心一つ(読み)こころひとつ

精選版 日本国語大辞典 「心一つ」の意味・読み・例文・類語

こころ【心】 一(ひと)

① 多くあるわけではない、ただ一つの心。たった一つの自分の心。たった一つの心なのに思うままにならないという嘆きの意をこめて使われることが多い。
古今(905‐914)恋一・五〇九「伊勢の海に釣りするあまのうけなれや心ひとつを定めかねつる〈よみ人しらず〉」
② 人知れず、ひそかに、自分の心の中だけで、考え、感じるさま。
伊勢物語(10C前)三四「いへばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつに嘆くころ哉」
他人のおもわくには関わりなく、自分の考えだけに固執するさま。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「御まへなる人〈略〉くちひそむも知らず、上中下すげなき遊びを、心ひとつやりてこと心なし」
源氏(1001‐14頃)明石「母君のとかく思ひわづらふをききいれず、〈略〉心ひとつにたちゐかかやくばかりしつらひて」
④ もっぱら、その事だけを考えること。一つのことを思いつめること。
※伊勢物語(10C前)二二「あひ見ては心ひとつをかはしまの水の流れて絶えじとぞ思ふ」
⑤ 他の考え方を切り捨てて残った、たった一つの考え方。
※源氏(1001‐14頃)松風「山がつのいほりにはまじり給はじと思ふ心ひとつをたのみ侍りしに」
⑥ もともと二つ以上のものが、一心同体になった状態。ひとつ心。
新撰菟玖波集(1495)釈教「心ひとつぞわくかたもなき となふれば我が身さながら仏にて〈宗砌〉」
⑦ 同じ趣味、目的、志向などを心に持っていること。ひとつ心。
浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)五「亭主も客も、心ひとつの数寄人に、あらずしては、たのしみもかくる也」
⑧ もっぱら、本人の考え方いかんにかかっているさま。その人の考え方しだい。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「其様(そん)結果が生ずると生じないとは貴嬢(あなた)の…貴嬢の…〈略〉心一つに在る事だけれども…」

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