音響設計(読み)オンキョウセッケイ

デジタル大辞泉 「音響設計」の意味・読み・例文・類語

おんきょう‐せっけい〔オンキヤウ‐〕【音響設計】

コンサートホールスタジオ、講堂などを、音響学的な観点から設計すること。遮音防音防振反響残響などを適切に制御し、すぐれた音響空間の構築を目的とする。音響学的建築設計。

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改訂新版 世界大百科事典 「音響設計」の意味・わかりやすい解説

音響設計 (おんきょうせっけい)

必要とされる音響状態を作り出すための手法。その範囲は多岐にわたるが,建築との関連でこの問題を扱う建築音響設計建築音響)がその中心であり,以下でもこれについて解説する。建築音響の内容としては,ホールなどの室内の音響効果をよくすることと,建物の騒音防止性能(防音性能)を高めることの二つに大別される。

室内音響特性が重視される建物としては,コンサートホール,劇場,会議室,教室,体育館などがあげられる。これらの室内では,室内のどの場所でも音がなるべく均一な大きさで明りょうに聞こえること,鳴竜(なきりゆう)(フラッターエコー)現象などの有害な反響が生じないこと,室の用途に応じた適度の響き(残響)があること,外部の騒音や空気調和設備などの騒音が十分に小さいことなどが要求される。

室の形状は,用途,規模(収容人員)などから決められるが,その際に次のような音響的な考慮が必要である。室形としては直方体が基本となることが多いが,その場合,縦,横,高さの比がなるべく整数比にならないようにする。その理由は,波動論的に考えて室は三次元的な共振系で,音速をc,室の縦,横,高さの寸法をそれぞれLxLyLzとしたとき,

 (nx,ny,nzは0,1,2……の任意の組合せ)で表される無数の固有振動をもっており,寸法が整数比のときには固有振動が特定の周波数に集中しやすく,それらの周波数の音が強調されてとくに低音域で異常な響きが生じやすくなるためである。また,1対の平行な壁面があると,その間で一次元の固有振動が生じて,くせのある響きになったり,継続時間の短い音を出したときに鳴竜現象が生じやすいので,一方の壁を傾けたり,音を拡散しやすくする拡散処理あるいは吸音処理を行う必要がある。さらに,室の断面形の全体あるいは一部を円形,楕円形などの大きな凹面にすると,音が焦点を結んで音圧の分布がむらになったり,壁面での反射音が次に壁面で反射されるまで長い距離を伝わるロングパスエコーが生じやすいので好ましくない。

 以上に述べたような基本的な室形に起因する音響的な欠点をなくすために,拡散処理あるいは部分的な吸音処理が行われる。拡散処理としては,壁,天井などの形態を屛風折形(または鋸歯状)あるいはポリシリンダー形の断面にするのが基本であり,そのほかにも種々の形の凹凸面が意匠的にくふうされている。この場合,凹凸の寸法が拡散すべき音の波長と同程度以上であることが必要である。ホールなどのように,音源の位置がステージ上に限定される場合には,室の断面形やステージ上の反射板の形状をくふうして,客席部分へよく音が伝わるようにする。室の形状を検討する場合,図面上で幾何作図によって音の反射のしかたを調べるが,後で述べるような模型実験を行えば,さらに詳しく検討することができる。

おおよその室形が決まると,次の段階として具体的な室の内装設計が行われる。この段階では,意匠的な設計と同時に,音響設計として室内の響きぐあいをその室の用途に最適な状態にすること,エコーなどの音響障害の発生を防ぐことなどに重点をおいて各部位ごとに適当な内装材料を選定する。室内の響きの程度は,残響時間で表されるが,その値は室容積,それぞれの内装面の吸音率と面積および座席あるいは人間の吸音力から容易に計算することができる。図1は室の使用目的別に最適残響時間を表したものの一例で,このような数値を一つの目安にして,室の用途,規模(室容積)に応じた残響時間を設定し,計算値が目標値に合うように内装材料を決める。その場合,周波数ごとの残響時間がなるべく一様になるように,材料の吸音周波数特性に十分な考慮を払う必要がある。また聴衆の吸音力は室全体の吸音力の中でかなりの割合を占めるのがふつうで,聴衆の有無によって残響時間が大きく変化する。したがって,ホールなどでは空席時と着席時の残響時間の変化を少なくするために,なるべく吸音性の高い座席を使用する。なお,多目的ホールなどでは多様な用途に応じて残響時間を変化させるために,プリズム状回転体の各面を吸音・反射・拡散用としておき,室の使用状態に応じていずれかの面を出すなど,各種の残響可変装置がくふうされている。

境界面に音が入射したとき,入射音エネルギーEiに対する反射音エネルギーErの割合rEr/Eiをエネルギー反射率といい,(1-r)/Eiを吸音率という。すなわち吸音率とは,入射音エネルギーに対する見かけ上吸収されたエネルギー,すなわち実際に吸収されたエネルギーと境界面を透過してしまうエネルギーの和の割合を意味する。この概念からいえば,開放された窓は100%の吸音率ということになるが,実際には真に吸収されるエネルギーの割合が大きいもの,すなわち材料内部で音のエネルギーが熱のエネルギーに変換される割合が大きい材料を吸音材料という。図2は建築で用いられている吸音材料を吸音機構別に分類し,それぞれの吸音特性を定性的に表したものである。aの多孔質吸音材料としては,ガラス繊維グラスウール),岩綿(ロックウール),石綿,各種布類,発泡材料などが代表的な材料である。これらの通気性のある材料に音波があたると細孔中の空気の運動に対して摩擦抵抗が働き,また繊維自体も振動するために音のエネルギーの一部が熱のエネルギーに変換されて吸音効果が生ずる。多孔質材料の吸音特性は,通気抵抗,厚さなどのほかに背後の条件によって大きく変化する。すなわち,多孔質材料を剛壁に密着させたときには周波数が高いほど吸音率が大きくなり,材料背後に空気層を設ければ中・低音域まで吸音率を大きくすることができる。bに示すようなつぼ状の容器はヘルムホルツのレゾネーター(共鳴器)と呼ばれる。これは一種の共振系とみなすことができ,その共振周波数に近い周波数の音が容器の入口にあたると内部の空気が激しく振動(共鳴現象)する。そのときネック部分の摩擦抵抗によって音のエネルギーの一部が熱のエネルギーに変換されるために吸音効果が生ずる。したがってこのような共鳴器の吸音特性は著しい周波数選択特性をもつ。この種の吸音機構は古くから経験的に知られており,中世ヨーロッパの教会などの壁に多数のつぼが埋め込まれている例も多い。現代においても,東京カトリックカテドラルのコンクリート内壁面に2000個近くの塩化ビニル製の共鳴器が埋め込まれている例をはじめ,スタジオなどで主として低音域における室の固有振動を抑制するためにこの種の吸音処理がよく行われている(日本の能楽堂の舞台の下にかめ(甕)が埋め込まれていることが多く,これも最初は一種の共鳴現象を利用したものと考えられるが,現在では様式化してしまっている例が多い)。またc,dに示すように,円孔やスリット開口をもった板またはリブ列を剛壁との間に空気層をはさんだ構造とすると,上記のヘルムホルツのレゾネーターが無数に並んだものとみることができ,まったく同様なメカニズムによる吸音効果が生ずる。eに示すように,板状材料を剛壁との間に空気層を設けて張ると,板の質量と板および背後の空気層の弾性によって共振系が形成され,その共振周波数に近い周波数の音に対して吸音効果が生ずる。合板,石綿板,石こうボードなどの材料を用いた一般的な構造では,共振周波数が100~250Hz程度となることが多く,低音域の吸音を意図して用いられている。

ホール,劇場,会議室などでは,以上に述べた建築音響設計と同時に,拡声用,音響効果用,非常放送用など各種の電気音響設備の設計が行われる。その場合,収音マイクロホンやスピーカーの位置などは室形に応じて決められるが,それらの効果は室内音響特性に大きく依存する。最近ではコンピューター制御による効果用電気音響設備や残響可変を目的としたシステムも用いられ始めている。

複雑な形態をもつホールなどの室内音響特性を設計段階で予測するために模型実験がよく行われる。その方法としては,古くは室の断面模型に水を入れて表面に生ずる波の進行,反射を観測する方法や,ビーム光をあてて幾何光学的に反射のようすを調べる方法なども用いられたが,最近では縮率1/10~1/50程度の室の三次元模型を作り,超音波領域の音波を用いて実験を行うことが多い。その場合,物理的相似則から実験周波数は実際の周波数に対して模型縮率の逆数分だけ高くし,それと同時に模型の内装材料の吸音特性が,模型実験の周波数範囲で実物の材料の吸音特性に等しくなるようにする必要がある。縮率1/10程度の模型実験では,無響録音の音楽などをテープレコーダーの速度変換機能を利用して超音波に変換して模型内部に放射し,それをいったん録音した後に再びもとの速度で再生することにより,室内での響きぐあいを直接耳で確かめることもできる。

でき上がった建物が設計目標どおりの性能を備えているかどうかを調べるために,以下のような音響測定が行われる。(1)残響時間 帯域雑音の断続音やピストル,風船によるパルス音などを用い,周波数帯域ごとに室内の音圧減衰の速さから残響時間を測定する。周波数特性としてはなるべく平たんになることが望ましい(低音域でやや長め,高音域でやや短めになるのは自然な特性と考えてよい)。(2)短音応答 ホールなどのステージ上からパルス音を放射し,室内の各位置での音圧応答波形(エコータイムパターン)を観測し,その波形から有害なエコーの有無や残響特性の良否を判断する。(3)音圧分布 ステージなどから出た音が室内全体にどの程度の大きさで届いているかを調べるために,帯域雑音などを放射して室内各点の音圧レベルの分布を測定する。(4)その他 以上の項目のほかに,スピーチなどがどの程度明りょうに聞きとれるかを調べるために,音節ごとに発音した声を書取試験で調べる明りょう度試験などもよく行われる。

建物においては,交通騒音などの外部の騒音や隣室の生活騒音,各種建築設備から発生する騒音などを十分に防ぐ機能をもつこともたいせつである。このような騒音の問題を考える場合,音の伝わり方として二通りあることに注意しなければならない。すなわち,騒音源で発生した音が直接空気中を伝わる場合と,交通機関や機械類の振動あるいは人間の歩行などによる床に対する衝撃振動が建物構造体を伝わり,それが室内の壁,天井などから音となって放射される場合とで,前者を空気(伝搬)音,後者を固体(伝搬)音と呼んで区別している。騒音対策を行う場合には,原因がどちらであるかを明らかにしたうえで,それぞれに対応した防音構造を採用する必要がある。

建物外部の騒音や隣室の音に対しての防音構造とするためには,壁などに十分な遮音性能が要求される。入射音エネルギーに対する透過音エネルギーの割合を音響透過率(τ)といい,その逆数の常用対数を10倍した値を音響透過損失transmission loss(略称TL)と呼ぶ。TL=10log10(1/τ)で,単位はdBである。一般にこのTLによって壁などの遮音性能を表し,この値が大きいほど遮音性能がよいことを意味する。厚さ15cm程度のコンクリート壁では約50dB(τ=1/105)であり,この程度の遮音性能があればふつうの建物の壁としては十分である(ただし大きな音を出せば聞こえる)。壁体にあらゆる方向から一様に音が入射したときのTLは,音の周波数をf(Hz),材料の面密度をm(kg/m2)として,TL≒20log10fm)-48で表される。この式から,周波数が高いほど,壁の重量が大きいほど遮音性能が高いことがわかる。この関係を遮音に関する質量則と呼んでいる。ある面密度をもった均質な壁のTLを図示すると図3-aのようになる。この図で,実際のTLが高音域で質量則による値に比べて落ち込んでいるが,これは壁体内部に生ずる曲げ波の波長と入射音波の波長とが一致することによって生ずる一種の共振現象によるもので,コインシデンス効果と呼ばれている。

 壁の遮音性能を高めるためには,壁の重量を大きくする必要があるが,軽量化が要求される高層建物ではそれには限度がある。そこでこのような場合,2枚の壁の間に空気の層や多孔質材料を入れた二重壁が用いられる。二重壁を適切に設計すれば,図3-bに示すように2枚の壁の面密度を合計して計算した質量則の値よりも大きなTLが得られる。ただし,2枚の壁と中間の空気層によって生ずる共振現象によって低音域でTLが著しく小さくなる(低域共振透過)ので注意が必要である。実際の壁では,窓や扉などの開口部を含む場合が多い。一般にこのような開口部は壁に比べて遮音性能が劣り,それによって壁全体の遮音性能が決定されてしまうことが多いので,高い遮音性能が要求される場合には,気密性の高い窓や二重窓を用いるなどの考慮が必要である。

固体音による騒音を防止するためには,振動が発生している機械類や給排水などの配管系統を適切に防振支持することが必要である。その方法としては,防振ゴム,金属ばねあるいはそれらを組み合わせたものや,やや特殊なものとして空気の弾性を利用した空気ばねなどが広く用いられている。これらの材料を用いて防振設計を行う場合,機械類などの重量と発生振動数から必要なばね定数を計算し,それに合う適当な防振材料を選定する。集合住宅などでは,人間の歩行やとびはね,あるいは家具の移動などによって生ずる床衝撃音がしばしば大きな問題となっている。そのため最近では,主体構造部分と内装の床との間に防振材を入れ,防振材によって内装の床を支持する浮床工法をはじめとして種々の防振床構造が採用されている。また録音スタジオや音響実験室など高い遮音性能を必要とする室では,空気音と固体音の両方の影響を受ける室全体を防振材で支持する浮構造が採用されている。

暖房,冷房,換気のための空調設備では,給排気ダクトを通して,送風機などで発生した騒音が室内に伝わる。これを防ぐために,各種の減音装置がダクト系の中に組み込まれる。実際の設計では,騒音源の発生騒音量と室内の許容騒音レベルから必要な減音量を計算し,それに必要な減音装置を適切に組み合わせる。なお,ダクトの途中や吹出口,吸込口でも気流音が発生することがあるので,この点にも注意をはらって全体のシステムが設計される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「音響設計」の意味・わかりやすい解説

音響設計
おんきょうせっけい

音響学的建築設計のこと。すなわち、建築物を計画、設計するに際して、外部騒音および隣室からの騒音が十分小さくなるよう建物配置や壁、窓などの設計をしたり、さらに室内で会話が円滑に行われ、講演を明瞭(めいりょう)に聴き取ることができ、あるいは音楽を心地よく鑑賞できる状態となるよう設計することをいう。なおこのような室内の音響あるいは騒音、振動の制御について研究する学問は建築音響学とよばれている。

 ギリシアの野外劇場などでも、観客によく音が聞こえるよう「音響設計」された形跡があるが、科学的音響設計は、19世紀末、セービンWallace Clement Sabine(1868―1919)がアメリカのハーバード大学の講堂の音響改修を行う際、残響時間の重要性およびその予測公式を発見し(1895)、さらにそれを用いてボストン・シンフォニー・ホール(1900完成)の音響設計を行ったことに始まる。このコンサート・ホールは現在でも世界屈指の名ホールとされている。

 本来音響設計は、どのような建物に対してもなされるべきであるが、現実には音楽堂、劇場、公会堂、講堂などのオーディトリアムや放送用スタジオなどがおもな対象とされている。

[古江嘉弘]

室内音響の要件

室内で音を聴く場合、音声であるか音楽であるかによって要求される音響条件は異なる。したがって、たとえば音楽専用とか演劇専用というように使用目的が限定されるほど、よい音響状態が得られやすいといえるが、公会堂などのように多目的に利用されることの多いホールは容易ではない。

 室内でよい音響状態を得るためには、次の要件を満たさなければならない。

(1)静穏で、じゃまな騒音がないこと。

(2)エコーecho(反響)、フラッタエコーflutter echoes(鳴き竜)、ブーミングbooming(ぶんぶんと響く現象)、デッドスポットdead spots(非常に音の弱くなる場所)などの音響障害がなく、座席の違いによる音の聞こえ方に差がないこと。

(3)音楽を聴く場合、美しく響くこと、また話声を聴く場合、明瞭に聴き取れること。

 これらはそれぞれ以下の騒音防止、室形状、残響の設計と対応させることができる。

[古江嘉弘]

騒音防止設計

室内を静穏に保つことは、音響設計以前の問題といえるほどたいせつなことである。建物を計画する場合、まず交通騒音、工場騒音などの少ない敷地を選ぶこと、騒音源からできるだけ遠くなるよう配置することが望ましい。次に建物内各室の間取りをくふうする。つまり、会議室とか講義室など、とくに静かであることが必要な室はできるだけ騒音源側に直面しないように計画する。もちろん建物内の騒音源となる機械室などに隣接させないこともたいせつである。

 このように計画したのち、各室の用途に応じて、もつべき遮音性能を定め、それを満たすよう壁や窓の材質、構造などを決定する。その際、建築材料資料集などで、材料固有の遮音性能(透過損失)を参照するが、施工の状態により所定の遮音性能が得られないこともあり、またとくに異なる材料の継ぎ目などにできやすいすきまや扉などのすきまは、たとえわずかなものであっても遮音度に大きく影響するので注意しなければならない。

 また建物内の機械とか給排水管などの振動、あるいは階上を歩くときなどに発生する衝撃振動が床、柱、梁(はり)などの構造体を伝搬してふたたび室内に放射される騒音は固体伝搬騒音とよばれ、鉄筋コンクリート造の建物などでは大きな問題となることがある。これを避けるため防振ゴムや緩衝材が使用されている。しかし放送スタジオのように非常に厳しい音響条件が要求される場合には、室全体を建物構造体と振動絶縁する、いわゆる「浮き構造」としなければならない。

 以上の室内騒音防止対策は設計計画の時点で詳細に検討しておくことが肝要であり、また結局経済的でもある。

[古江嘉弘]

室形状の設計

音源から出た音には、直接耳に到達するもの(直接音)と壁で反射したのち到達するもの(反射音)とがある。直接音に続く反射音の時間的、空間的到来の仕方は室の形状によって定まる。直接音と反射音あるいは反射音と反射音の時間間隔が長すぎると(50ミリ秒以上)音が分離して聞こえ(エコー)、また壁面が平行に向かい合っているとフラッタエコーが現れやすい。したがって室の形状はなるべく不整形なものとし、壁面に凹凸をつけ、いろいろな方向に反射(拡散)させるのがよい。公会堂のように大きな室ほど音の拡散が必要である。なお凹曲面をもつ室は音の焦点ができやすく、またデッドスポットをつくりやすいので、なるべく避けたほうがよい。

 会議室のような比較的小さく、直方体の室ではブーミング現象が生じやすい。これを避けるため、室の縦、横、高さの寸法比を、たとえば4:2:1のような簡単な整数比とならないように選び(たとえば+1:2:-1など)、さらに天井や壁を吸音性にするとよい。

[古江嘉弘]

残響設計

室内で音を急に止めても、その音はすぐには消えないで、徐々に弱まっていく。この現象を残響とよぶ。これは各壁面で反射された音が合成されたものであるが、個々の反射音が明瞭に識別されて聞こえる反響(エコー)とは区別して扱われる。

 残響現象の長さを表すため残響時間という術語が用いられる。これは、室内に一定の強さの音を出し続けたのち、急に音を止め、その音の強さが初めの100万分の1にまで(または60デシベルだけ)小さくなるまでの時間であると定義されている。

 残響時間は室内の音響の良否を決めるたいせつな要素であり、会話、講演、演劇など主として音声を明瞭に聴き取るためには短めのほうがよいし、一方、音楽を聴く場合には音量を豊かにし、音に「つや」を生ずるので多少長めが望ましい。また室容積が大きいほど長いほうがよい。室の用途に応じた最適残響時間と室容積との関係がのように提案されている。この図は500ヘルツの音に対するものであるが、他の周波数の音に対してもこれと同程度に保てばよい。ただ音楽などに対しては低音でいくぶん長めがよいとされている。

 音が壁などに当たると、そのエネルギーの一部は壁の中で熱となって吸収され、また一部は通り抜け(透過)、残りが室内側に反射される。この吸収プラス透過エネルギーの入射エネルギーに対する比率は吸音率とよばれる。吸音率は材料によって、また音の周波数によっても異なる。各種の代表的な建築内装材について測定された吸音率はデータブックなどで知ることができる。内装材の面積とその吸音率との積を吸音力とよび、椅子(いす)や人物などのように面積が確定しにくいものに対しては吸音力のみが測定されている。

 室が最適残響時間となるよう設計するためには、「残響時間は室容積に比例し、室内全吸音力に反比例する」というセービンの公式に従って内装材を選べばよい。ただ、あらかじめすべての内装材に対する吸音力について詳細にはわからない場合もあるし、施工上の手違いもありうるため、完成後、残響時間を実測し、必要に応じて改修することが望ましい。

 どんな音が最良であるのかは、最終的には人間の主観的判断によらねばならない。この主観評価に関してはまだ解明されねばならないことが多く残されており、建築音響学の分野における興味ある研究テーマの一つとなっている。

[古江嘉弘]

『日本音響材料協会編『建築音響工学ハンドブック』(1963・技報堂出版)』『日本音響材料協会編『騒音・振動対策ハンドブック』(1982・技報堂出版)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「音響設計」の意味・わかりやすい解説

音響設計
おんきょうせっけい
acoustical design

建築空間に最適の音響状態を与えるために,音響の立場から行う空間設計。音響設計の基準としては,次のような項目がある。 (1) 空間の形状を図面から幾何学的に,または模型実験で音が特定の点に集中しないようにし,さらに反射音が適当に分布するように決める。 (2) 空間の目的に応じ,適当な反射材料と吸音材料を使い,残響特性を良好にする。 (3) 壁,床,天井などの遮音性能と室内の吸音性能とにより,その空間の騒音度を小さくする。特に換気ダクトの音に注意する。これらの項目によって音響設計を行なって完成した空間に対して,残響時間の周波数特性,壁面の反射性,騒音度および音の明瞭度分布などを測定して,音響設計の効果を検討する。

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