環境基準(読み)かんきょうきじゅん

精選版 日本国語大辞典 「環境基準」の意味・読み・例文・類語

かんきょう‐きじゅん クヮンキャウ‥【環境基準】

〘名〙 環境基本法に基づいて政府が定める環境上の基準。大気汚染水質汚濁土壌汚染および騒音から人の健康を保護し、生活環境を保全するために維持されることが望ましい基準。

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デジタル大辞泉 「環境基準」の意味・読み・例文・類語

かんきょう‐きじゅん〔クワンキヤウ‐〕【環境基準】

環境基本法に基づいて、大気汚染・水質汚濁・騒音などから人の健康を守り、生活環境を保全するために設けられた環境上の基準。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「環境基準」の意味・わかりやすい解説

環境基準
かんきょうきじゅん

人の健康を保護し、また生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい環境上の条件についての基準(環境基本法16条)をいう。この基準を達成するために、個々の排出源に対する排出規制、土地利用及び施設の設置に関する規制、公害防止に関する施設の整備、公害防止計画、環境影響評価(環境アセスメント)など各種の施策が講じられる。環境基準は、こうした環境行政の到達すべき目標であって、それ自体として公害発生源に対して法律的効果をもつものでもないし、また、住民との関係でも、この基準を超えると人の健康に有害になるといった最低限度を示すものでもないし、この限度まではがまんしなければならないという受忍限度の役割を果たすものでもない。ただ、公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることによって、この環境基準を確保する努力義務を政府が負うにとどまる。環境基準の設定は中央環境審議会の審議を経て閣議決定されたのち、環境庁告示によりなされるが、法令の形式はとらない。環境基準は、国民の権利義務に関係なく単に行政の目標に過ぎないためである。

 現在までに設定された環境基準は、大気汚染、水質汚濁、騒音、土壌汚染に関するものである。大気汚染については、二酸化窒素一酸化炭素浮遊粒子状物質状物質、二酸化硫黄(いおう)、光化学オキシダントに関する基準が1973年(昭和48)に設定された。このうち二酸化窒素に係る環境基準は、1978年に1時間値の1日平均値0.02ppmが、0.04~0.06ppmに緩和された。これについてはいわゆるNOx窒素酸化物)訴訟が提起されたが、環境基準は国民の権利義務を定めるものではないから行政訴訟の対象にならないとして門前払いとなった。1997年(平成9)にはベンゼントリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンによる大気汚染に係る環境基準が設定された。水質汚濁については、人の健康に係るものと生活環境に係るものとに分けて定められている。前者はシアン、トリクロロエチレン、アルキル水鉄など有害物質の基準が全国一律であるが、後者は河川、湖沼、海域について、それぞれ利用目的に応じて、水素イオン濃度(pH)、生物化学的酸素要求量(BOD)ないし化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、溶存酸素量(DO)、大腸菌群数の基準が別々に定められている。窒素、リンの環境基準は富栄養化に対応するために湖沼と一定の海域について設定されている。1997年には地下水の水質汚濁に関する環境基準が設定された。騒音については、地域類型別、時間帯別に基準値が当てはめられており、道路に面する地域については特別の基準が設定されている。航空機騒音と新幹線騒音については特別の基準がある。土壌の環境基準は1991年に設定され、原則として農用地を含むすべての土壌を対象に、カドミウム、シアン、有機リンなど25項目がある。1999年7月に成立したダイオキシン類対策特別措置法により、ダイオキシンについての環境基準が大気、水、土壌について設けられた。

[阿部泰隆]

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百科事典マイペディア 「環境基準」の意味・わかりやすい解説

環境基準【かんきょうきじゅん】

環境基本法の第16条は〈政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする〉として,環境基準の設定を義務づけている。大気汚染の環境基準としてすでに設定されているものを設定時期の早い順に挙げると,硫黄酸化物,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,二酸化窒素,光化学オキシダントベンゼンの六つ。水質汚濁では〈人の健康の保護に関する環境基準〉と〈生活環境の保護に関する環境基準〉の二つに分けて設定されており,前者はカドミウムや全シアンなど23の物質について,後者は利水目的に応じた水域類型ごとに水素イオン濃度(pH),生物化学的酸素要求量(BOD),化学的酸素要求量(COD)などについて基準値が具体的に示されることになっている。土壌汚染の環境基準はカドミウムやヒ素など10物質,騒音は工場騒音と道路交通騒音を中心とした一般騒音,航空機騒音,新幹線鉄道騒音の三つについて,それぞれ用途地域や時間などに分けて基準値を設定している。
→関連項目クロム公害公害防止条例杉並病ディーゼル排出ガス公害

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改訂新版 世界大百科事典 「環境基準」の意味・わかりやすい解説

環境基準 (かんきょうきじゅん)

人の健康を保護し,生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準。〈環境基本法〉16条で,〈政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする〉と規定されている。政府,自治体などが公害の防止に関する対策を講ずる際の目標となるものであり,人の健康保護に関するもの,生活環境保全に関するものの2種類がある。

 騒音に係る環境基準は,生活環境の保全に関して,一般騒音のほか,航空機騒音および新幹線騒音について定められている。また,大気環境基準では,人の健康保護に関して,二酸化硫黄,粒子状物質,一酸化炭素,光化学オキシダントおよび二酸化窒素についてその基準値が定められている。水質環境基準は,人の健康保護に関して,公共用水域のカドミウム,シアン,鉛,クロム(6価),ヒ素,総水銀,アルキル水銀およびPCBなど23項目の物質について定められており,生活環境の保全に関しては,河川,湖沼,海域ごとに,利用目的などに応じて設けられた水域類型について,生物化学的酸素要求量(BOD),化学的酸素要求量(COD),溶存酸素(DO)などの項目について,定められている。

 環境基準は,その時点において集積された科学的知見を基礎として,技術的・経済的実行の可能性と,それに伴う費用-便益関係を考慮して,政府の行政判断として決定され,本来,行政の努力目標であって法的拘束力をもたない。ただし地方自治体などが実施するばい煙総量削減計画などでは,大気汚染防止法によって環境基準を確保することが規定されており,法的拘束力を生ずる。環境基準は,それが決められた時点における最善の科学的知識を基礎として決められるものであるが,科学的知見は必ずしも十分でない場合が多く,また,国民の健康の保護をどのような水準で考えるかは,その時代の健康観によっても判断が分かれる。このため,〈環境基本法〉では,基準についてはつねに適切な科学的判断が加えられ必要な改定がなされなければならないと規定している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「環境基準」の意味・わかりやすい解説

環境基準
かんきょうきじゅん

公害対策基本法 9条の規定により,汚染物質や騒音から人の健康を守り,生活環境を良好に保つために必要な環境の条件を基準化したもの。政府が閣議により行政的に決定して公布することになっているが,基準自体は行政上の到達目標であって,それ以上の法的効果はない。基準を定めることになっている大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音の4種類のうち,大気汚染が5物質 (二酸化硫黄,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,二酸化窒素,光化学オキシダント) ,水質汚濁が有害物質9項目 (シアン,アルキル水銀,有機リン,カドミウム,鉛,六価クロム,ヒ素,総水銀,PCB) ,生活環境項目として河川,湖沼,海域について各5項目,騒音が3種類 (航空機,新幹線,一般) 定められている。公害防止計画はこの基準達成を求めて樹立され,また,各法令の規制基準もこの達成を考慮して規定されるたてまえになっている。適合の状況は,二酸化硫黄については適合する地域が多くなっているが,窒素酸化物は,1979年大幅に基準を緩和したにもかかわらず,大都市では改善の見込みの立たない地域が多く,水質改善についても確たる見通しのもてないものが多い。

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化学辞典 第2版 「環境基準」の解説

環境基準
カンキョウキジュン
environmental quality standard

大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,および騒音にかかわる環境上の項目について,ヒトの健康を保護し,生活環境を保全するうえで維持されることが望ましいとして,政府が環境基本法第16条で定めた基準をいう.大気汚染に関しては,二酸化硫黄,浮遊粒子状物質,一酸化炭素,二酸化炭素,光化学オキシダントなどの9物質について,水質汚濁に関しては,カドミウム,シアン,有機水銀,PCBなどの量が,生活環境の保全に関しては,河川,湖沼,海域の水域ごとに,利用目的に応じて pH,BODまたはCOD,溶存酸素量(DO),大腸菌群数などについて,騒音に関しては,地域や時間ごとに基準値が定められている.公害対策を進めていくうえでの行政上の目標として定められたものであり,直接,工場などのばい煙や廃水,騒音の発生を規制する規制基準とは異なる.

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知恵蔵 「環境基準」の解説

環境基準

環境基本法(1993年制定)に基づき、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で、維持されることが望ましい基準。大気、水質、騒音、土壌について定めている。大気汚染では、二酸化硫黄、一酸化炭素、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン。水質汚濁では人の健康保護基準と生活環境保全基準がある。健康保護基準はシアンや総水銀など26項目。環境保全基準はCOD、BOD、水素イオン濃度(pH)など7項目。河川、湖沼、海域ごとに水域類型を指定し、基準の達成を図る。騒音では、地域を3つに類型化し、昼間と夜間の時間ごとに基準値を決め、達成、維持を図る。

(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)

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栄養・生化学辞典 「環境基準」の解説

環境基準

 公害対策基本法に基づいて水質汚濁防止法,大気汚染防止法で定められた基準.

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世界大百科事典(旧版)内の環境基準の言及

【水質基準】より

…水を利用する際の適合性の判定となる基準。人が水を利用する形態によって水質基準の内容は違ってくるが,日本では,公共水域の水質は環境基本法により定められており,その内容は,人の健康保護に関する環境基準と生活環境の保全に関する環境基準の二通りの規制となっている。公共水域の水質保全があらゆる水利用の共通基盤となることから,このような二通りの規制がとられているのである。…

※「環境基準」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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