どんな病気でしょうか?
●おもな症状と経過
血液や体液を介したB型肝炎ウイルスの感染により肝臓が炎症をおこす病気です。ウイルスの感染経路は垂直感染といわれる母子感染と水平感染といわれる性交渉、入れ墨、ピアスの穴あけ、カミソリや歯ブラシの共用、医療従事者の針刺し事故などによる感染があります。潜伏期間は1~6カ月です。母子感染ではウイルスの保菌者(キャリア)となり、慢性化することが多く、一部は肝硬変(かんこうへん)、肝がんに進行する人もいます。
従来、わが国では健康な成人が水平感染した場合は、慢性化することはほとんどないといわれてきました。しかし、近年ジェノタイプA型という外来種のウイルスへの感染が増加傾向にあり、これに感染すると慢性化する可能性が高いといわれています。母子感染でも水平感染でも、症状がでないまま自然に治ってしまうこと(不顕性(ふけんせい)感染)が多いのですが、水平感染の20~30パーセントの人には症状が現れ、ごくまれに劇症化(劇症肝炎)する場合もあります。
最初の症状は、一見、かぜや胃腸炎を思わせるもので、徐々に全身の倦怠感(けんたいかん)、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)などがおこります。これらの症状がややおさまるころに黄疸(おうだん)が現れます。ウイルス検査によって確実な診断が下されます。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
B型肝炎ウイルスは体内に入ると、肝細胞に入り込み増殖を始めます。ただし、B型肝炎ウイルスそのものが肝細胞を壊すのではなく、入り込んだウイルスを排除しようとする免疫の働きが自分の肝細胞を攻撃してしまうために破壊されていくと考えられています。肝機能を調べる代表的な項目にAST(GOT)、ALT(GPT)がありますが、これらは肝細胞のなかに存在する酵素(こうそ)です。肝細胞が破壊されることで、血液中に流れ出すので、これらの値が高くなると、破壊が進んでいることになります。
●病気の特徴
B型肝炎のキャリアは、約100~140万人と推定されています。このうち、症状がみられるのは一部の人です。衛生意識の向上、ワクチンの普及などから、患者数は減少傾向にあります。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]安静にする
[評価]☆☆
[評価のポイント] 急性期のB型肝炎の患者さんで安静にしたことによって、治癒率が向上することを示した臨床研究は見あたりません。ただし、倦怠感が強い場合は、安静にして過ごすとよいでしょう。
[治療とケア]必要に応じて輸液を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 軽症であれば特別な薬物療法は行いません。急性期に食欲不振のため食事をとることができなければ、輸液が必要と考えられます。
[治療とケア]慢性化した場合は抗ウイルス療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] インターフェロンや核酸アナログ製剤を用いることによって、慢性B型肝炎・肝硬変の患者さんの肝臓機能が改善し、生存期間が延びることが示されています。抗ウイルス薬の選択は、最新の知見を踏まえてさまざまな条件・要因を考慮して行われます。また、インターフェロンによってB型肝炎ウイルスが減少した患者さんでは、肝臓機能が改善し、生存期間が延びることが示されています。これらのことは、臨床研究によって確認されています。(1)(2)
[治療とケア]グリチルリチン製剤を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] B型慢性肝炎によってAST(GOT)、ALT(GPT)値の異常が続く場合、グリチルリチン製剤を用いることがあります。グリチルリチン製剤の使用によって慢性B型肝炎による、ALT(GPT)値の上昇を改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。(3)
ただし、持続する肝機能異常(ALT31インターナショナルユニット/リットル以上)を認めた場合にはほかの要因とあわせて判断のうえ、先に述べた抗ウイルス療法が原則として優先されます。
急性B型肝炎に対してのグリチルリチン製剤の投与は回復を遅らせる可能性があることから投与を勧められていません。(4)
[治療とケア]ウルソデオキシコール酸を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] B型慢性肝炎の患者さんに対して、ウルソデオキシコール酸を用いることによってALT(GPT)値の上昇を改善することが臨床研究によって示されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。(5)
グリチルリチン製剤と同様、持続する肝機能異常(ALT31インターナショナルユニット/リットル以上)を認めた場合にはほかの要因とあわせて判断のうえ、先に述べた抗ウイルス療法が原則として優先されます。
[治療とケア]肝臓移植を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 激しい症状にみまわれる劇症肝炎に対して、肝臓移植が有効であるとする信頼性の高い臨床研究があります。(6)
[治療とケア]予防のため、ワクチンを接種する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] B型肝炎キャリアの母親から生まれた新生児に対して、出生直後のワクチン接種が母子感染予防に非常に有効とされます。また、家族にB型肝炎キャリアがいる人、血液や体液に触れる可能性がある医療従事者や消防士、救急隊員などは、ワクチン接種を受けることが勧められます。これらのことは、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(7)
よく使われている薬をEBMでチェック
抗ウイルス薬
[薬名]インターフェロン/ペグインターフェロン(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] インターフェロンによってB型肝炎ウイルスが減少した患者さんでは、肝臓機能が改善し生存期間が延びることが臨床研究によって示されています。
また、インターフェロンにポリエチレングリコール(ペグ)を付加し、効果の持続時間を延長し、1週あたりの注射の回数を減らしたペグインターフェロンが現在、おもに用いられています。(8)
抗ウイルス薬
[薬用途]核酸アナログ製剤
[薬名]ゼフィックス(ラミブジン)(1)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ヘプセラ(アデホビルピボキシル)(9)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]バラクルード(エンテカビル水和物)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]テノゼット(テノホビルジソプロキシルフマル酸塩)(11)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] これらの薬剤は肝機能の改善、ウイルス量の減少などの治療効果が非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。
以上の抗ウイルス薬の選択は最新の知見を踏まえてさまざまな条件・要因を考慮して行われます。
肝庇護療法薬
[薬名]強力ネオミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤)(3)
[評価]☆☆
[薬名]ウルソ(ウルソデオキシコール酸)(5)
[評価]☆☆
[評価のポイント] グリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸の使用によって、慢性B型肝炎によるALT(GPT)値の上昇が改善されることが、臨床研究によって確認されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
多くの場合、特別な治療は必要ない
B型肝炎ウイルスに感染してもすべての人に症状が現れるわけではありません。大半の人は症状が現れないまま、自然に治ってしまいます。
重症化の兆候、または激しい症状を伴う劇症肝炎とならない限り、基本的な急性B型肝炎の治療方針はA型肝炎と同様です。特別な治療は必要ありません。倦怠感が強い場合は安静にして過ごすのがよいでしょう。
肝機能異常が続けば抗ウイルス療法を
B型慢性肝炎で肝機能異常が続く場合には、核酸アナログ製剤やインターフェロンによる治療を行います。HBe抗原陰性でウイルスに感染していてもウイルス量が少なく、肝機能が正常な例(非活動性キャリア)では通常、抗ウイルス療法を行いませんが、肝臓の壊れ具合の評価の結果によっては治療を勧められることもあります。
抗ウイルス療法の選択については最新の知見を踏まえさまざまな条件・要因を考慮して行われるため、専門医とよく相談されることをお勧めします。また、核酸アナログ製剤の自己判断による中断は肝炎の急激な悪化、最悪の場合肝不全による死亡を招く場合があり、大変危険です。
肝硬変の場合は病状に応じた治療が必要
肝硬変へ進展すれば、病状に応じた治療として抗アルドステロン薬や分枝鎖アミノ酸製剤を使用したり、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)に対して内視鏡的治療、β遮断薬を使用したりします。
劇症化の場合は入院治療が必要
劇症化することが予測される兆候がみられたり、そのような血液検査結果がでたりした場合や、すでに劇症肝炎の状態であると診断されたなら、入院して積極的な治療が必要となります。現在のところ、肝移植のみが良好な結果をもたらすことが確認されている治療法と考えられます。感染症や消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)/体中に微小な血栓(けっせん)ができ、その後出血しやすくなる)、脳圧亢進(こうしん)などに対する治療を集中的に行います。
B型肝炎ウイルスの感染予防にはワクチン接種を
B型肝炎ウイルスの母子感染を防ぐには、キャリアの母親から生まれた新生児に対しては、出生後12時間以内にワクチン接種が行われます。また、家族にキャリアがいる人、血液や体液に触れる可能性がある医療従事者や消防士、救急隊員などは、ワクチン接種を受けることが勧められています。
B型肝炎ワクチン接種による抗体獲得率は年齢が若いほど高く、乳幼児期の接種ではほぼすべての人が免疫を獲得することができます。乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染するとキャリアになる確率が高いため、ワクチン接種による予防が有効です。厚生労働省はB型肝炎ワクチンを定期接種とし、2016年10月から0歳児に計3回の接種を始めることとしています。(1)Fontana RJ, Hann HW, Perrillo RP, et al. Determinants of early mortality in patients with decompensated chronic hepatitis B treated with antiviral therapy. Gastroenterology. 2002;123:719-727.
(2)Niederau C, Heintges T, Lange S, et al. Long-term follow-up of HBeAg-positive patients treated with interferon alfa for chronic hepatitis B. N Engl J Med. 1996;334:1422-1447.
(3)Miyake K, Tango T, Ota Y, et al. Efficacy of Stronger Neo-Minophagen C compared between two doses administered three times a week on patients with chronic viral hepatitis. J Gastroenterol Hepatol. 2002;17:1198-1204.
(4)Kobayashi M, Arase Y, Ikeda K, et al. Viral genotypes and response to interferon in patients with acute prolonged hepatitis B virus infection of adulthood in Japan. J Med Virol. 2002;68:522-528.
(5)Galsky J, Bansky G, Holubova T. Effect of ursodeoxycholic acid in acute viral hepatitis. J Clin Gastroenterol. 1999;28:249-253.
(6)Samuel D, Muller R, Alexander G, et al. Liver transplantation in European patients with the hepatitis B surface antigen. N Engl J Med. 1993;329:1842-1847.
(7)World Health Organization, Department of Communicable Disease Surveillance and Response. Hepatitis B (WHO/CDS/CSR/LYO/2002.2).
(8)Lau GK, Piratvisuth T, Luo KX, et al. Peginterferon Alfa-2a, lamivudine, and the combination for HBeAg-positive chronichepatitis B.N Engl J Med. 2005;352:2682-2695.
(9)Zeng M1, Mao Y, Yao GH, et al. A double-blind randomized trial of adefovir dipivoxil in Chinese subjects with HBeAg-positive chronic hepatitis B.Hepatology. 2006;44:108-116.
(10)Chang TT, Gish RG, de Man R, et al. A comparison of entecavir and lamivudine for HBeAg-positive chronic hepatitis B.N Engl J Med. 2006;354:1001-1010.
(11)Marcellin P, Heathcote EJ, Buti M, et al. Tenofovir disoproxil fumarate versus adefovir dipivoxil for chronic hepatitis B.N Engl J Med. 2008;359:2442-2455.120