かぜ症候群

EBM 正しい治療がわかる本 「かぜ症候群」の解説

かぜ症候群

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 鼻腔(びくう)、口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)などの上気道の粘膜にウイルスが感染し、急性の炎症をおこしている状態をかぜ症候群といいます。
 のどが痛かったり、せきがでたりすると、子どもからお年寄りまで一般的に「かぜをひいた」と日常的に表現するほど、かぜは非常にありふれた病気です。
 せき、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、発熱、全身の倦怠感(けんたいかん)、頭痛などの症状に加え、ときとして下痢(げり)や吐き気といった消化器症状がみられることもあり、症状は多様です。
 本来、かぜそのものは経過が良好で、そのまま放置しておいてもほとんどが1週間くらいで自然に治ってしまいます。ただし、かぜに似た症状で始まるほかの病気や、かぜが直接、あるいは間接の原因やきっかけとなって発病する重い病気もありますので、注意が必要です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 原因となるウイルスは数百種類にもおよび、一度に複数のウイルスに感染する場合もあります。かぜの原因ウイルスを特定することは難しく、また、特定したとしてもそれに直接効く薬はないので、それぞれの症状を抑えることが治療の目的となります。
 ウイルスはせきやくしゃみによって飛散し、このとき近くにいた人の鼻やのどに付着します。およそ20分間で細胞のなかに入りこみ増殖して、18~20時間でウイルスの量はピークに達します。その時点で、本人の感染防御機能が正常かどうかによって、発病するかしないかが決まります。

●病気の特徴
 一般家庭の疾患調査によると、かぜは疾患全体の3分の2を占め、一人平均1年に、成人で2~3回、小児で7回かぜをひくといわれています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]薬によって各種の症状を抑える
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] かぜの症状に対する抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬(ちんがいやく)、抗コリン薬、充血改善薬、解熱鎮痛薬の有効性が複数の臨床研究で確認されています。これらは非常に信頼性の高い臨床研究です。(1)~(8)

[治療とケア]まだ鼻のかめない乳幼児では保護者などが鼻汁(びじゅう)を取り除くようにする
[評価]☆☆
[評価のポイント] 日常診療での観察と経験から、当然有効であるとほとんどの医師は考えています。

[治療とケア]ビタミンCを摂取する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ビタミンCを常用している人ではかぜ症状の期間が短いとする臨床研究がありますが、かぜにかかってからビタミンCを服用してもかぜの症状の程度や持続期間には影響をおよぼさないという結果がでています。同じ研究のなかで、かぜの予防効果について検討されていますが、予防効果はほとんどないと報告されています。(9)

[治療とケア]消化のよい食べ物で栄養をとる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 患者さんの体力を増すことから専門家によって支持されています。

[治療とケア]安静にする
[評価]☆☆
[評価のポイント] 治療上当然有効と考えられています。

[治療とケア]水分を十分にとる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 治療上当然有効と考えられています。

[治療とケア]空気が乾燥している場合は加湿する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 蒸気(じょうき)吸入が症状の緩和、とくに鼻閉(びへい)に有効であるという信頼性の高い臨床研究があります。(10)

[治療とケア]外から帰ったらうがい、手洗いをする
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] かぜウイルスは手の接触でも感染します。ヨウ素溶液で手を洗った群の感染率が低かったという信頼性の高い臨床研究があります。(11)

[治療とケア]人混みへの外出を避ける
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] かぜウイルスは飛沫(ひまつ)感染もします。かぜの患者さんと同じ部屋にいるだけで56パーセントの人が感染したという信頼性の高い研究もあります。(12)

[治療とケア]熱のある場合でも入浴できる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 子どものかぜ患者さんの入浴について、アンケート調査した研究があります。保護者はふだんと変わらない方法で風呂に入れる:14パーセント、入れ方を変えて風呂に入れる:40パーセント、入れない:46パーセント。一方、医師は入浴許可:4パーセント、条件付入浴許可:84パーセント、禁止:12パーセント。入浴の有無で比較したところ、症状に影響はありませんでした。微熱なら全身状態がよければ入浴してもあまり問題はないようです。(13)

[治療とケア]寒気があるときは体を温める
[評価]☆☆
[評価のポイント] 専門家の意見や経験から治療上当然有効と考えられています。

[治療とケア]熱が上がって体が熱くなったときは着衣や布団を薄めにして熱を逃がすようにする
[評価]☆☆
[評価のポイント] 科学的な方法を用いた臨床研究によって効果が確認されているわけではありませんが、患者さん自身がもっとも楽に感じる対応であれば、そうすることが適切と考えられます。


よく使われている薬をEBMでチェック

くしゃみ、鼻水、鼻づまりが強いとき
[薬用途]非ピリン系感冒薬
[薬名]PL顆粒
[評価]☆☆
[薬用途]気管支拡張薬
[薬名]アトロベントエロゾル(イプラトロピウム臭化物水和物)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]抗アレルギー薬
[薬名]インタールクロモグリク酸ナトリウム)(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]抗ヒスタミン薬
[薬名]レスタミンコーワ(ジフェンヒドラミン塩酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]タベジール(クレマスチンフマル酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆

[評価のポイント]イプラトロピウム臭化物水和物、クロモグリク酸ナトリウム、ジフェンヒドラミン塩酸塩、クレマスチンフマル酸塩については、非常に信頼性の高い臨床研究によって鼻水、くしゃみ、のどの痛み、せきなどのかぜ症状に効果があると確認されています。また、非ピリン系感冒薬(PL顆粒)については、専門家の意見や経験から支持されています。

せきが激しいとき
[薬用途]鎮咳薬
[薬名]メジコン(デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]リン酸コデイン(コデインリン酸塩水和物)
[評価]☆☆
[薬用途]去痰(きょたん)薬
[薬名]フストジル(グアイフェネシン)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬用途]抗炎症薬
[薬名]ブルフェン(イブプロフェン
[評価]☆☆
[薬用途]消炎酵素
[薬名]ノイチーム/レフトーゼ(リゾチーム塩酸塩
[評価]☆☆
[評価のポイント] デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、グアイフェネシンについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。また、イブプロフェン、リゾチーム塩酸塩については、専門家の意見や経験から支持されています。

ねっとりした痰がでるとき
[薬用途]去痰薬
[薬名]ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩
[評価]☆☆
[薬用途]抗菌薬(14)
[評価]★→
[評価のポイント] アンブロキソール塩酸塩については、専門家の意見や経験から支持されています。
 また、抗菌薬は気管支炎などの合併症がなければ使用されません。

せき、鼻汁などの症状を抑える薬(子どもによく使われている薬)
[薬用途]鎮咳薬
[薬名]アスベリン(チペピジンヒベンズ酸塩
[評価]☆☆
[薬用途]抗ヒスタミン薬(抗炎症薬)
[薬名]ペリアクチン(シプロヘプタジン塩酸塩水和物)
[評価]☆☆
[薬用途]去痰薬
[薬名]ムコダイン(カルボシステイン
[評価]☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も症状を緩和させる効果について、専門家の意見や経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
かぜの原因はウイルス感染
 かぜは鼻腔、口腔、咽頭、喉頭などの上気道の粘膜にウイルスが感染することによって急性の炎症となり、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、発熱、全身のだるさ、頭痛、下痢、吐き気といったさまざまな症状を引きおこす病気です。

原因ウイルスは数百種類ある
 かぜの原因となるウイルスは数百種類にもおよびます。また、一度に複数のウイルスに感染する場合もあります。こうしたことから、かぜの原因ウイルスを特定することは非常に困難です。
 しかも、かぜの原因となっているウイルスを特定できたとしても、ウイルスそのものを死滅させたり排除したりする治療法は、現在のところありません。

症状に応じて対症療法を
 かぜの症状を緩和したり、症状の持続期間を短縮したりするために、症状に応じて抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、抗コリン薬などが使用されています。このような対症療法を行うかどうかは、症状によるつらさと薬物によって副作用がおこる可能性との兼ね合いで判断します。

抗菌薬は効果がない
 抗菌薬については、ウイルス感染に合併しやすいと考えられている細菌感染を予防したり治療したりするとの理由でしばしば用いられます。しかし、信頼性の高い臨床研究(ランダム化比較試験)を6個まとめた分析では、合計1047人の患者さんについて、自覚症状は統計的に意味があるほど明らかには改善せず、副作用(吐き気や下痢、発疹など)の可能性は成人で2.6倍になると報告されています。(14)

リスクの高い人のみ抗菌薬を使用
 したがって、もともと心臓や肺の病気のある患者さんやお年寄りなど、万が一細菌感染があるとただちに生命にかかわる状態になりうる場合を除けば、抗菌薬の使用は勧められません。

(1)AlBalawi ZH, Othman SS, Alfaleh K. Intranasal ipratropium bromide for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD008231.
(2)Hayden FG, Diamond L, Wood PB, et al. Effectiveness and safety of intranasal ipratropium bromide in common colds. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med. 1996;125:89-97.
(3)Aberg N, Aberg B, Alestig K. The effect of inhaled and intranasal sodium cromoglycate on symptoms of upper respiratory tract infections. ClinExp Allergy. 1996;26:1045-1050.
(4)Sutter AI, Lemiengre M, Campbell H, Mackinnon HF. Antihistamines for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2003; :CD001267.
(5)Pavesi L, Subburaj S, Porter-Shaw K. Application and validation of a computerized cough acquisition system for objective monitoring of acute cough: a meta-analysis. Chest 2001; 120:1121.
(6)Taverner D, Latte J. Nasal decongestants for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2007; :CD001953.
(7)Bachert C, Chuchalin AG, Eisebitt R, et al. Aspirin compared with acetaminophen in the treatment of fever and other symptoms of upper respiratory tract infection in adults: a multicenter, randomized, double-blind, double-dummy, placebo-controlled, parallel-group, single-dose, 6-hour dose-ranging study. Clin Ther 2005; 27:993.
(8)Kim SY, Chang YJ, Cho HM, et al. Non-steroidal anti-inflammatory drugs for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD006362.
(9)Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 1:CD000980.
(10)Singh M, Singh M. Heated, humidified air for the common cold. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD001728.
(11)Hendley JO, Gwaltney JM Jr. Mechanisms of transmission of rhinovirus infections. Epidemiol Rev. 1988;10:243-258.
(12)Dick EC, Jennings LC, Mink KA, et al. Aerosol transmission of rhinovirus colds. J Infect Dis. 1987;156:442-448.
(13)Okayama M, Igarashi M, Ohno S, et al. Japanese paediatricians' judgement of the appropriateness of bathing for children with colds. Fam Pract. 2000;17:334-336.
(14)Kenealy T, Arroll B. Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis. Cochrane Database Syst Rev 2013; 6:CD000247.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「かぜ症候群」の意味・わかりやすい解説

かぜ症候群
かぜしょうこうぐん

鼻、のど、気管支などの呼吸器粘膜の急性炎症性疾患を総括したもので、炎症はいろいろな病因によっておこるが、いずれにしても臨床症状および経過に共通点が多く、臨床的にはその病因まで推測しえないので、いくつかの病型を一括して「かぜ症候群」として扱われることが多い。

 いわゆる「かぜ」は風邪とも書き、邪気を含んだ風の意で、古来、その風が通過する部位、すなわち呼吸器系疾患の総称として使われてきた。また、寒冷刺激によるものを寒冒、さらに細菌感染が加わったものを感冒、ウイルスによるものをインフルエンザと使い分けたこともあったが、現在は使われない。すなわち、寒冷刺激だけで発病することはほとんどなく、なんらかの病原の感染によっておこるほか、病原としてはウイルス、マイコプラズマ、クラミジア(オウム病病原体)、細菌などがあり、かぜ症候群の80~90%がいろいろなウイルスによることもわかり、使い分けの意味を失った。

 一般にかぜ症候群は、ときに合併症(肺炎、中耳炎、副鼻腔(ふくびくう)炎など)をおこすが、これさえなければ1週間ぐらいで自然治癒する傾向が強い。したがって、かぜの症状が2週間も続く場合は、別の疾患を疑ってみる必要がある。また、症状は同じようでも異なる病原ウイルスによる「ひきなおし」のため長引くこともある。

 なお、病原ウイルスの診断は容易でなく、それが確認されるころには治癒している場合が多く、また有効な抗ウイルス剤もないので、臨床的には鼻炎(普通感冒)、咽頭(いんとう)炎、咽頭結膜熱、喉頭(こうとう)炎、気管支炎、肺炎など、部位別の炎症名でよばれている。

[柳下徳雄]

症状

かぜの症状は、くしゃみ、鼻汁、鼻閉(鼻づまり)、咽頭痛、嗄声(させい)(かれ声)、咳(せき)、痰(たん)などの呼吸器症状を主にして、発熱、頭痛、腰痛、倦怠感(けんたいかん)などの全身症状や、食欲不振、悪心、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの消化器症状を伴うことがある。病原が異なっていても症状には共通点が多く、とくにかぜ症候群にみられるといった症状や病原による特徴的な症状もない。しかし、詳細に観察すれば、冒された部位によって特徴がみられ、いくつかの病型に分類することもできる。

(1)鼻が冒された場合 いわゆる「鼻かぜ」であり、病型的には普通感冒とよばれる。現在では単に「かぜ」といえば、これをさす。約1週間、急性鼻炎の症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉など)が顕著であり、ほかに咽頭痛や咳などの呼吸器症状、発熱や倦怠感などの全身症状があっても、いずれも軽度のものである。

(2)咽頭が冒された場合 俗に「のどかぜ」とよばれるもので、病型的には咽頭炎である。咽頭粘膜が赤くなり、乾燥していがらっぽく、咳も出る。発熱や頭痛などもみられるが、咽頭痛をもっとも強く訴える。軽症の場合から重症例までいろいろあるが、特徴的な咽頭所見を呈するもの(おもにコクサッキーウイルスによるヘルパンギーナなど)もある。

(3)扁桃(へんとう)が冒された場合 扁桃が赤く腫(は)れたり、白い膿(のう)が付着して激しくのどが痛む。高熱を出し、全身の関節痛や筋肉痛、頭痛や腰痛などがみられるが、咳は出ない。病原は連鎖球菌の場合が多く、症状もやや特異であり、扁桃炎として別に扱われることもある。

(4)喉頭が冒された場合 鼻炎や咽頭炎に続発することが多く、声を出す部分が冒されるので声がかれ、ときには声が出なくなることさえある。小児では呼吸困難をおこすことが多く、イヌの遠ぼえのような咳をする。病型的にはクループとよばれ、熱はないか、あっても軽く、全身症状も同様である。

(5)咽頭結膜熱 のどと目が冒されるのが特徴で、発熱、だるさ、頭痛、鼻汁、咳などのほか、咽頭炎によるのどの痛みと、目の結膜炎をおこすことが、ほかの病型と異なる。病原はアデノウイルスで、アデノウイルス感染症として別に扱われることもある。

(6)気管支や肺が冒された場合 ともに咳や痰が出るほか、呼吸困難や胸痛、発熱などがみられる。原因が細菌性の肺炎では、抗生物質が有効であり、クラミジア肺炎(オウム病)やマイコプラズマ肺炎にも有効な抗生物質がある。ウイルスによる肺炎は、咳が激しいほかは一般に軽症で、かぜとして扱われる場合が多い。X線検査で診断される。気管支炎も、小児の場合は毛細気管支炎になり、重症の経過をとることもある。

(7)インフルエンザ 呼吸器症状のほか、高熱、頭痛、腰痛など全身症状が顕著で重症が多く、また伝染性が強いことが特徴である。

[柳下徳雄]

治療と予防

病原がウイルスであることが多いので、治療はもっぱら対症療法に終始する。初期ならば温かい飲食物をとって早く就寝し、安静を守るのがもっともたいせつである。市販のかぜ薬は抗ヒスタミン剤や解熱鎮痛剤が主で、一時的に症状を軽減させるが、かぜ症候群は薬で治るものではない。約1週間で自然治癒することが多いが、合併症をおこさないように安静にし、長引く傾向がみられたり、熱が高くなった場合は、医師の診療を受けることが望ましい。

 予防としては、インフルエンザ以外は予防ワクチンがないので、一般的には、誘因となる過労や寝不足を避け、うたた寝や入浴後の湯冷めなどをしないようにする一方、普段から乾布摩擦などで皮膚を鍛えておくのもよい。

[柳下徳雄]

かぜの病原ウイルス

50種にも上るが、おもなものはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルスrespiratory syncytial virusおよびライノウイルスrhino virusであり、そのほかエコーウイルスコロナウイルス、コクサッキーウイルスのある種の型やパラインフルエンザウイルスなどがあげられる。ただし、一般に、伝染病の場合は腸チフス菌は腸チフスをおこすというように病原体と症状(病名)が対応するのが普通であるが、かぜの場合はかならずしも対応するとは限らない。たとえば、ライノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルスなど多くの病原ウイルスが同じようなかぜの症状(普通感冒)をおこすが、そのうちのアデノウイルスだけは咽頭結膜熱や肺炎をおこすこともある。また、インフルエンザウイルスはインフルエンザをおこすが、アデノウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルスでもインフルエンザと類似した症状を呈し(インフルエンザ様疾患)、その症状からは区別できないことがある。

[柳下徳雄]

『加地正郎編『内科シリーズ33 かぜ症候群のすべて』(1978・南江堂)』


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内科学 第10版 「かぜ症候群」の解説

かぜ症候群(感染症)

概念・定義
かぜ症候群とはおもにウイルスなどによって起こる上気道の急性炎症であり,咳,咽頭痛,鼻汁,鼻づまりなど局部症状(カタル症状),および発熱,倦怠感,頭痛など全身症状が出現した状態のことである.病因は80~90%はウイルスによるものとされる.かぜ症候群は,病因は異なっていてもその臨床像には共通点が多いが,インフルエンザはより重症で感染性も強く診断と治療に特別な対応が必要である.
分類
1)インフルエンザ:
突然に発症し,38~39℃以上の発熱,頭痛,倦怠感,関節炎などの全身症状を強く訴え,呼吸器症状や消化器症状がみられる.合併症を伴わない限り,1週間前後で軽快する.
2)普通感冒:
鼻炎症状が主体で,全身症状はほとんどない軽症の型で,かぜ症候群の中で最も普遍的なものである.
3)咽頭炎:
咽頭痛を主症状とし,咽頭粘膜の発赤,腫脹,灰白色の滲出物を認め,頸部リンパ節は腫脹し圧痛を伴う.
原因・病因
 インフルエンザウイルス以外にライノウイルス,コロナウイルス,アデノウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,エンテロウイルス(コクサッキー,エコー)がある.
疫学
インフルエンザのわが国での発生は,毎年11月下旬〜12月上旬頃から始まり,翌年の1~3月頃にそのピークを迎え,4~5月にかけて終息する.インフルエンザウイルスは変異を繰り返しながら流行するのが特徴であり,いままでのおもなパンデミック(世界的な流行)として,1918年のスペインかぜ(H1N1,世界で約4000万人,わが国で約39万人が死亡),1957年のアジアかぜ(H2N2),1968年の香港かぜ(H3N2/HongKong),1977年のソ連かぜ(H1N1/USSR),そして2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)がある.
臨床症状
1)自覚症状:
くしゃみ,鼻汁,鼻閉,咽頭痛,嗄声,咳,痰などの呼吸器症状とともに,さまざまな全身症状,すなわち発熱,全身倦怠感,食欲不振,頭痛,腰痛なども訴える.その他,悪寒,嘔吐,腹痛,下痢などの消化器症状を伴うこともある.
2)他覚症状:
上気道粘膜の発赤,腫脹,粘液分泌亢進などを認める. インフルエンザでは突然に発症し,38~39℃以上の発熱,頭痛,倦怠感,関節炎などの全身症状を強く訴え,呼吸器症状や消化器症状がみられる.
検査成績
1)一般検査所見:
①血液検査ではほとんど異常を認めず,あっても赤沈の軽度亢進,CRP軽度陽性などの炎症所見が得られるが,WBCはほぼ正常範囲にある.②胸部X線では異常を認めない.陰影が出現した場合は単独あるいは合併した肺炎を考える.
2)特殊検査所見:
1)ウイルスの分離:
咽頭拭い液,うがい液,痰などを材料として,ウイルスの分離を試みる.通常は行わない.
2)血清学的検査:
急性期,回復期に採取したペア血清について,赤血球凝集抑制試験,補体結合試験などにより特異抗体価を測定する.通常は行わない.
3)インフルエンザ迅速検査:
約20分以内に結果が出るインフルエンザ抗原検出キットがあり,A型とB型が同時に判定できる.一般に鼻腔拭い液のほうが咽頭拭い液より感度にすぐれる.またA型のほうがB型より感度が高く,小児のほうがウイルス量が多いため感度は高い.また発症からの時間では24~48時間が最も高く約80%である.
4)遺伝子検査:
必要に応じて咽頭拭い液を材料にし,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法を用いてウイルスゲノムを検出する.
診断
 通常は,臨床症状と経過から診断することが多い.インフルエンザが疑われる場合は迅速検査を行う.
鑑別診断・合併症
1)溶血連鎖球菌などの細菌性上気道炎:
急性扁桃炎,急性喉頭蓋炎など:高熱,強い咽頭痛,扁桃の所見,気道閉塞症状(喘鳴など)から疑う.
2)急性気管支炎,気管支肺炎,肺炎:
咳,痰とくに膿性痰や呼吸困難,聴診上のcracklesなどから疑い,胸部X線検査から診断する.また合併症としても重要である.
経過・予後
 かぜ症候群は自然に寛解することが特徴であるが,細菌による二次感染に注意する.その他副鼻腔炎,中耳炎,心筋炎,心膜炎,脳症,神経炎などの合併症も念頭におく必要がある.
 インフルエンザも合併症を伴わない限り,1週間前後で軽快する.季節性インフルエンザの感染者数は,国内で推定約1000万人であり,死亡者数では,年間214人(2001年)~1818人(2005年),2010年流行期の日本における新型インフルエンザによる死亡者数は57人であった(厚生労働省).
治療・予防・リハビリテーション
①かぜ症候群では通常は,安静を主体とした対症療法が治療の中心である.大部分がウイルス感染であり,基本的に抗生物質は使用しない.鎮痛解熱薬の安易な使用は腎機能障害などの危険があり,幼児や高齢者では慎重にする.②インフルエンザ:抗ウイルス剤による治療がある.現在使用可能な薬剤は,ザナミビル(リレンザ),オセルタミビル(タミフル),ペラミビル(ラピアクタ),ラニナミビル(イナビル)である.③細菌性肺炎などの合併が疑われるときは感受性の期待できる抗菌薬を用いる.④予防方法(予防接種):インフルエンザウイルス以外は実用化されていない.
 現在はA型のH3N2とH1N1およびB型の3種のインフルエンザウイルスが,世界中で共通した流行株となっているので,原則としてインフルエンザワクチンはこの3種類の混合ワクチンとなっている.
禁忌
 インフルエンザのとき,乳幼児のアスピリンなどの酸性解熱薬の服用は,脳炎,脳症の危険性が高まるとされ禁忌である.また,オセルタミビルは未成年服用者の異常行動例が報告され,因果関係は不明なものの,厚生労働省の通達により,10代患者への投与は事実上の禁忌とされている.[滝澤 始]
■文献
今冬のインフルエンザの発生動向~医療従事者向け疫学情報~ver.1 in 2011 厚生労働省(新型インフルエンザ対策推進本部/国立感染症研究所),2011.
日本感染症学会:日本感染症学会提言「抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版)」.日本感染症学会,http://www.kansensho.or.jp/ ,2011.
日本呼吸器学会:呼吸器感染症に関するガイドライン,成人気道感染症診療の基本的考え方,2003.

かぜ症候群(ウイルス感染症)

(2)かぜ症候群(common cold syndrome)
概念
 かぜ症候群とは,気道の急性カタル性炎症性疾患の総称であり,呼吸器感染症のなかでは最も頻度が高い疾患である.1年間に成人では平均2〜4回,小児ではその倍以上の回数,罹患するといわれている.狭義には,主として鼻腔および咽喉頭などの上気道における急性炎症性疾患である普通感冒(common cold)とほぼ同義的に用いられているが,広義には,咳・痰などの下気道炎症状や,悪心・腹痛・下痢などの消化器症状を含めた全身性の症候群であるといえる.
病因
 かぜ症候群は病原微生物の感染によって起こり,そのうち80〜90%はウイルスが,残りは一般細菌やマイコプラズマ,クラミジアなどが原因となる.寒冷,乾燥などの環境因子や,アレルギー,疲労,喫煙,免疫不全などの個体因子は,ウイルス感染の誘因としてかぜ症候群の発症に関与すると考えられている.
 かぜ症候群を引き起こすウイルスのうち,最も頻度が高いのはライノウイルスで全体の約半数(30〜50%)を占めている.ついで,コロナウイルス(10〜15%),インフルエンザウイルス(5〜15%),RSウイルス(5%),パラインフルエンザウイルス(5%)などが多く,ほかに,アデノウイルス,メタニューモウイルス,コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス,などが原因となる.季節的には,ライノウイルスは春と秋に,エンテロウイルスは夏に,コロナウイルス,インフルエンザウイルス,RSウイルスなどは冬から初春にかけて流行する.
臨床症状
 潜伏期間はウイルスによって若干異なるが,通常は12〜72時間である.主症状は,鼻汁,鼻閉,くしゃみ,咽頭痛(咽頭不快感)および咳である.頭痛や全身倦怠感を伴うことも少なくない.小児,特に乳幼児においては高熱を呈する場合もあるが,成人においてはインフルエンザの場合を除いて発熱は37℃台程度であることが多い.他覚的には鼻咽頭粘膜に発赤腫脹がみられる.ウイルスの種類によっては,悪心や下痢などの消化器症状がみられたり,細菌感染の合併がなくとも膿性の鼻汁や痰,膿栓や白苔を伴う咽頭痛がみられたりすることがある.通常,これらの症状はおよそ1週間の経過で自然に軽快するが,個体の状態によっては症状が遷延したり,気管支炎や肺炎などの下気道炎へと進展して喘鳴や呼吸困難がみられたりする場合がある.
診断
 特異的な一般臨床検査所見はない.インフルエンザウイルスおよび小児のRSウイルス感染症に対しては抗原検出簡易迅速診断キットが有用である.ウイルス分離やPCR法などによる核酸検出,血清抗体価測定などは日常臨床で利用されることは少ない.
治療・予防
 ウイルス性の場合,インフルエンザを除いて特異的な治療薬はなく,対症療法のみとなる.細菌による二次感染(副鼻腔炎・中耳炎など)がみられた場合には抗菌薬の投与を考慮する.予防に関しては,おもな感染経路は手指を介した接触感染や,くしゃみや咳による飛沫感染であるため,手洗いやマスクの着用が有用である.[藤井 毅]
■文献
Heikkinen T, Jarvinen A: The common cold. Lancet, 361: 51-59, 2003.
Turner RB: The common cold. In: Principles and Practice of Infectious Disease 7th ed (Mandell GD ed), pp809-813, Churchill Livingstone, New York, 2010.
Wat D: The common cold : a review of the literature. Eur J Intern Med, 15: 79-88, 2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「かぜ症候群」の解説

かぜ症候群
かぜしょうこうぐん
Common cold syndrome
(感染症)

どんな感染症か

 (せき)、鼻水、くしゃみを主症状とする上気道感染症で、発熱、咽頭痛(いんとうつう)、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲低下などを伴う場合があります。80~90%はウイルスが原因です。通常は数日の経過で自然に治り、予後は良好です。乳幼児では一般にかかる頻度が高く、発熱を伴う頻度も高くなります。

 ほとんどは呼吸器系のウイルス感染によるもので、原因ウイルスとしてはアデノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなどがあげられます。

 しかし、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス感染症については、年齢によって特徴的な症状を認めるので、これら以外の感染症、あるいはこれらのウイルス感染症であっても非典型的な臨床経過をとるものが、かぜ症候群としてとらえられていることが多いと考えます。

 二次感染としては、インフルエンザ桿菌(かんきん)、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などが主なものです。

症状の現れ方

 小児では発熱、年長児~成人ではのどの痛みで始まり、咳、鼻水、くしゃみ、全身倦怠感、食欲低下などが多く認められます。二次感染を併発しなければ、通常、1週間以内に治ります。

検査と診断

 診断は通常、臨床症状と診察所見によって行われます。

 発熱が長く続く、(たん)の絡んだ咳が続く、膿性の鼻汁があるといった症状を認めた場合は、細菌の二次感染あるいは他の疾患が疑われます。その場合、症状によっては血液検査や胸部のX線検査が必要になる場合もあります。

 ほかに鑑別を必要とする疾患として、アレルギー性鼻炎気管支喘息(ぜんそく)などがあります。

治療の方法

 特異的な治療法がないので、対症療法(発熱があれば解熱薬、咳がひどい場合は鎮咳去痰薬(ちんがいきょたんやく)、鼻水がひどい場合は抗ヒスタミン薬の投与など)のみとなります。数日間十分な栄養をとって、安静にしていることが大切です。

 「かぜは万病の元」ともいわれますが、とくに小児や高齢者では細菌の二次感染を併発する場合もあるので、かかりつけ医を受診することが必要です。その他の疾患を併発しなければ、予後は良好です。

病気に気づいたらどうする

 成人では安静と対症療法で軽快することがほとんどですが、小児や高齢者では「ただのかぜ」と(あなど)らずに、かかりつけの内科あるいは小児科を受診してください。予防は普段からのうがい、手洗いの励行が重要です。

多屋 馨子

かぜ症候群
かぜしょうこうぐん
Common cold syndrome
(子どもの病気)

どんな病気か

 発熱、鼻みず、(せき)、時に下痢などの胃腸症状を伴う病気で、さまざまな種類のかぜウイルスが原因です。かぜウイルスの種類は無数にあるので、1回かかったらもうかからないというわけにはいきません。何回でもかかります。

 よく、「赤ちゃんはお母さんの免疫があるから、かぜをひかない」という言葉を聞きますが、間違いです。なぜならば、お母さん自身もかぜをひきます。そのお母さんの免疫をもらうのですから、赤ちゃんもかぜをひいて当然です。赤ちゃんがかかりにくいのは、はしか麻疹(ましん))など、通常1回かかればもうかからないと考えられている病気に限られます。

 ただし、3カ月未満の赤ちゃんの場合、かぜであってもこじらせやすかったり、かぜと思っていたら別の病気だったりすることもあります。そのような場合は、何日も自宅で様子をみるのではなく、病院を受診することをすすめます。

検査と診断

 かぜを証明する検査はありません。問診や診察を行って、他の悪い病気ではなさそうだと判断できればかぜと診断します。しかし、前述したように、かぜであれば数日で治るはずですから、治らない場合はこじらせてしまっていたり、別の病気である可能性があります。病院への受診をすすめます。

治療の方法

 まずは安静と睡眠、そして十分な栄養をとることです。かぜに抗生剤は不要です。また、かぜ薬といわれるものは症状を和らげる薬なので、症状が激しい場合は使用しても構いませんが、かぜ薬をのんだからといって、早く治ることはありません。

 解熱薬は、発熱を一時的に和らげてくれます。しかし、発熱はウイルスを排除しようとする自分の免疫反応ですから、無理に下げようとして、薬を飲みすぎるのもよくありません。

 しかし、高熱でぐったりしている、食事もとれない、眠れないなどの状態であれば、体力の消耗につながるので、医師の指示どおりに解熱薬を使いましょう。高熱の場合は、たとえば40℃が39℃程度に1時間くらい下がっただけで、また高熱になることもよくありますが、強い解熱薬の使用は脳炎や脳症になる率を高めます。

 小児ではアセトアミノフェン(アンヒバ、カロナールなど)という、安全な解熱薬を使うことをすすめます。

是松 聖悟

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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