日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭田」の意味・わかりやすい解説
炭田
たんでん
coal field
現代の採掘技術のレベルで採算があって採掘のできる炭量が豊富に埋蔵されている区域を炭田という。石炭は、樹木の遺骸(いがい)が、ある地区に堆積(たいせき)し土砂をかぶって埋没したあと、長年月の間に土砂・岩石等の圧力および地熱、造山運動等の地質的擾乱(じょうらん)の際に生ずる熱作用を受けて、できたものである。このことを「石炭化作用」という。そして「石炭化」の程度によって「褐炭」「亜瀝青(あれきせい)炭」「瀝青炭」および「無煙炭」と変化していく。1998年世界エネルギー会議で推測された、全世界の瀝青炭・無煙炭と亜瀝青炭・褐炭の埋蔵量および技術力と経済性を考慮した採掘可能量によると、全世界では約7兆トンの埋蔵量はあるが、その14%の約9800億トンが採掘できることがわかっている。
炭田の埋蔵量の計算方法は次のようにして行う。すなわち、現採掘区域に隣接し、炭層内の二面で囲んだ範囲内に石炭の存在が確認されている部内の炭量、露頭(炭層が地表に露出している部分をいい、地表で炭層を探査するには最良の決め手となる)・坑道・ボーリング等で炭層の存在が認められていて、かつ採掘が計画されている区域の炭量、さらにこれに加えて、炭層確認度は上記のとおりで、将来採掘を予定している区域に存在する炭量等を合算して「確定炭量」という。次に、現採掘深度内にあり、地質条件等からみて炭層の存在が考えられる部内の炭量に、将来の採掘深度内でも同じ地質条件下にある部分の炭量等を合算して「推定炭量」という。これに対して、地質構造およびボーリング・物理探査等の結果を総合して、炭層があると判定でき、将来採掘が予定できる区域での炭量を「予想炭量」という。なお、予想炭量として算入できるには、日本では炭層の厚さが1メートル以上、炭層の深さは地表から1200メートル以内のものに限っている。以上、確定、推定および予想の三つの炭量の合計が「理論可採埋蔵炭量」であるが、理論可採埋蔵炭量といえども、全量は採掘できるとは限らない。地表条件、地質構造等で採掘不能の部分がある。この炭量を除き、採掘可能と考えられる量を「安全炭量」という。しかし、安全炭量も実際に採掘してみると、坑内条件、保安上の理由等々で、採掘されずに取り残されてしまう炭量が生ずるため、実質上の生産量は安全炭量より少なく、これを「実収炭量」といっている。また一方では、経済的見地から、採算性の考えられる炭量を「経済炭量」ともいい、実収炭量よりさらに少ない量を計算することもある。
以上のように、世界の理論可採埋蔵炭量は莫大(ばくだい)な量ではあるが、うちロシア、アメリカが世界全体の約80%を占めている。なかでも、ロシアは約4兆トンの理論埋蔵量があるといわれている。
[磯部俊郎]
世界のおもな炭田
世界の主要炭田についてはIEA(国際エネルギー機関)の資料がもっとも信頼できる。炭田の分類等は国により多少異なるが、無煙炭から褐炭まで含めて、多量な石炭を有する国々はロシア、アメリカ、中国、オーストラリア、ポーランド、南アフリカ共和国、ドイツ、インド、イギリスなどである。
[磯部俊郎]
日本の炭田
1998年世界エネルギー会議資料によれば、わが国の理論可採埋蔵炭量は82億7700万トン、うち7億8500万トンが採掘可能と算出されている。石炭は全国的に分布はしているが、炭田といいうるものは、北海道では、中央部の石狩(いしかり)、東部の釧路(くしろ)、最北端の稚内(わっかない)地方にある天北(てんぽく)の3炭田、本州では、福島・茨城県にまたがる常磐(じょうばん)、山口県宇部(うべ)地方の瀬戸内海海底の宇部、同県中央部の大嶺(おおみね)炭田があげられ、九州では、福岡県北部の筑豊(ちくほう)、宗像(むなかた)、福岡の3炭田、同県南部には佐賀県にも及んでいる三池(みいけ)炭田がある。長崎・佐賀両県にまたがる唐津(からつ)、佐世保(させぼ)炭田および長崎県の五島(ごとう)列島と西彼杵(にしそのぎ)半島間の海底にある崎戸(さきと)松島および高島炭田が有名である。両海底炭田は一つのもので、良質原料炭が埋蔵されているわが国最大の海底炭田と考えられ、「西彼杵炭田」ともいわれている。
しかし炭量枯渇や炭質劣化により、また良質炭を産出したところでも安価な海外からの輸入炭に押され鉱山の閉山が相次ぎ、2002年(平成14)の太平洋炭礦(釧路)閉山を最後に大手炭鉱はすべて姿を消した。今後日本は産炭国ではなくなる可能性が大きいが、炭田は保有していると考えてよい。ただし経済炭量はゼロということになる。
[磯部俊郎]