早期興奮症候群

内科学 第10版 「早期興奮症候群」の解説

早期興奮症候群(上室頻脈性不整脈)

g.早期興奮症候群(preexcitation syndrome)
 房室結節と心室の刺激伝導系以外または途中で直接心室筋を興奮させる異常経路による心室の興奮をいう(図5-6-17).早期興奮症候群が臨床的に問題となるのは,不整脈として回帰頻拍の原因になったり,心房細動時は速い心室応答をきたすことによる.またQRS波形が変形することから,心筋梗塞と類似の波形を呈する.
 ⅰ) WPW症候群(Wolff-Parkinson-White synd­rome)
概念
Kent束が心房と心室を直接結んでいる.房室回帰頻拍をきたしたり,心房細動時に速い心室への伝導を生じる.
分類
デルタ波が常時みられるものと間欠的に出没を繰り返すものがある.後者を間欠性WPW症候群とよぶ.また逆伝導のみが可能なKent束を有する例を不顕性または潜在性WPW症候群とよぶ.これは発作性上室頻拍の原因となる(上記).Kent束の局在によってQRS波形が異なり,心電図のV1の波形からA,B,C型に分けられる(図5-6-18).
原因・成因
Kent束は本来消失すべき心房-心室間の心筋結合が残存したもので,先天性である.
疫学
一般集団の1/1000〜2/1000人にみられる.出生時により高率に認められ,その後一部は消失する.
病態生理
WPW症候群の頻脈は,80%は回帰頻拍,15%は心房細動または粗動による.正常の房室伝導系とKent束からなる2本の経路があるため,回帰頻拍をきたす.多くは心房-房室結節-心室-副伝導路-心房からなる経路を興奮が旋回するためnarrow QRS頻拍を示す(図5-6-19A).約10%でこの逆の興奮旋回が認められ,QRSは幅広い頻拍を呈する(図5-6-19B).10%前後に複数Kent束例があり,まれに2本のKent束を旋回する回帰頻拍もある(図5-6-19C).
 またKent束は心房筋と同じ電気生理学的性質を有するため,心房細動時に心室への過度の伝導が生じ,偽性心室頻拍とよばれる.心房細動時にKent束を介して興奮したQRS間隔が0.2秒以内の例では,心室細動に移行する危険が高い(図5-6-20).
臨床症状
回帰頻拍は突然発症し,動悸,胸内苦悶感,不安感,血圧低下などをきたす.めまいや意識消失もある.まれに突然死がある.
診断
副伝導路を介して心室の一部が房室結節を介した伝導よりも早期に興奮するため,心電図でPQ短縮(0.12秒以下)とQRSの変形を認める.
 診断の確定は心電図で,①PRの短縮(<0.12秒),②デルタ波からなされるが,A型はV1で高いR,B型はrS,C型はQS,Qrを示す(図5-6-18).
 房室結節を下行路とする回帰頻拍ではQRSは正常で,副伝導路を下行路とする頻拍ではデルタ波が強調されたQRS波形を示す頻拍となる(図5-6-19).前者を正方向性回帰頻拍,後者を逆方向性回帰頻拍とよぶ.逆方向性回帰頻拍および2本のKent束を旋回する回帰頻拍では,心室頻拍との鑑別が重要である.
経過・予後
まれに突然死がある.これは伝導性のよいKent束を有する例に心房細動の合併する場合で,心室細動に移行するためである.WPW症候群の約15〜30%のKent束は短い不応期を有し心房細動の場合は危険になる(図5-6-20).
治療
回帰頻拍は抗不整脈薬でKent束または房室伝導を抑制することで停止する.ジギタリスはKent束の不応期を短縮させるので禁忌となる.心房細動の合併例やショック例では直流通電で停止させる場合もある.
 回帰性頻拍や心房細動は停止させても再発するので,予防または根治が望ましい.WPW症候群はカテーテルアブレーションの最もよい適応疾患で,安全かつ90%以上で治療に成功し根治する(図5-6-21).
 ⅱ)Mahaim束
概念
心房と右脚または房室結節と脚を結ぶものと,脚と心室をバイパスするものがある.
原因・成因
先天性.
疫学
WPW症候群よりはるかに少ない.
病態生理
心房から右脚へまたは房室結節と心筋を結ぶものが多い.心房に速い刺激を与えると伝導が遅延するという性質を示す.脚と心室をバイパスするものはこのような性質はなく,速い心房刺激でも一定のデルタ波を示す.
臨床症状
WPW症候群に比べ頻拍症例は少ない.
診断
洞調律時の心電図では正常のことが多い.房室伝導が遅延するとデルタ波がはっきりしてくる.早期興奮がみられるとQRSが変形するため心筋梗塞と鑑別を要する.
経過・予後
頻拍の原因にならない限り予後は良好である.
治療
頻拍例ではWPW症候群と同様である.
 ⅲ)LGL症候群
概念
房室結節の特殊な繊維により機能的に房室結節をバイパスするためで(図5-6-17),PR間隔は短縮し(<0.12秒)と,QRS幅正常な頻拍発作のある例をLGL症候群とよぶ.
原因・成因
先天性.
疫学
頻度は不明.
病態生理
房室伝導は正常よりも良好で,心房細動時の心室レートが過度に高くなる危険がある.
臨床症状
心房細動や頻拍がなければ無症状に経過する.
診断
心電図でPR間隔の短縮を認める.
経過・予後
頻拍がなければ予後はよい.
治療
頻拍があれば上室頻拍に準じる.[相澤義房]
■文献
Cappato R, Calkins H, et al: Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol, 3: 32-38, 2010.
Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 361: 1139-1151, 2009.
児玉逸雄,他:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版),日本循環器学会http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
奥村 謙,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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