出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
大腸粘膜が炎症を起こしてただれ、びらんや潰瘍を形成します。症状は
もともと欧米人に多く日本人には少ないと考えられていましたが、最近、日本でも急速に患者数が増えています。
大腸粘膜に対する異常な免疫反応、つまり、体のなかに異常な抗体ができ、これが自分の大腸粘膜を攻撃することなどが原因とされていますが、遺伝的素因や食生活、腸内細菌
血便、粘血便、下痢、腹痛が主な症状です。ひどくなると体重減少や貧血、発熱がみられます。治療によって改善しても数カ月から数年後に再び悪化し、それを繰り返す場合(
診断のためには大腸内視鏡検査が必要です。潰瘍性大腸炎の炎症の特徴は、びまん性、連続性と表現され、大腸粘膜の全周にわたる炎症が直腸から連続してみられます。炎症が直腸だけに限られている直腸炎型、直腸から大腸の左半分まで広がっている左側大腸炎型、大腸全体に炎症のある全大腸炎型に分けられます。
注腸造影検査でも、大腸の炎症や変形の広がりを知ることができます。血液検査では、炎症反応の程度をみたり、貧血や栄養不良が生じていないかなどを調べます。
多くの患者さんは適切な治療で通常の社会生活が可能ですが、重症度により治療法が異なります。比較的軽症の場合は、5アミノサリチル酸製剤(サラゾピリン、ペンタサ)の内服、ステロイド薬の内服を行います。炎症が直腸や大腸の左半部に限られている時には、ペンタサやステロイド薬の注腸製剤を肛門から腸の中に注入して使用する場合もあります。
重症の場合は入院し、サラゾピリンやペンタサの内服に加えてステロイド薬を静脈内投与します。腸管を安静にするため絶食とし、中心静脈栄養が必要になることもあります。白血球除去療法は炎症の原因となる白血球を血液から取り除く治療で、副作用が少ないことが特徴です。病状によって免疫抑制薬を使用することもあります。
これらの治療で改善せず激しい症状が続く時や、たびたび悪化して社会生活にさしつかえるような時には、大腸を摘出する手術が必要になります。また潰瘍性大腸炎を発症して10年以上たつと、大腸がんの発生する危険性が高くなります。大腸がんが発見された場合も大腸全摘手術が必要です。
よくなったり悪くなったり(緩解と再燃)を繰り返すことが多いため、緩解期になっても治療を中断しないことが大切です。緩解期には厳しい食事制限は必要ありませんが、症状のある時には、高脂肪食や繊維質の多い食事を避け、アルコールや香辛料をひかえるようにします。肉体的、精神的ストレスをきっかけに悪化することがあるため、ストレスを多く受けないような自己管理も重要です。
厚生労働省の特定疾患に指定されているので、申請すると医療費の補助が受けられます。
日比 紀文, 高木 英恵
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
大腸粘膜に広範な潰瘍やびらん(浅い潰瘍)ができる原因不明の慢性炎症性腸疾患である。近年では自己免疫疾患と考えられ、クローン病とともに特定疾患(難病)に指定されている。日本では、まれな疾患であったが、1970年代から急速に増加し、今では普通にみられる疾患となった。もっとも発症の多い年代は20歳代だが、小児や50歳代にも発生する。重症度により、軽症、中等症、重症、劇症に分けられるが、多くの患者は症状が軽くなる緩解(かんかい)と症状が重くなる増悪(ぞうあく)を繰り返しながら長期間の経過をとる。病変の広がりから全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型、区域大腸炎型などに分けられる。
症状は、下痢、血便、粘血便、貧血、腹痛などのほか発熱、食欲不振、体重減少、尿路結石、結膜炎、関節炎などの腸管外合併症を伴うこともある。また、腸管の合併症として出血、穿孔(せんこう)、狭窄(きょうさく)、巨大結腸症がある。
診断は、慢性の粘血便や下痢の患者では内視鏡検査、注腸X線検査、さらには生検によって潰瘍性大腸炎の特徴的な組織所見を認めることでなされる。
治療は、食事や日常生活の指導に始まり、薬物としては5-ASA製剤や副腎皮質ステロイドを主体にして免疫抑制剤や白血球除去療法などが行われる。さらに重症例や腸管合併症、内科療法の効果が認められない場合には外科手術が行われる。また、10年以上の長期経過例では大腸癌(がん)の発生リスクが高く、大腸内視鏡によって癌発生をチェックする定期的検査が必要である。
[安富正幸]
大腸の,主として粘膜と粘膜下層に炎症がみられ,しばしば糜爛(びらん)や潰瘍を形成する特発性非特異性の瀰漫(びまん)性炎症性疾患。30歳以下の成人に多いが小児や50歳以上のものにもみられ,しばしば慢性となり,悪化と軽快をくり返す。欧米でいう特発性直腸結腸炎idiopathic proctocolitisは本症を指す。病因は,細菌やウイルスなどの感染説,酵素障害説,食餌アレルギー説,自己免疫説,心身症説,遺伝素因説などがあるが,決定的なものはない。頻度は欧米人に多い疾患で,人口10万人につき有病率は42~80人,発生率2.3~6.5人,日本では有病率1.3~1.8人,発生率0.2~0.3人である。好発年齢は20歳代で,30歳を超えると漸減していき,55~60歳にもう一つの小さなピークがある二峰性で,都市部や食生活の欧米化が進んだ地域に頻度が高い。病変は通常直腸に始まり,多くは結腸にひろがり全結腸に及ぶ例もある。罹患部位により直腸炎型,左側大腸炎型,全大腸炎型,右側または区域性大腸炎型に,また病状の経過によって初回発作型,急性電撃型,慢性持続型,再燃緩解型などに分けられる。症状は,ときに急激な発熱と粘血便で起こることもあるが,多くは潜行的に発症し,持続的または反復的な粘血・血便,ついで下痢と腹痛を訴える。重症例では1日10~30回の下痢,腹痛,しぶり,発熱,食欲不振,赤沈値上昇,白血球増加,低タンパク血症,貧血を呈し,ときに中毒性巨大結腸症,腸穿孔(せんこう),腸大出血などの合併症を伴う。長期罹患例で癌化することもある。診断は,症状からの判断と大腸内視鏡検査,大腸X線検査,腸生検などによる。治療はおもに内科的療法で,サラゾスルホピリジン,5-アミノサリチル酸,副腎皮質ステロイドホルモン,免疫抑制剤が用いられるが,ときに腸切除術や回腸肛門吻合術兼回腸囊形成術などの外科的療法が行われる。死亡率は日本では1~2%である。
執筆者:朝倉 均
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(2012-09-28)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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