血小板の動態と機能

内科学 第10版 「血小板の動態と機能」の解説

血小板の動態と機能(総論2:血球の動態と機能)

 血小板止血機構に必要不可欠な細胞であり,さらには組織修復,創傷治癒などにも関与する.他方では血小板は,動脈硬化病変など病的状態における血栓形成にも関与する.赤血球などの大きな細胞は血管の中央を流れるが,血小板は微小な細胞であるため血管壁に近いところを流れ,血管内皮細胞や内皮下組織との相互作用を密にして,血管壁の傷害即座に反応し,活性化し,生理的止血あるいは病的血栓を形成する.
(1)血小板産生・血小板寿命
 血小板は巨核球造血の最終産物として産生される.巨核球はトロンボポエチンなどのさまざまなサイトカインにより造血幹細胞から分化成熟する.巨核球の分化・成熟過程はきわめてユニークであり,分化・成熟とともに核のDNA量は増加するが,細胞質の分裂は起こらず多倍体となり大型化する.さらに巨核球は分化に伴い骨髄内で骨組織辺縁から類洞周辺に移動し,最終的に血管内に胞体突起を伸ばすことにより血小板を産生する.産生された血小板の寿命は約8~10日である.
(2)血小板の構造
 血小板は,核をもたない微小な細胞で,直径約2 μmの円盤または碁石状の形をしている.血小板はその細胞内にα顆粒,濃染顆粒という血小板特有の細胞内顆粒を有している.α顆粒にはフィブリノゲンやvon Willebrand因子(以下VWF)などが,濃染顆粒にはアデノシン二リン酸(ADP)などが存在しており,顆粒からの放出物質は血小板機能にきわめて重要である.血小板は細胞内に複雑に入り組んだ開放小管系を有しており,この小管系は細胞表面に開口する.血小板活性化時,血小板はこの開放小管系により顆粒内の物質を効率よく放出し,その止血機能を増強する.
(3)止血機構
 血液は正常な血管内において血栓を形成することなく,また凝固することなく循環している.血管内腔におけるこのような抗血栓性,抗凝固性は1層の血管内皮細胞の働きにより維持されている.つまり,血管内皮細胞から産生される一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリンなどの血小板機能抑制物質により血小板は非活性化状態を維持し循環している.
 一方,血管内皮が傷害される,あるいは動脈硬化病変において動脈狭小化に伴いずり応力が増加するとともにプラークが破綻すると,血小板はコラーゲン線維に富む血管内皮下組織と反応し,活性化し,血栓を形成する.止血栓形成ならびに病的血栓形成過程は①血小板粘着 → ②血小板活性化と放出反応 → ③血小板凝集の段階により構成されている(図14-3-12,14-3-13).さらに,血小板活性化とともに凝固系が活性化されトロンビンおよびフィブリンが形成され血栓をより強固にする.図14-3-12にコラーゲン線維上の粘着血小板および凝集血小板の走査電子顕微鏡写真を示している.粘着は,コラーゲンなどの接着蛋白と血小板の接着現象で血小板が重なり合うことはない.一方,凝集は血小板と血小板どうしが接着する現象で,通常は粘着した血小板を足場として,さらに血小板どうしの凝集が起こり,この凝集により血栓は増大する.これら粘着および凝集には血小板膜糖蛋白,特にGPⅠb-ⅨとGPⅡb-Ⅲaが重要である.
a.血小板粘着
 細動脈など速い血流下では高ずり応力が作用するため,血小板は粘着してもその場に止まれず回転する.この機序としては,血中および血管内皮産生VWFがコラーゲンと結合し,この固相化されたVWFとその受容体であるGPⅠb-Ⅸが結合し,血小板が粘着し回転する.強固な血小板粘着には,さらにGPⅡb-ⅢaとVWFとの結合が必要である(図14-3-14).
 Bernard-Soulier症候群では,先天性にGPⅠb-Ⅸが欠損しており,そのため血小板粘着が障害され出血傾向をきたす.
 また,コラーゲンの受容体の1つであるGPⅠa-Ⅱa(α2β1)が血小板粘着に重要であることも示されている.
b.血小板凝集
 血栓形成の最終段階としての血小板凝集は,粘着とは異なった機序を介して形成される.生体内における高ずり応力下での血小板凝集はおもにVWFとGPⅠb-ⅨおよびGPⅡb-Ⅲaインテグリンαbβ3ともよばれる)との結合を介している.一方,血小板凝集計を用いた血小板凝集は,低ずり応力下での凝集であり,フィブリノゲンとGPⅡb-Ⅲaとの結合に依存している.いずれの場合もGPⅡb-ⅢaはVWFおよびフィブリノゲンの受容体として血小板凝集に必須の血小板膜糖蛋白である.
 血小板無力症では先天性にGPⅡb-Ⅲaが欠損しており,リストセチン凝集を除くすべての血小板凝集が欠如する.血流下での検討では,本症血小板は血小板粘着後の扁平,伸展化が障害され,さらに血小板凝集形成が欠如しており,このため著明な出血傾向を示す.
c.血小板活性化
 血小板凝集にはGPⅡb-Ⅲaが必須であるが,通常GPⅡb-Ⅲaは非活性化状態にありフィブリノゲンを結合することはない.GPⅡb-Ⅲaは,血小板活性化物質により活性化型へと変化し,その機能を発揮する.
 生理的な血小板活性化物質としては,ADP,コラーゲン,トロンボキサンA2,トロンビンなどが知られており,それぞれの受容体も明らかにされている.コラーゲンは血小板を粘着させるのみならず活性化させる蛋白である.コラーゲンの血小板上の受容体としては,先に述べたGPⅠa-ⅡaのほかにGPⅥが同定されており,GPⅥはコラーゲンによる血小板活性化に作用する.ADPは比較的弱い血小板活性化物質であるが,濃染顆粒内ADPの重要性はその受容体欠損症により明らかにされている.
(4)先天性血小板機能異常症
 上述した血小板の止血機能に重要な受容体や蛋白の先天性異常症の一覧を表14-3-1に示している.見方を換えると,これらの先天性血小板機能異常症の解析により,血小板機能に必須の蛋白が明らかとなった.[冨山佳昭]
■文献
鈴木英紀:血小板の形態.図説 血栓・止血・血管学—血栓症制圧のために(一瀬白帝編),pp139-146, 中外医学社,東京,2005.
Tomiyama Y, Shiraga M, et al: Platelet membrane proteins as adhesion receptors. In: Platelets in Thrombotic and Non-thrombotic Disorders: Pathophysiology, Pharmacology and Therapeutics (Gresele P, Page C, et al eds), pp80-92, Cambridge University Press, Cambridge, 2002.
冨山佳昭:先天性血小板機能異常症—受容体異常症.別冊・医学のあゆみ 血液疾患—state of arts Ver.3 (坂田洋一,小澤敬也編),pp728-732, 医歯薬出版,東京,2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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