酸化的付加反応(読み)サンカテキフカハンノウ

化学辞典 第2版 「酸化的付加反応」の解説

酸化的付加反応
サンカテキフカハンノウ
oxidative-addition reaction

遷移金属錯体への付加反応に伴って金属原子の酸化数と配位数が増加するとき,この付加反応を酸化的付加反応という.付加する化合物の分子内結合が切断されて生じる二つの基が,金属に配位して金属の酸化数を二つ増加させる例がよく知られている.たとえば,バスカ錯体とよばれる一価のイリジウム錯体[Ir(CO){P(C6H5)3}2]ClとCH3Iとの反応では,CH3Iの炭素-ヨウ素結合が切断されて生じたCH3基とIがイリジウムに付加した三価のイリジウム錯体[Ir(CH3)(I)(CO){P(C6H5)3}2]Clが得られる.

 [Ir(CO){P(C6H5)3}2]Cl + CH3I →

[Ir(CH3)(I)(CO){P(C6H5)3}2]Cl 

一般に,酸化的付加反応は中心金属の酸化数が低く,かつ配位不飽和のときに起こりやすい.酸化的付加反応を起こす化合物としては,上述のCH3Iのようなハロゲン化アルキルのほかに,分子状水素,分子状ハロゲン,ハロゲン化アシル,水,ハロゲン化水素など広範囲のものが知られており,有機金属化学錯体化学の分野における重要な素反応となっている.また,この反応を利用した有機合成反応も広く行われている.この反応は,金属錯体上で進行するために立体特異的な反応を進行させることが可能であり,光学活性を有する化合物の合成などに利用されている.酸化的付加反応の逆反応は,還元的脱離反応とよばれている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報