日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
本居宣長(小林秀雄の評伝)
もとおりのりなが
小林秀雄(ひでお)の評伝。1965年(昭和40)から76年に至る11年半『新潮』に連載、77年10月新潮社刊。日本文学大賞を受けた晩年の代表作で、小林秀雄最大の仕事でもある。宣長の国学が中江藤樹(とうじゅ)、伊藤仁斎(じんさい)、荻生徂徠(おぎゅうそらい)の江戸儒学との関連において、古道の闡明(せんめい)・把握として理解されている。分析や解釈によるのでなく、宣長の肉声に耳を澄ますことによって宣長の思想をみいだそうとするところに、精神的人間がくぐり抜けねばならなかった内的ドラマへの強い志向がうかがえる。「からごころ」を退け、古代のことばを求めている点で、歴史と人間と言語の一致の追求でもあったといえる。なお、その後に刊行された『本居宣長補記』(1982・新潮社)は宣長の「真暦考」などを取り上げ、小林秀雄最晩年の澄明な思索を示している。
[高橋英夫]