日本大百科全書(ニッポニカ) 「磁石(狂言)」の意味・わかりやすい解説
磁石(狂言)
じしゃく
狂言の曲名。雑狂言。京へ向かう途中、すっぱ(詐欺師(さぎし)。シテ)にだまされて人買いの宿屋へ連れ込まれた田舎(いなか)の男は、宿の亭主とすっぱの話を立ち聞きして事情を察し、翌未明、自分の身代金を横取りして逃げ出す。追いかけてきたすっぱが太刀(たち)を抜いて斬(き)りつけようとすると、男はとっさに磁石の精になりすまし、その太刀を呑(の)もうと大口を開けてすっぱをたじろがせる。太刀を鞘(さや)に収めると、今度は倒れて死んだふりをする。あわてたすっぱが太刀を供え蘇生(そせい)を祈ると、男は起き上がって太刀をとり、すっぱを追い込んでいく。このように、すっぱを手玉にとってしまう田舎者は、狂言では珍しい。
[池田英悟]