看護法(読み)かんごほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「看護法」の意味・わかりやすい解説

看護法
かんごほう

一般には病人の健康回復への援助技術をいう。しかし、近年看護概念が拡大され、単に病人に限らず、すべての人々の健康の保持増進、疾病の予防技術等も含めて看護法というようになっている。看護はすべての場で行われ、家庭における看護は「家庭看護法」、医療施設で行われる看護は「臨床看護法」「救命・救急看護法」、地域、学校、職場で行われる看護は「公衆衛生看護法」と大別してよばれる。「臨床看護法」をさらに区分すると、直接的な病人の身の回りの世話をする「基礎看護法」と、診断、治療、検査等の介助をする「疾患別看護法」とになる。「基礎看護法」は、「家庭看護法」の範となる要素を数多く含んでいる。「救命・救急看護法」は高度な知識と判断力、技術が要求されるが、その一部は「応急手当」として「家庭看護法」に含まれている。「公衆衛生看護法」は、人々の健康を守る諸条件の調整とともに、日常生活のなかにおける衛生・保健教育、指導がおもなものとなる。しかし、どの看護法にも基本的に共通する目的は、人命を守り、苦痛を除き、安らかな心身でいられるように援助するということである。以上述べたことは、主として看護を職業とする者についてのあらましであるが、次に家庭での看護にも共通する「基礎看護法」について触れる。

[山根信子]

基礎看護法

まず、すべてのものを清潔にするということが第一原則となる。病人が楽に呼吸し生命を維持するためには新鮮な空気が必要であり、この新鮮な空気を保つために、換気を行わなければならない。この際、外気流が直接病人に当たらないようにスクリーン、カーテンなどを利用するとよい。大気汚染のひどい所では室内空気清浄器も必要となろう。室内は、塵埃(じんあい)、病原微生物が付着しないように、整理、整頓(せいとん)、清掃にあわせて、陽光を当て、通気をよくして乾燥させる配慮も必要である。寝具類はよく洗濯し、乾燥しているものを使用する。家庭内で畳の上にふとんを敷いて病臥(びょうが)する場合は、ふとんを2組用意し、1日交替で日光消毒をして用いるとよい。寝衣は原則として1日1回交換とする。入浴、シャワーが不可能なときは、ベッド上で1日1回、全身あるいは部分的に清拭(せいしき)bed bathを行う。排泄(はいせつ)後は、陰部の洗浄、清拭、手浴を行い、排泄物、汚物は速やかに処理する。洗髪、洗面も、可能な限り日常の習慣に従って行う。皮膚の清潔、乾燥は褥瘡(じょくそう)(床ずれ)を防ぐためにたいせつである。

 体力の消耗を防ぐためには、十分な栄養を含む食事が必要である。食事をおいしくとるためには運動も必要であるが、動けない病人の場合は、しばしば体位交換を行い、許される範囲内で手足の運動をさせる。排便も1日1回はあるように、食事とともに十分な水分を与え、ときには腹部のマッサージを行う。排便がないと、食も進まないのが普通である。病人は、とかくベッド上での排泄を嫌がり、食事、水分の摂取量を極力控える傾向があり、その結果として、便秘で苦しみ、尿路感染をおこすということがあるので、看護者はこの点をくれぐれも注意しなければならない。就寝前に足浴をすると、全身が暖まって快い睡眠が得られる。もちろん、照明、採光、騒音には細かい注意が必要である。病人にとって看護者の動きが騒音となる点も十分に注意したい。また、病状の変化を知るために、体温、脈拍、呼吸、血圧などを測定し、病人の訴えをも含めてそのつど記録し、病床日誌(看護記録)とする。

[山根信子]

その他の看護法

「疾患別看護法」としては、浣腸(かんちょう)、導尿、罨法(あんぽう)、吸入(酸素、薬液)、吸引、与薬、採血、包帯などがあげられる。「救命・救急看護法」の「応急手当」としては、人工呼吸法、止血法、骨折時の副木、傷口の消毒法などがある。「公衆衛生看護法」は、人々が社会(集団)生活を快適に送るための健康上の約束ごとを指導、実施するものであり、個人の手洗い、うがいの励行から、集団あるいは個人生活のなかから出てくる不潔・不要物の処理法まで含み、その範囲は非常に広い。

 いずれにしても、これらの看護法を効果的に行うには、病人に対する思いやりは当然のことながら、看護する人々の横の連携、情報の交換とその活用、鋭い観察力、洞察力と、だれが読んでもわかる記録が必要となる。

[山根信子]

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