重度重複障害教育(読み)じゅうどちょうふくしょうがいきょういく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「重度重複障害教育」の意味・わかりやすい解説

重度重複障害教育
じゅうどちょうふくしょうがいきょういく

重度重複障害児(者)を対象として行われる教育。「重度重複障害」の定義は確立されていないが、「重度・重複障害児に対する学校教育の在り方について(報告)」(『文部省特殊教育の改善に関する調査研究会・1975年(昭和50)』)によれば、(1)盲・聾(ろう)・知的障害・肢体不自由・病弱の各障害を二つ以上有する重複障害者、(2)精神発達の遅れが著しく、ほとんど言語をもたず、自他意思の交換および環境への適応が非常に困難であって、日常生活において常時介護(看護)を必要とする精神発達の重度遅滞者、(3)破壊的行動、多動傾向、異常な習慣、自傷行為、自閉性などの問題行動が顕著で常時介護を要する者、の三つの場合を示している。障害が「重複」しているだけでなく、精神発達または行動上の「重度」の障害をも含めて重度重複障害者として広義にとらえている。教育的にもっとも支援や配慮が必要な障害者の総称といえる。

 養護学校教育の義務制実施(1979)以来、それまで教育の機会が少なかった重度重複障害児に対する学校教育の取り組みは重要な課題となった。複雑多岐な障害の実態のため、教育、医療、福祉などの関係機関における調和のとれた対応が必要である。福祉施設、医療機関、学校のいずれに生活基盤があっても、教育・福祉・医療上の対策を欠くことはできない。とくに、児童福祉施設や医療機関にいる者に対して教育の機会を確保するための努力が必要である。従前の盲・聾・養護学校や現在の特別支援学校には、重複障害学級(学級定員3名)が設置されている。

 盲・聾・養護学校や特別支援学校の小・中学部における重複障害学級の設置や在籍状況の推移は、以下のとおりである。

 1985年(昭和60)
  学級数6332
  人数2万3523人
  在籍率36.6%
 1995年(平成7)
  学級数8262
  人数2万1695人
  在籍率43.8%
 2005年(平成17)
  学級数8875
  人数2万3422人
  在籍率43.1%
 2008年(平成20)
  学級数9370
  人数2万4819人
  在籍率41.2%
 障害のため通学できず、在宅、施設入所、入院などの場合には、教員が出かけていって指導を行う訪問教育が行われる。

 教育内容は、個々の障害の実態に即して行われるため、「個別の指導計画を作成すること」(学習指導要領)とされている。障害の重度・重複化や多様化により医療上または生活上の規制を受け、教育を行うことが生命や健康のうえから困難である場合には、就学猶予・免除の措置がとられるが、教育の可能性を最大限に生かす慎重な姿勢が必要である。2008年に障害により就学猶予・免除を受けている児童生徒数は58人で、義務教育段階の児童生徒数の0.001%である。

[瀬尾政雄・鈴木 篤]

『国立特別支援教育総合研究所著『特別支援教育の基礎・基本――一人一人のニーズに応じた教育の推進』(2009・ジアース教育新社)』『姉崎弘著『特別支援学校における重度・重複障害児の教育』(第2版)(2009・大学教育出版)』

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