甲状腺ホルモン剤(読み)コウジョウセンホルモンザイ

病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「甲状腺ホルモン剤」の解説

甲状腺ホルモン剤

製品名
《リオチロニンナトリウム製剤》
チロナミン(武田薬品工業
《レボチロキシンナトリウム水和物製剤》
チラーヂンS(あすか製薬、武田薬品工業)
レボチロキシンNa(サンド、富士製薬工業)

 いろいろな原因から、甲状腺でのホルモン分泌が不十分になると、糖質蛋白質たんぱくしつなどの代謝が円滑にいかなくなって、さまざまな症状をひきおこします。こうした状態が甲状腺機能低下症で、慢性甲状腺炎橋本病)、クレチン病先天性甲状腺機能低下症)、粘液水腫ねんえきすいしゅなどがあります。甲状腺機能低下症を治療するためには、不足している甲状腺ホルモンを補わなければなりません。甲状腺ホルモンを製剤化した薬が甲状腺ホルモン剤です。


 甲状腺ホルモン剤は、甲状腺機能低下症のほか、下垂体かすいたい性甲状腺機能低下症原発性甲状腺機能低下症の治療にも用いられます。甲状腺ホルモン剤は、少量から服用し始め、生涯服用し続ける必要がある薬です。


①過敏症状(発疹ほっしん発熱・かゆみなどのアレルギー症状)や、狭心症、肝機能障害、黄疸おうだん副腎クリーゼをおこすことがあります。リオチロニンナトリウム製剤では、ショック、うっ血性心不全、レボチロキシンナトリウム水和物製剤では、晩期循環不全をおこすことがあります。このような症状がおこったら服用を止め、すぐ医師に相談してください。


動悸どうき不整脈(脈の乱れ)、手の震え、不眠頭痛めまい発汗食欲不振、嘔吐下痢、不安、月経異常、筋肉痛、だるさ、体重減少といった症状がおこることがあります。こうした症状がおこったときは、医師に相談してください。


錠剤散剤があり、食後の服用が原則です。1日あるいは1回の服用量、服用時間については医師・薬剤師の指示を守り、かってに中止したり、減量・増量しないでください。


 また、服用するときは、十分な水(コップ1杯の水)で飲んでください。


②服用の効果が現れるまでには、数日から数週間かかります。


 かってな判断で中止したり服用量を変えたりしないでください。


③以前にこの薬を服用したときに過敏症状をおこしたことのある人、最近に心筋梗塞しんきんこうそくをおこした人には使用できません。あらかじめその旨を医師に報告してください。


④狭心症、時間のたった心筋梗塞動脈硬化症、高血圧症、副腎皮質ふくじんひしつ機能不全、脳下垂体のうかすいたい機能不全、糖尿病といった病気のある人、低出生体重児早産児には使用量を減らすなどの配慮をしないと、病状を悪化させることもあります。このような人は、あらかじめ医師にその旨を報告するとともに、服用の指示を正しく守ってください。


⑤高齢者が服用する必要のある場合には、まず少量から服用し始め、通常よりも長期間かけて増量し、日常的に服用する薬の量も最小必要量にとどめる必要があります。


 服用の指示をより厳重に守ってください。


⑥この薬と、ワルファリンカリウム製剤などの抗凝血剤とを併用すると、出血しやすくなります。


 また、薬によっては、血糖降下剤と併用すると、血糖降下剤の効果を低下させたり、エフェドリン、メチルエフェドリンなどの気管支拡張剤・鎮咳剤ちんがいざいと併用すると、気管支拡張剤・鎮咳剤の作用を増強することがあるので、これらの薬を服用している人は、あらかじめ医師に報告してください。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「甲状腺ホルモン剤」の意味・わかりやすい解説

甲状腺ホルモン剤
こうじょうせんほるもんざい

甲状腺ホルモンを含む薬剤の総称。甲状腺から分泌されるホルモンが甲状腺ホルモンで、チロキシン(レボチロキシンともいう)とトリヨードチロニン(リオチロニンともいう)の2種がある。甲状腺機能低下症、すなわち単純甲状腺腫(せんしゅ)、先天的な甲状腺ホルモン欠乏症であるクレチン症、後天的な欠乏症である粘液水腫の治療に用いられる。医薬品としては動物(ウシ、ブタ)の新鮮甲状腺を乾燥して製した乾燥甲状腺(「チレオイド」)、レボチロキシンナトリウム、リオチロニンナトリウム(「チロナミン」)の3種が市販されている。甲状腺ホルモンは生体の基礎代謝を亢進(こうしん)することから「やせぐすり」として用いられたことがあった。

 甲状腺機能亢進症にはバセドウ病があり、この治療には甲状腺ホルモンの合成を抑制する作用をもつ抗甲状腺ホルモン剤が用いられる。抗甲状腺ホルモン剤にはメチルチオウラシル、プロピルチオウラシル(PTU)、メチマゾール(MMI)などがあり、副作用として無顆粒(かりゅう)球症、白血球減少症、血小板減少症などがある。とくにメチルチオウラシルは副作用が大きいため市販を中止された。

[幸保文治]

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世界大百科事典(旧版)内の甲状腺ホルモン剤の言及

【甲状腺】より

…甲状腺機能亢進症を起こす病気はいくつもあるが,日本ではバセドー病が圧倒的に多い。ほかには,甲状腺結節(腺腫)がホルモンを過剰に分泌するプランマー病,炎症による破壊のため蓄えられていた甲状腺ホルモンが血中に流出する亜急性甲状腺炎の病初期,まれに脳下垂体などの腫瘍からの甲状腺刺激ホルモンの過剰分泌,絨毛(じゆうもう)性腫瘍からの甲状腺刺激物質の分泌,さらに甲状腺ホルモン剤の大量摂取による甲状腺機能亢進症がある。甲状腺ホルモンは種々の臓器に働き,その代謝回転を速める。…

※「甲状腺ホルモン剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」