月経のおこるしくみ(読み)げっけいのおこるしくみ

家庭医学館 「月経のおこるしくみ」の解説

げっけいのおこるしくみ【月経のおこるしくみ】

 月経のおこるしくみは、思いのほか複雑なメカニズムによってなりたっています。
 まず視床下部(ししょうかぶ)・下垂体(かすいたい)・卵巣(らんそう)系のホルモンのつながりを理解してください。
 視床下部というのは、脳の深部にあります。視床下部には、呼吸中枢(ちゅうすう)、体温調節中枢、摂食(せっしょく)中枢など、生命を維持するために重要な中枢が集中しており、女性の性周期をつくる中枢(性中枢)も、ここに存在します。
 最近、脳内(のうない)ホルモンがいろいろと見つかっています。たとえば、セロトニンメラトニンエンドルフィン、ドパミンなどです。悩み、苦痛、体重減少、睡眠不足、疲労、スポーツ負荷などのさまざまなストレスは、脳内ホルモンに影響を与え、視床下部の性中枢を抑制します。そのため、ストレスにより月経が不順になったり、停止したりするのです。
 月経周期の初めには、まず視床下部から性腺刺激(せいせんしげき)ホルモン放出ホルモン(Gn‐RH)というホルモンが分泌(ぶんぴつ)されます。これが下垂体前葉(ぜんよう)に作用し、下垂体から卵胞刺激(らんぽうしげき)ホルモン(FSH)と黄体形成(おうたいけいせい)ホルモン(LH)という2種類の卵巣(らんそう)を刺激するホルモンを分泌させます(これらをゴナドトロピンといいます)。その結果、卵巣では卵胞が発育してきます。
 卵巣は、その名のとおり卵(らん)がたくさんつまっています。この卵は、けっして新しくつくられることはなく、胎生期(たいせいき)(女児が母親の子宮内に発生したとき)に、卵巣が形成される際、つくられたものです。
 卵の周囲には、顆粒膜(かりゅうまく)細胞と莢膜(きょうまく)(卵胞膜)細胞があり、ゴナドトロピンなどによって発育・増殖して、エストロゲン卵胞ホルモン)を分泌し、卵胞液がたまってきます。そして、中の卵も成熟します。これらの現象を、卵胞発育といいます。
 エストロゲンは、子宮内膜(しきゅうないまく)を増殖させたり、頸管粘液(けいかんねんえき)を分泌させたりします。頸管粘液は、性交時に精子が子宮腔(しきゅうくう)に上昇したり、受精(じゅせい)したりするのを助けるはたらきがあります。
 また、このエストロゲンの上昇は中枢にはたらきかけ、LHサージをおこします。
 LHサージというのは、下垂体から一時的に大量のLHが分泌されることをいい、この現象によって、卵巣の卵胞は破裂し、排卵(はいらん)がおこります。
 排卵したあとの卵胞は、黄体化(おうたいか)して黄体となります(黄体形成)。
 黄体からはエストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌され、この影響で、子宮内膜は分泌変化をおこします。
 分泌変化とは、子宮内膜が、受精した卵に栄養を供給するためにグリコーゲンに富んだ状態になったり、細胞と細胞の間が広がって絨毛(じゅうもう)が侵入しやすくなるなど、受精卵が着床(ちゃくしょう)したり、生着(せいちゃく)したりして妊娠が成立するのを手助けするような変化をさします。
 性交渉がなかったり、受精や着床がおこらなければ、黄体は形成から約2週間で白体化(はくたいか)(萎縮(いしゅく)し白色になって退化する)し、エストロゲンとプロゲステロンの分泌は低下してきます。これをホルモンの消退(しょうたい)といいます。
 こうなると、子宮内膜はその構造を保てなくなり、内膜がはがれて出血をおこします。これが月経(げっけい)です。
 したがって月経とは、排卵があって、十分女性ホルモンが分泌されたのち、そのホルモンが消退するとき、子宮内膜がはがれて、性器出血をおこすことをさします(消退出血(しょうたいしゅっけつ))。
 つまり、月経が正順(定期的)にあるということは、前述したような、視床下部・下垂体・卵巣・子宮のはたらきが、正常だということを意味しているのです。
 月経は、ふつう7日間程度で止まります。これは、つぎの周期の卵胞発育が開始し、エストロゲンが上昇しはじめることによります。つまり、はがれたあとの子宮内膜が、再び新しい内膜によっておおわれることにより、止血するわけです。
 また、子宮出血には、前述した消退出血以外に、破綻出血(はたんしゅっけつ)というものがあります。
 これは、卵胞発育があり、エストロゲンを分泌しているにもかかわらず、排卵がない場合におこります。つまり、エストロゲンの分泌が持続し、子宮内膜は増殖し続けますが、排卵がなく、その2週間後のホルモンの消退もないため、あまりにも厚くなった内膜が破綻し、くずれてくるのです。こうなると、さみだれ式に内膜がこわれ、出血は少量、ときには大量で、いつになってもなかなか出血が止まらないという現象がおこります。
 このようなことは、性成熟期でも、卵巣のはたらきが十分でない人にときどきみられますが、とくによくおこりやすいのは、性機能がまだ完成していない思春期と、性機能が低下しつつある更年期です。
 これを、機能性子宮出血(「機能性出血」)といいますが、若い人にみられる場合には、若年性出血などとも呼ばれます。ときには、大量出血のため、出血性ショックをおこし、輸血をしないと救命できない場合すらあります。
●初経(しょけい)(初潮(しょちょう))
●閉経(へいけい)

●初経(しょけい)(初潮(しょちょう))
 初経は、女子の第二次性徴(せいちょう)の1つで、9~15歳でおこり、平均では12歳となっています。
 卵胞が成熟し、エストロゲンが分泌されるようになると、乳房の発育、恥毛(ちもう)の発毛とともに、子宮の発育、子宮内膜の増殖がおこり、月経が始まりますが、多くの場合、初経は無排卵性出血(むはいらんせいしゅっけつ)です。
 しかし、18~20歳ごろまでには、たいていの場合、排卵周期となって、月経が正順化してきます。
 したがって、初経から4~5年は無排卵であることが多く、周期も不順なことが多いようです。前述の若年性出血も、このころおこりやすいものです。
 16歳になっても初経がない場合は、産婦人科を受診しましょう。
 16~17歳で初経がある場合を、遅発初経(ちはつしょけい)といいますが、初経があれば、重大な問題があることはまれです。
 18歳になっても初経がない場合を、原発性無月経(げんぱつせいむげっけい)といいます。この場合、染色体異常や性管分化の異常(性器の先天形態異常)があることが少なくなく、ときには、脳腫瘍(のうしゅよう)(頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)(「脳腫瘍とは」の頭蓋咽頭腫)など)のこともあります。
 16歳までに初経がない場合には、遅発初経よりも、むしろ結果としては、原発性無月経であることが多いので、やはり、産婦人科で一度詳しく検査しておくとよいでしょう。
 月経のあった人が、3か月間以上月経がなくなった状態を、続発性無月経(ぞくはつせいむげっけい)といいます。
 妊娠をのぞけば、性中枢がストレスによって抑制されたため、視床下部・下垂体・卵巣系のはたらきが停止して、結果として無月経となることがほとんどです。
 ストレスにはさまざまなものがありますが、体重減少によるものが代表的です。正常体重の女性が、美容を目的に無理なダイエットをした結果おこることが多く、とくに、性成熟の過程にある思春期にダイエットすることは、たいへん危険であることを知っておく必要があります(体重減少性無月経(たいじゅうげんしょうせいむげっけい))。
 このほか、最近、女子マラソンが盛んですが、運動(うんどう)(スポーツ)性無月経(せいむげっけい)としては、長距離ランナーの無月経が多く、注意が必要です。
 エストロゲンは、骨の代謝にたいへん密接な関係があります。長期の無月経で、エストロゲンが分泌されないと、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)(「骨粗鬆症」)をおこします。
 女性の骨量は、20代がピークであり、思春期の長期の無月経は、一生の骨量が低いレベルとなり、年をとってから、骨粗鬆症が顕在化することになります。
 このほか、高(こう)プロラクチン血症(けっしょう)といって、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)が高いために、排卵が障害されることがあります。プロラクチンが高くなると、産後でもないのに乳汁分泌がみられることがあり、この場合を乳汁漏(にゅうじゅうろう)といいます。
 高プロラクチン血症は、胃薬の一部などの薬剤が原因のこともありますので、ほかに内服している薬があれば、担当医に相談してください。
 以上のほかに、下垂体の腫瘍によって無月経となる場合もあり、いずれにしても、詳しく検査する必要があります。

●閉経(へいけい)
 45~55歳くらい、平均51歳で、月経が停止します。
 卵巣の加齢により、ゴナドトロピンに対する反応性は低下してきます。
 40歳代後半になると、無排卵周期が増えてきて、徐々に月経不順となってきます。また、エストロゲン分泌の低下や無排卵、ゴナドトロピンの上昇がみられるようになります。
 このころから、更年期(こうねんき)と呼ばれる時期になり、のぼせ、いらいらなどを訴えることが多くなります。
 更年期にみられるこのような障害を、更年期障害(「更年期障害」)と呼びます。更年期障害は、閉経の数年前から始まり、閉経後も5年程度は続くことが多いようです。
 この時期は、卵巣機能不全による不正性器出血をおこしやすいのですが、同時に、がんなどの器質的疾患による不正性器出血の可能性もあります。したがって、自分で判断せずに、産婦人科を受診して、検査を受けることをお勧めします。

出典 小学館家庭医学館について 情報