鼓膜損傷(読み)こまくそんしょう(英語表記)Perforated eardrum

六訂版 家庭医学大全科 「鼓膜損傷」の解説

鼓膜損傷
こまくそんしょう
Perforated eardrum
(外傷)

どんな外傷か

 鼓膜がいろいろな外傷により穿孔(せんこう)(あな)があくこと)を起こした状態をいいます(図20)。

原因は何か

 頭部外傷爆風平手打ち、耳かきやマッチ棒による耳掃除などによって起こります。耳掃除の最中、手に何か(子どもなど)がぶつかったりして起こることが多いのです。

症状の現れ方

 耳痛、耳鳴り難聴などが起こります。感染が起これば数日後に耳漏(じろう)が出ます。鼓膜穿孔の大きさ、部位により難聴の程度が異なります。

 これに加えて鼓膜の内側についている耳小骨の連結にも異常があれば、難聴の程度も強く、めまいを伴うこともあります。めまいは内耳とつながっているアブミ骨脱臼(だっきゅう)が起こり、蝸牛(かぎゅう)の外リンパ液が漏れているため(外リンパ瘻(ろう)という)に起こります。耳かきなどの耳のなかでの方向によっては、顔面神経麻痺も起こります。

 頭部外傷による頭蓋底骨折では髄液(ずいえき)が耳管を通り鼻に流れてきたり、鼓膜穿孔から耳漏のように流れてくることもあります。

検査と診断

 鼓膜穿孔の診断は額帯鏡(がくたいきょう)、オトスコープ、顕微鏡ファイバースコープにより容易です。聴力検査により難聴の程度、内耳障害の有無、耳小骨(じしょうこつ)連鎖の離断が予測できます。めまいがあれば外リンパ瘻を疑って平衡機能検査を行います。

治療の方法

 感染を起こして耳漏があれば、アミノ配糖体を含まない抗生剤の点耳薬、内服薬を数日服用します。耳漏がなければ鼓膜の穿孔を和紙(たばこの紙)などでふさぎます。1~2週ごとに紙のずれや穿孔の大きさを検査します。

 外傷から時間がたっている場合、顕微鏡を使って鼓膜の穿孔縁を処置したのち、3Mテープ、キチン膜、コラーゲンシートなどで閉じます。

 穿孔が大きいと閉じにくいので、これらの処置でもふさがらない場合は、自分の組織(耳後部の筋膜や結合組織)をフィブリン糊で接着する方法があります。

 外来あるいは短期入院で手術ができます。

神﨑 仁


鼓膜損傷
こまくそんしょう
Perforated eardrum
(耳の病気)

どんな損傷か

 鼓膜は、皮膚、結合織(けつごうしき)の線維層、粘膜の3層からなる丈夫な膜で、空気の振動を、人体で最も小さい骨である耳小骨(じしょうこつ)を介して内耳に伝えます。この鼓膜に、綿棒などで外力が直接加わり傷をつけたり、気圧変動などを介して間接的に傷がついた状態が鼓膜損傷です。

原因は何か

 耳かきや綿棒による耳そうじ関連のものが半数弱です。とくに、耳そうじ中に子どもやペットがぶつかり、耳を突くことが多いので気をつけてください。

 次いで、びんたなど殴打によるものが約30%、ボールをぶつけるなどスポーツ関連の事故が約20%です。男性にやや多く(60%強)、10~20代が大半です。

症状の現れ方

 症状は損傷の大きさにもよりますが、穿孔(せんこう)(穴)が大きければ、難聴、耳痛を伴うことが多く、耳の詰まった感じ、出血がこれに次ぎます。耳かきなどが深く入り、耳小骨を骨折したり、位置がずれたりすると、時に内耳にも障害が起き、難聴(なんちょう)めまい耳鳴りが起きます。

検査と診断

 内耳に障害がある場合には聴力検査を行い、難聴の程度や性質を精密検査する必要があります。高度難聴が生じている場合は、CT検査で、骨折、変位、出血の有無などを調べる必要があります。

治療の方法

 受傷直後で耳だれなどがなければ、出血などをきれいに清掃するのみで、とくに処置せず、感染予防の抗生剤も必要ありません。

 穿孔周囲の鼓膜が折れて重なっているようなら、自然には治りにくいので、顕微鏡で見ながら元の位置にもどしておきます。めまいなどの症状から内耳障害が疑われる時は、副腎皮質ステロイド薬を併用する必要があります。もし感染が生じて耳だれが出ている場合は、耳鼻科で局所清掃、点耳、抗菌薬投与などの処置を受けてください。

 3~4週たっても小さくならない場合は、硝酸銀(しょうさんぎん)などの薬品で穿孔の周辺を処置し、鼓膜に和紙などを張って治癒を促すことがあります。このような治療で、90%以上は自然に穿孔が閉鎖します。

 3カ月待っても閉鎖しない時は、鼓膜形成術を行います。耳小骨に異常がなければ、手術は外来で行うことも可能です。

菅澤 正

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報