皮膚色(読み)ひふしょく(英語表記)skin color

改訂新版 世界大百科事典 「皮膚色」の意味・わかりやすい解説

皮膚色 (ひふしょく)
skin color

皮膚色を決めるのは,主に表皮深層細胞に含まれるメラニンの量であり,真皮の細胞に含まれるメラニンも影響している。メラニン顆粒は,表皮深層のメラニン細胞で作られ,隣接する表皮と真皮の細胞に取り込まれる。なお,児斑蒙古斑)もメラニンによるものであるが,真皮の深層に存在する点が異なる。

 皮膚のメラニンの量は,浴びる紫外線の量によってある程度は変化するが,大部分は遺伝的に決まっている。メラニンには細胞を傷害する紫外線を遮る働きがあるので,紫外線の強い熱帯地方では,メラニンを多く含む濃色の皮膚のほうが皮膚癌になりにくく,生存に有利である。チンパンジーボノボの皮膚は黒い毛におおわれ,皮膚色自体は白い。人類はチンパンジーやボノボの祖先と分かれて進化し,体毛を失うとともに濃色の皮膚を発達させたと考えられる。したがって,黒い皮膚が人類の基本的な特徴である。淡色の皮膚は,人類の紫外線の弱い高緯度地域への移動に伴い,メラニンを産生させる遺伝子に有利に働く淘汰圧が減少し,突然変異が蓄積したために生じたと考えられる。また,ビタミンDを体内で作るには一定程度の紫外線を浴びる必要があり,メラニンを産生させない遺伝子に有利に働く淘汰圧が生じたことも関係していると考えられている。

 皮膚の色は,人類の集団によって多様であり,それは比較的近い過去の移動の歴史において,どの程度紫外線に晒されてきたかを示すものといえる。紫外線量がかなり異なる場所に人類の集団が移住した場合,淘汰圧の変化によって皮膚色を決める遺伝子の頻度が変化し,やがて安定する。これに要する時間は比較的短く,数千年のレベルと推定されている。ただし,メラニンの量を決める遺伝子は多数存在するので,同程度の皮膚色であっても遺伝的に近いとは限らない。また,エスキモーのように生の魚や肉からビタミンDを摂取する場合は,高緯度地方であっても比較的濃い皮膚色が維持される可能性がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報