日本大百科全書(ニッポニカ) 「昇華(精神分析)」の意味・わかりやすい解説
昇華(精神分析)
しょうか
sublimation
精神分析の用語。性衝動を本来の目標から社会的・文化的により価値の高い目標に向け換えることをいう。衝動に対し抑圧などの防衛法を用いると、抑圧されたものが意識に逆戻りするのを防ぐための逆備給(反対充当ともいう)に心的エネルギーを消費しなければならないが、昇華では心的エネルギーを社会的に有用な活動に用いることができるようになる。フロイトの衝動論によれば、衝動は性的目標を達成しようとするものであるが、芸術的創作とか知的活動のようなものは、性的目標を達成しようとするものではない。このような非性的なものをどう説明するかは、フロイトにとって理論的に解決しなければならない難問であるが、これを昇華という概念で解決しようとしている。どうしてこのような昇華がおきてくるかについては、かならずしも明白ではなく、対象リビドーが自我リビドーに変換されるときに昇華がおこるような説明が試みられたりしている。理想化、反動形成、抑圧などは昇華とどんな親近性をもっているか問題のあるところである。
[外林大作・川幡政道]
『フロイト著、懸田克躬・吉村博次訳「ナルシシズム入門」(『フロイト著作集5』所収・1969・人文書院)』▽『エルンスト・クリス著、馬場礼子訳『芸術の精神分析的研究』(1976・岩崎学術出版社)』