館(たて)(読み)たて

日本大百科全書(ニッポニカ) 「館(たて)」の意味・わかりやすい解説

館(たて)
たて

「やかた」「たち」とも読むが、東北地方津軽(つがる)海峡を隔てた渡島(おしま)半島に濃密に分布する居館址(し)については「たて」とよぶ。中世の津軽に関する文書には「石川」「尻八楯(しりはち)」などとあって「たて」と呼称していたことがわかる。「たて」は自然の地形を利用し、土塁や壕(ほり)などを設け、とりでといったたたずまいであるが、かならずしも戦闘、防衛にのみ用いられた施設ではない。中国産陶磁器や日用雑器類などの中世陶器の出土から、日常的居館と思われる「たて」も多い。

 岩手県北上(きたかみ)市鬼柳(おにやなぎ)町所在の「鹿島(かしま)館」は、北上川の支流和賀(わが)川に臨む、比高20メートルの台地端にある。土塁や濠で6個の郭(くるわ)、谷を隔てて1個の郭、合計7個の郭で構成された多郭連続形式の「たて」である。平坦(へいたん)部分より建物跡を示すたくさんの柱穴とともに中世陶磁器片が出土し、15世紀ごろの地方豪族の居館址と推定されている。青森市後方(うしろがた)所在の「尻八館」は、陸奥(むつ)湾に面する標高182メートルほどの尾根に沿って2個の郭が構築されている山城(やまじろ)形式の「たて」であって、防衛的施設としての機能を十分に果たしている。郭内および周辺より、14~15世紀の良質な中国産青磁・白磁などの茶器香炉古瀬戸(こせと)などの優品も出土し、館主の経済力の豊かさがうかがえる。中世の文書記録の少ない東北地方にとって、これら「たて」の史料的価値はきわめて大きい。

[櫻井清彦]

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