神奈備種松(読み)かんなびのたねまつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「神奈備種松」の意味・わかりやすい解説

神奈備種松
かんなびのたねまつ

『うつほ物語』(吹上―上)に記された紀伊国(和歌山県)の長者。説話上の人物。紀伊の「国のまつりごと人」であったが、平安貴族の目からみると拙(つたな)き「百姓(ひゃくせい)」でしかなかった。しかし、その家政機構は、家司(けいし)30人がいる政所(まんどころ)を中心として、たてま所、大炊殿(おおいどの)、御炊屋(おかしきや)、酒殿、作物所(つくもどころ)、鋳物師(いもじ)所、鍛冶(かじ)屋、織物所、檜皮(ひわだ)屋、縫物所、糸所、染殿などを備えた豪華なものとして描写されている。かつては、誇張されているとはいえ、大名主(だいみょうしゅ)経営の一典型としてとらえられていたが、新しい視角からの位置づけが必要であろう。

[荒木敏夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

山川 日本史小辞典 改訂新版 「神奈備種松」の解説

神奈備種松
かんなびのたねまつ

「宇津保物語」吹上巻に登場する長者。紀伊国牟婁(むろ)郡に住み,「限なき宝の王(おおきみ)」で国の掾(じょう)の官をもち,吹上巻の主人公源涼(すずし)の外祖父という設定。1万~2万町の田をもち,20万~30万疋の綾・秘錦(ひごん)をも収取でき,家は20町もの直営田に囲まれる。築地をめぐらした8町四方の屋敷内には160もの倉や政所・御厩・牛屋・大炊殿(おおいどの)・酒殿・作物所(つくもどころ)・鋳物師所(いもじどころ)・鍛冶屋・織物所・染殿・神殿などが建ち並び,多くの使用人が働くという富豪ぶりが描かれる。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

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