かんざし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「かんざし」の意味・わかりやすい解説

かんざし
かんざし / 簪

女性用髪飾りの一種。江戸時代中期、女性の結髪で頭上に髷(まげ)を整えることが一般化してから用いられるようになった。それまでは高貴な婦人の間で女房装束や晴(はれ)装束をした際に挿頭華(かざし)や釵子(さいし)が用いられ、男性の場合も儀式の際に冠に植物を挿したこともあったが、鎌倉時代以降、宮中儀式の衰微に伴って廃れた。そればかりでなく、公家(くげ)、武家の婦人の髪は、多くは下げ髪であったから、それらのものを必要としなかった。室町時代中期以降、下げ髪にかわって、働く女性の間から髷を頭上に束ねることがおこったが、ふだん髷を置く髪形が一般化したのは江戸時代初期である。浪人の取締りのため覆面が禁止され、その反動として、女性の素面(そめん)化は束ね髪にかわって髷を生じる結果となり、兵庫髷勝山(かつやま)髷、島田髷が登場した。当時は前髪や髱(たぼ)はあっても、鬢(びん)を張ることはなかったが、元禄(げんろく)時代(1688~1704)に入って玉結びが流行し、これにかんざしを挿す風習を生じた。

 菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の描いた『見返り美人図』にみられるかんざしが、髪飾りとしてのかんざしの最古のものと思われる。懐月堂一派の美人画になるといろいろのかんざしがみられ、宝暦(ほうれき)年間(1751~64)から一般の庶民にも行われるようになった。当時のかんざしは銀製で、梅の枝に短冊を下げたようなものであった。その後、かんざしは、雨傘と同じように定紋をつけたり、役者紋をつけることが流行し、ついに耳かきをつけるのが普通になった。材質も金、銀、赤銅、四分一(銅3と銀1の合金)などが使われた。細工は簡単なものから、手のこんだ草花、動物の模様のもの、蝶(ちょう)、短冊、鈴などの揺れ動くもの、または音を楽しむものまでが考案され、とくに揺れ動くものは「びらびら簪」といって、若い娘たちの人気の的であった。また、サンゴ、ぎやまん、めのうなどの一粒玉を挿した髷は天神髷とよばれた。また髷の下を通して左右の飾りとしたものは両天簪、略して両天ともいった。

 江戸末期は簪の黄金時代で、武蔵野(むさしの)簪、団扇(うちわ)簪をはじめ、いろいろの種類が考案された。材料も金属にとどまらず、ひすい、こはくなど高価なものまでが使われ、それを1本だけではなく、前挿し、後ろ挿しなどたくさん用いている。明治に入ると、高級品ではプラチナ、安物ではゴム、セルロイド類のものもできたが、日本髪の衰退に伴ってその利用度は減少した。かんざしは髪飾りであると同時に、江戸時代にはとがった部分で相手を刺すことのできる護身用具としての利用もあった。

[遠藤 武]

『喜団川守貞著『類聚近世風俗志』(1934・更生閣)』

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デジタル大辞泉プラス 「かんざし」の解説

かんざし

高知県高知市、浜幸が製造・販売する銘菓。柚子の風味の白餡をマドレーヌ生地で包みホイル焼きしたもの。

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