日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
西王母(中国古代の女神)
せいおうぼ
中国古代の神話、伝説に登場する女神。その起源は古く殷(いん)代にまでさかのぼり、甲骨文字のなかにみえる西母は西王母のことであると考えられている。文献のうえでは『山海経(せんがいきょう)』に、西王母に関する古い伝承が残されているが、これによると、彼女は中国のはるか西方の地にある洞穴に住まい、人の姿をしてはいるが、ヒョウの尾にトラの歯をもち、振り乱した髪にかんざしを挿して、よくうそぶくという怪異な存在である。しかし時代が下るにつれ、西王母は神仙思想の影響を受けて眉目(びもく)秀麗な美女に変身し、その居所も西方の神山である崑崙(こんろん)山に定められた。
また『穆天子伝(ぼくてんしでん)』には、周の穆王が遠く西方に旅をして仙女西王母に会い、詩歌を贈答したと記されている。さらに魏晋(ぎしん)時代以降になると、神仙の道にあこがれた漢の武帝は西王母の訪問を受け、一夜の宴を張ったという説話が発達するようになる。また、西王母を東王公という男性神と一組にして考える思想もそのころから普及した。
[桐本東太]