿人 →ディキカ・ベビー
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