年貢先納(読み)ねんぐせんのう

改訂新版 世界大百科事典 「年貢先納」の意味・わかりやすい解説

年貢先納 (ねんぐせんのう)

領主地頭の命によって村方から納期以前に納める年貢。その多くは貨幣納とされたから,先納金とも呼ばれた。

 石高制にもとづく江戸時代の領主経済は,原則として米納年貢の収取によって賄われたから,領主の歳入は秋の収穫期に限られたわけであるが,参勤交代の負担や天災による歳入の減収,役替え,家督相続,江戸屋敷の類焼など臨時支出の頻発によって,収納期前の領内外からの借入金が,早い時期から恒常化していた。京都,大坂の富商に代表される大名貸は,将来の年貢米担保とし,収穫期に中央市場に回送される領主米の販売代銀で返済するのが一般であったが,債務の累積によって返済の延滞や切捨てがたび重なるにつれて,領主権力の及ばないそのような領外からの借入を困難にしていった。領主にとって最も安易に借入を調達しうる方法が,領内における年貢先納であった。村の共同責任制のもとでの年貢先納のあり方は時代や地域によって一様ではないが,その多くは,村役人あるいは貨幣獲得の機会を多くもつ在村の米・肥料商など,一部の有力農民の肩代りによる貨幣納によって実現した。そのような先納金は利子付で,年貢勘定期に領主が決定する米値段(継値段とも呼ばれる)で物成米と相殺されるのが一般であった。また先納金調達のため,村が他地から借金をする場合,金主に対して村役人あるいは総百姓連印の〈郷印証文〉が手交されたが,これには収納期に物成米をもって弁済する旨の誓約条項を承認する,領主・地頭の家来の奥印・裏印・添証文が加えられ,実質は領主・地頭の借金であることの証明とされた。このような年貢先納は年内にとどまらず,翌年以後にまで及ぶこともあり,その金利負担が領主財政をさらに悪化させた。後期に諸藩や給人の藩政家政改革一環として,年貢の納期を年間に配分する月割上納制の採用がみられるのは,その打開策とみられ,年貢米の代金納部分の増大が進行した。

 中世については〈来納〉の項を参照されたい。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の年貢先納の言及

【来納】より

…中世荘園制における年貢先納,すなわち荘園領主が来年度の年貢を今年中に,あるいは今年の年貢を正規の納期以前すなわち春のうちなどに先納させること。例えば紀伊国阿氐河(あてがわ)荘では預所が1255年(建長7)に,翌年の年貢分として来納50貫文分の材木を納めさせている。…

※「年貢先納」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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