運用預り(読み)うんようあずかり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「運用預り」の意味・わかりやすい解説

運用預り
うんようあずかり

証券会社の兼営業務のなかで、かつて重要な資金調達の源泉となっていた運用預り業務のこと。

運用預り業務

証券会社は、有価証券、おもに割引金融債を中心に各種の債券を不特定多数の顧客から預り、「運用預り契約」のもとにこれを運用し、利子を含めた運用益の一部を品借料として顧客に支払うことにより、有利に資金調達を進めることができた。運用預り業務の規模拡大に伴って、預り金額も巨額に達し、その運用にいろいろと行きすぎが生じ不健全な面が出てきたため、証券会社の体質改善に関し、大蔵省指導による運用預り業務の漸減措置がとられ、1968年(昭和43)証券業の免許制移行と同時に廃止された。

[桶田 篤]

貸し株代り金

以上のように運用預り自体は廃止されているものの、現在、一部の証券会社で行われている預株(よかぶ)制度の「貸し株代り金」が分別管理されない場合、運用預りと同様の問題が発生する可能性が否めない。

 ここで「預株制度」とは、個人投資家等が証券会社に寄託している株券を、当該証券会社を通じて、日本証券金融等の証券金融会社に貸し出す制度をさす(この制度を利用する場合には、当該証券会社との間で、所定手続を行う必要がある)。この制度における「顧客のメリット」は、単に預託しているだけの株券を、証券会社を通じて証券金融会社に貸出ができることから、顧客は「預株料」という収入を得ることができるという点にある(この預株料は、証券会社が証券金融会社から得る「品貸料」などをもとに算出される)。

 問題は、当該制度では顧客が寄託している株券を証券会社が証券金融会社へ貸し出した時点で「貸し株代り金」を受け取ることになるが、これは貸し株の担保なので、貸し株が当該証券会社に返却されるまでの間、その資金(貸し株代り金)は当該証券会社の管理下に置かれることである。つまり、この「貸し株代り金」相当額は、そもそも顧客の寄託株券の貸出による担保ではあるが、分別管理が定められていないことから、当該証券会社固有の勘定に属することになるため、当該証券会社が「貸し株代り金」を独自に運用した場合には、前記の運用預りと同様の問題が発生することになる。また、現行規定では「貸し株代り金」の運用等には格段の規定が定められていない。

 そこで、この制度を取り入れている証券会社では独自に「貸し株代り金」相当額を信託銀行等に預け、運用預りのような危険を回避するようにつとめている。

[前田拓生]

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