腎がん

EBM 正しい治療がわかる本 「腎がん」の解説

腎がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 腎(じん)がんには腎細胞(じんさいぼう)がんと腎盂(じんう)がんがあります。ほとんどは腎細胞がんで、腎臓にある尿細管の内側の細胞が、がん化したものです。
 腫瘍(しゅよう)が小さいときには、これといった症状はありません。進行して腫瘍が5センチメートルより大きくなると、血尿、腹部腫瘤(ふくぶしゅりゅう)、疼痛(とうつう)などがみられます。発熱、体重減少、貧血といった全身症状が現れる場合もあります。
 また、それほど多くはありませんが、腎がんが産生する物質によって、赤血球増多症(せっけっきゅうぞうたしょう)や高血圧、高カルシウム血症などが引きおこされることがあります。
 現在は超音波検査やCTなどの画像診断で無症状のうちに偶然発見される例も増えてきましたが、肺や骨に転移したがんが先に見つかり、くわしく調べると腎がんがもとだったということも少なくありません。
 なお、子どもの腎がんのほとんどは、ウイルムス腫瘍腎芽細胞腫(じんがさいぼうしゅ))と呼ばれるもので、腹部に腫瘤ができます。腹痛、発熱、食欲不振、嘔吐(おうと)、血尿、高血圧などを伴うこともあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 腎がんは発生しやすい家系があります。遺伝子を調べることで、発病前から将来、腎がんにかかることが予測できます。
 ただし、原因は家系的なものばかりではありません。喫煙や肥満、高血圧などが複合的に作用して発がんのリスクを高めていると考えられています。また、長期にわたる、石油由来の有機溶媒カドミウムアスベストなどの曝露を受けた人や、長期にわたって人工透析を続けている人に腎がんの発生が多いこともわかってきました。
 子どものウイルムス腫瘍は、胎生期(たいせいき)の組織から発生するものです。

●病気の特徴
 腎細胞がんの発生頻度(ひんど)は、日本では人口10万人あたり男性が8.2人、女性が3.7人で、男性が女性の2~3倍多くなっています。腎盂がんは人口10万人あたり男女とも約0.1人程度です。
 子どものウイルムス腫瘍は5歳以下で発病することが多く、男女差はありません。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■遠隔転移がない場合
[治療とケア]腎摘出術(じんてきしゅつじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 腎摘出術には開腹による方法と腹腔鏡(ふくくうきょう)による方法がありますが、腹腔鏡下腎摘出術の手術成績を開腹で行う腎摘出術と比較したとき、生存率、再発率に差はないことが臨床研究によって確認されています。(1)

[治療とケア]腎部分摘出術を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 早期の腎がんに対して、腎部分摘出術は腎摘出術と同等の生存率を示していますが、腎機能を保持する面では有用であることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。腎臓が1つしかない場合、腎機能が悪い場合、両側の腎臓にがんがある場合にはこの治療法が選択されます。(2)(3)

[治療とケア]経皮的局所療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 体表から腫瘍に細い電極針を刺して、ラジオ波電流を流して腫瘍を焼灼(しょうしゃく)するラジオ波焼灼術(RFA)やアルゴンガスを利用して腫瘍を凍結させる凍結療法(Cryoablation)は有用性が確認されており、侵襲(しんしゅう)が少ないため、高齢者や全身状態が悪い症例の治療のひとつとして専門家の意見や経験から支持されています。凍結療法は腹腔鏡下で行われることもあります。ラジオ波焼灼術や凍結療法の長期的な成績は不明であり、どちらも日本ではまだ保険が適用されていません。(4)

■遠隔転移がある場合
[治療とケア]動脈塞栓術(どうみゃくそくせんじゅつ)を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 腫瘍に血液が流れ込まないよう腎動脈を人工的に閉塞(へいそく)させる方法を動脈塞栓術といいます。外科的手術が難しい場合、手術時の出血量を減らすために術前に行う場合などがあります。腎摘出術前にこれを行っても、生存期間が延長されることはありません。

■サイトカイン療法
[治療とケア]インターフェロンを用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 生体の防御機構を高めるインターフェロンアルファ皮下注射と、抗がん薬として用いられるメドロキシプロゲステロン酢酸エステルの経口使用とを比較した信頼性の高い臨床研究では、インターフェロンアルファ皮下注射のほうが、1年生存率、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)ともに有意にすぐれていました。しかしながら、インターフェロンガンマとプラセボ(偽薬)を比較した非常に信頼性の高い臨床研究では、治療への反応、生存中央値ともに、両者の間に有意差は認められませんでした。(5)(6)
[治療とケア]インターロイキン-2(テセロイキン)を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 高用量のインターロイキン-2(テセロイキン)を用いて、15パーセントの患者さんに腫瘍縮小効果が認められたことが信頼性の高い臨床研究によって報告されています。(7)

 



[治療とケア]分子標的薬を用いる
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 腎細胞がんの発がん、進展に重要な役割を果たす分子を標的にした分子標的薬は、腫瘍の縮小効果や生存期間の延長を認め、臨床的に有用であることが確認されています。また、サイトカイン無効例では生存期間が延長することが信頼性の高い臨床研究で確認されています。(8)~(12)

[治療とケア]外科療法に放射線療法を併用する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 手術後に放射線を照射した場合には、効果があったとするものと効果がなかったとする研究報告があります。脳転移に対するガンマナイフ、放射線療法などが有効な場合があると考えられています。(13)


よく使われている薬をEBMでチェック

サイトカイン
[薬名]スミフェロン(インターフェロンアルファ)(5)(6)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
[薬名]インターロイキン-2:イムネース(テセロイキン)(7)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。

分子標的薬
[薬名]アバスチンベバシズマブ)(8)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]スーテント(スニチニブ)(9)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ネクサバール(ソラフェニブトシル酸塩)(10)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]トーリセル(テムシロリムス)(11)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]アフィニトール(エベロリムス)(12)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。ベバシズマブは日本では保険適用外です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
症状は全身におよぶ
 腎がんは、血尿、腹部腫瘤、側腹部痛などの腎臓自体にかかわる症状だけでなく、発熱、貧血、高カルシウム血症、赤血球増多症などの全身的な異常をしばしばきたすため、以前から“内科医の腫瘍”ともいわれています。

転移がなければ、手術が原則
 以前に比べて、CTなどの画像検査で早期に発見される患者さんも増えてきています。がんが腎臓内に限局している場合は、腎摘出術ないし腎部分摘出術が第一選択の治療法となります。
 その際に、開腹術、腹腔鏡下、後腹膜鏡下(こうふくまくきょうか)のどの術式を採用するかは、発生している場所やがん自体の大きさ、リンパ節への転移の有無、静脈への浸潤(しんじゅん)の有無、手術チームの経験などにより決定されます。

転移してもサイトカインや分子標的薬が効くことも
 腎臓の近くのリンパ節への転移や、肺や脳、骨などへの遠隔転移がある場合は、スミフェロン(インターフェロンアルファ)やイムネース(テセロイキン)などのサイトカインや分子標的薬の投与が有効なことがあります。

(1)Hemal AK, Kumar A, Kumar R, et al. Laparoscopic versus open radical nephrectomy for large renal tumors:a long-term prospective comparison. J Urol. 2007;177:862-866.
(2)Joniau S, Vander Eeckt K, Van Poppel H. The indications for partial nephrectomy in the treatmenat of renal cell carcinoma. Nat Clin Pract Urol. 2006;3:198-205.
(3)McKiernan J, Simmons R, Katz J, et al. Natural history of chronic renal insufficiency after partial and radical nephrectomy. Urology. 2002;59:816-820.
(4)Kutikov A, Kunkle DA, Uzzo RG. Focal therapy for kidney cancer:a systematic review. Curr Opin Urol. 2009;19:148-153.
(5)Interferon-alpha and survival in metastatic renal carcinoma: early results of a randomised controlled trial. Medical Research Council Renal Cancer Collaborators. Lancet. 1999;353:14-17.
(6)Gleave ME, Elhilali M, Fradet Y, et al. Canadian Urologic Oncology Group: Interferon gamma-1b compared with placebo in metastatic renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 1998;338:1265-1271.
(7)Bukowski RM. Natural history and therapy of metastatic renal cell carcinoma:the role of interleukin-2. Cancer. 1997;80:1198-1220.
(8)Yang JC, Haworth L, Sherry RM, et al. A randomized trial of bevacizumab, an anti-vascular endothelial growth factor antibody, for metastatic renal cancer. N Engl J Med. 2003;349:427-434.
(9)Motzer RJ, Hutson TE, Tomczak P, et al. Sunitinib versus interferon alfa in metastatic renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:115-124.
(10)Escudier B, Eisen T, Stadler WM, et al. Sorafenib in advanced clear-cell renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:125-134.
(11)Hudes G, Carducci M, Tomczak P, et al. Temsirolimus, interferon alfa, or both for advanced renal-cell carcinoma. N Engl J Med. 2007;356:2271-2281.
(12)Amato RJ, Jac J, Giessinger S, et al. A phase 2 study with a daily regimen of the oral mTOR inhibitor RAD001(everolimus)in patients with metastatic clear cell renal cell cancer. Cancer. 2009;115:2438-2446.
(13)Wowra B, Siebels M, Muacevic A, et al. Repeated gamma knife surgery for multiple brain metastases from renal cell carcinoma. J Neurosurg. 2002;97:785-793.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「腎がん」の解説

腎がん(腎細胞がん)
じんがん(じんさいぼうがん)
Renal cancer (Renal cell cancer)
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 腎尿細管上皮細胞から発生する、腎実質の上皮性悪性腫瘍を腎細胞がんといいます。好発年齢は50~60代、男女比は3対1で男性に多く、長期透析患者にみられる後天性嚢胞(のうほう)性腎疾患(aquired cystic disease of kidney:ACDK)に合併する頻度が多いです。

原因は何か

 原因は不明ですが、喫煙で罹患(りかん)リスクが2倍になるほか、長期の透析により、腎に後天性嚢胞性変化(ACDK)を来した場合、これらの患者の約6%に腎細胞がんが発生することが知られています。最近ヒッペル(von Hipple-Lindau)病の原因遺伝子(第3染色体短腕25~26の領域にあるがん制御遺伝子)の変異が、散発性の腎細胞がんで認められることは明らかになっています。

 疫学的には、肥満、高血圧糖尿病のほかに、カドニウム、アスベスト、トリクロロエチレンなどへの暴露も原因のひとつと考えられています。

症状の現れ方

①無症状 健康診断などで偶然、超音波検査やCT検査を受け、発見される症例が増加しています。

②血尿 無症候性肉眼的血尿は、最も重要な症候です。

③腰背部疼痛、腹部腫瘤 このような症状・症候は腫瘍がかなり大きくなってから起こることが多く、最近ではあまりみられなくなっています。

④尿路外症状 発熱、貧血、食欲不振、倦怠(けんたい)感、体重減少などを総称してparaneoplastic syndrome(腫瘍随伴(ずいはん)症状)といいますが、このような場合では予後不良のことが多いです。

検査と診断

A.血液・尿検査

①血液検査

・腎細胞がんに特異的な腫瘍マーカーとして、免疫抑制性酸性蛋白(めんえきよくせいせいさんせいたんぱく)(IAP)の上昇をみる例がありますが、診断には通常使用されません。

・貧血 約30%の患者さんにみられます。

・急性反応物質 沈亢進、CRP上昇、α2グロブリン上昇などは、がんの発育速度が速い患者さんに多く認められます。

・肝機能異常 肝転移がないにもかかわらず、肝機能異常が認められることがあり、腎摘出術後に正常化することがあります。異常を示す項目としては、アルカリホスファターゼ、α2グロブリン、プロトロンビン時間の延長などです。

②尿検査

 血尿は、腫瘍が腎盂または尿細管へ浸潤(しんじゅん)していることを意味しています。早期診断には必ずしも結びつきませんが、目に見えない顕微鏡的血尿も含めると、腎細胞がんの約50%に認められます。

B.画像診断

 腎細胞がんの診断は、まず超音波によるスクリーニングを行い、次にCT、さらにはMRI検査を追加することにより診断を確定することが一般的です。

①超音波検査

 腎の腫瘤性病変のスクリーニングとしてまず行われる検査です。これにより嚢胞性病変と実質性病変との区別が可能となります。また腎静脈や下大静脈内腫瘍塞栓の診断にも極めて有用です。

②CT検査

 単純CTでは、腎実質と同等かそれよりやや低いCT値を示す腫瘤像を認めます。ときに石灰化を伴うこともあり、通常の撮影条件での造影CTでは、腎実質よりも弱く、内部は不均一に増強される腫瘤として描出されます。またリンパ節の腫大や腎静脈血栓・下大静脈腫瘍塞栓を認めることもあります。

③MRI検査

 ガドリニウムで増強される腫瘤として描出されます。得られる情報量としてCTを上回るものはないと考えられていますが、多方面の断面像が得られたり、隣接臓器との立体関係が把握しやすいという利点があります。

④血管造影

 侵襲的検査であり、腎細胞がんの診断に必須ではありませんが、CT検査などで診断がつかない場合は行います。また術前に支配血管等についての情報を得るには有用な検査です。選択的腎動脈造影検査では血管過多の像を認めます。

治療の方法

 腎細胞がんは通常の化学療法に対して抵抗性を示すため、手術が治療の原則となります。放射線治療は、脳転移や骨転移のある症例が対象となりますが、原発巣は放射線治療の対象とはなりません。

 周囲組織への浸潤のため、手術適応にならない場合では、経動脈的に腫瘍血管塞栓術が行われます。また、転移巣に対しては、身体状態が良好な場合や肺転移がみられた場合において、INF­α (アルファ)(インターフェロンα)とIL­2(インターロイキン2)を中心とした免疫療法が標準治療として行われています。

病気に気づいたらどうする

 肉眼的血尿に気づいたら、泌尿器科あるいは腎臓内科の専門医の診察を受けてください。健診などで腎細胞がんが疑われた場合は、ただちに泌尿器科を受診してください。

来栖 厚

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報