腎血管炎

内科学 第10版 「腎血管炎」の解説

腎血管炎(腎と血管障害)

概念
 血管炎とは,血管内皮細胞から基底膜を含む血管壁の炎症である.腎臓は,さまざまなサイズの血管が豊富に分布すると同時に,豊富な血流量や糸球体の濾過機能により血管内にある免疫複合体を含めたさまざまな物質が血管壁や糸球体係締壁(濾過膜)に接触,沈着をきたす可能性があり,糸球体を含めた血管系での炎症を発症する機会が非常に多い臓器である.腎血管炎においても他臓器の血管炎と同様,侵される血管のサイズにより図11-8-1のように分類が可能である.葉間動脈以降の腎動脈系は終末動脈であり,血管炎による血流障害はその動脈による支配領域の壊死をきたす.
原因・病因・疫学
 臨床的に腎血管炎を呈する代表的疾患について以下に記す. 高安動脈炎【⇨5-14】は,大動脈およびその主要分枝を侵す慢性血管炎である.遅延型アレルギー反応の関与が指摘されているものの,原因の詳細は不明である.1:9の比率で女性に多い.わが国の患者数は約5000例と推定されている.罹患動脈は大動脈とその分枝であり,それらの動脈壁の炎症により,罹患動脈の拡張・狭窄閉塞による臨床症状が出現する.初期には原因不明の発熱,血管痛,全身倦怠感などの非特異的な炎症症状を呈することが多い.その後血管症状としては,大動脈弓部分枝病変による脳虚血症状,視力障害,上肢の虚血症状,腎動脈狭窄や大動脈縮窄による高血圧,肺動脈狭窄による肺梗塞,冠動脈狭窄による虚血性心疾患などがある.これら血管病変は多発することが多い.上下肢脈拍を左右同時に確認すると,拍動の強さに左右差を認める.大部分の患者では10 mmHg以上の血圧の左右差を認める.また腎動脈の狭窄により,腎血管性高血圧を呈することがある.確定診断は,血管造影による血管壁の不整,狭窄,拡張の確認によりなされる.検査所見では特異的な所見はなく,CRP,赤沈の高値,白血球増加,高ガンマグロブリン血症などが活動性の高い時期に認められる. 結節性多発動脈炎【⇨10-8】は中ないし小筋型動脈の壊死性血管炎であり,全身のあらゆる器官をおかしうるが,皮膚,末梢神経,関節,腸管および腎臓が好発部位である.わが国では後述する顕微鏡的多発血管炎とあわせ約5000人の患者がおり,結節性多発動脈炎そのものは最近減少傾向にあると考えられている.男女比は1:1で若年男性に好発する.腎動脈での病変では腎梗塞さらには腎動脈瘤を形成することが知られている. 多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangitis(Wegener肉芽腫症):GPA)【⇨10-8】は上気道と下気道の壊死性肉芽腫性血管炎および壊死性半月体形成性腎炎を呈し,高率に抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA),なかでもプロテイナーゼ-3を標的抗原とするPR3-ANCAを認める疾患である.顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis:MPA)【⇨10-8】は,結節性多発動脈炎の一部の患者のうち,主として炎症の場となる血管のサイズが細動脈から毛細血管レベルのもので,血清中にANCAを認める一群の症候群として分離独立したものである.両疾患とも血清中にANCAが陽性であり,急速進行性腎炎症候群の主要病型である(詳細は【⇨11-3-3)】). アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Straus症候群)【⇨10-8】は気管支喘息,好酸球増加と小血管を中心とする壊死性血管炎を呈する疾患である.しばしばMPO-ANCAも陽性となることが知られている.腎病変は,血尿蛋白尿から急速進行性腎炎を呈するものまであることが知られている. そのほか,Goodpasture症候群・抗GBM抗体型腎炎【⇨11-6-10)】やループス腎炎,クリオグロブリン血症,紫斑病性腎炎なども糸球体を中心とした腎血管炎を呈することが知られている.詳細は各疾患の項を参照のこと.
臨床症状・検査
成績
 全身の血管炎を反映し,発熱,体重減少,易疲労感などの非特異的症状と同時に,CRP陽性,赤沈亢進,白血球増加などを示す.また侵される血管のサイズに応じた腎症候を呈する.腎動脈の起始部での狭窄では血管雑音(bruit)を聴取し,腎血管性高血圧の原因となる.結節性多発動脈炎では,腎梗塞,腎動脈瘤,ときに腎出血をきたす.細動脈以降の血管炎,特に糸球体を主座とする血管炎では,血尿,蛋白尿,円柱尿の出現とともに,壊死性半月体形成性糸球体腎炎をきたし,臨床的にはRPGNを発症する.また,糸球体以降の傍尿細管毛細血管を主座とするMPAの場合には,全身性の血管炎症候と同時に軽微な尿所見と腎機能障害を示す.結節性多発動脈炎と小動脈~毛細血管での血管炎との鑑別には,ANCA陽性の有無が有効な場合がある.
治療
 治療法は各疾患の項を参照のこと.[山縣邦弘]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報