米良氏(読み)めらうじ

改訂新版 世界大百科事典 「米良氏」の意味・わかりやすい解説

米良氏 (めらうじ)

熊野那智山の神職社僧として栄えた豪族で,代々那智実報院(実方院)を本拠とした。その祖は藤原実方中将といわれ,その子,僧泰救以来の熊野別当家の一門に属し,法橋範永を氏の祖とする。熊野参詣の道者を宿泊させ祈禱,参拝の導師を務める御師(おし)の職を世襲し,多数の熊野先達配下において全国に師檀関係を広げ,山内で最も勢力のある院家となった。4代目の法印道賢以後,熊野那智の執行(しぎよう)となる者が多く,那智山の一﨟(いちろう)といわれた。代々妻帯したが肉食はしない家柄であった。足利将軍家,戦国大名,徳川氏の御師職を務め,祈禱の巻数や熊野の牛玉宝印(ごおうほういん)などを送っている。同氏に伝来する《米良文書》は,南北朝時代の両朝からの文書や室町から江戸にかけての将軍家,武家書状をはじめ,引檀那,先達,御師関係の多数の文書から成り,中世熊野の信仰,組織,勢力などを示す重要史料である。《熊野那智大社文書》(《史料纂集》)所収。
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