希少動物(読み)キショウドウブツ

デジタル大辞泉 「希少動物」の意味・読み・例文・類語

きしょう‐どうぶつ〔キセウ‐〕【希少動物/×稀少動物】

生息数が非常に少なく、絶滅心配のある野生動物。日本では、イヌワシノグチゲラツシマヤマネコなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「希少動物」の意味・わかりやすい解説

希少動物 (きしょうどうぶつ)

生息数が極端に少なく,保護策を講じない限り,近い将来に絶滅するおそれがあると思われる動物の種,亜種で,天然記念物に指定されたり,ワシントン条約輸出入が禁止され,あるいはIUCN(国際自然保護連合)のレッド・データ・ブックRed Data Bookに掲げられて保護の必要が訴えられたものが,おおよそこれに該当する。希少動物には,過度の特殊化により自然環境の変化に対応できなくなったり,新しい競合種の出現によって生息域が狭められるなどの自然現象に基づくものと,本来は多数生息していたのに,人類の自然破壊や捕獲の結果個体数が激減した人為的な原因に基づくものとがある。

 前者の一例としては,ヨーロッパに進入してきたオオヤマネコとの競合によって分布域が狭められたことが化石で証明されているスペインオオヤマネコがある。分布域がきわめて狭いアマミノクロウサギイリオモテヤマネコ,コモドオオトカゲ,パンダ,アメリカアカオオカミメキシコウサギなどはこれに類するものと考えられる。これらは皆,古く出現した原始的な種類である。一方,人為的な原因に基づいて激減したと思われるものには次のようなものがある。アジアのサイ類とシカ類は角を薬用にするため,アメリカバイソンは肉を,チンチラ,ヨーロッパビーバー,ビクーナなどは優良な毛皮を目的に乱獲された結果激減した。またトロフィーを目的にした狩猟で激減したものはきわめて多いが,オジロヌーもその一つである。このほか,主食のプレーリードッグを駆除したため激減したクロアシイタチ,開発が原因で生息地が減少したり(バク,シシオザル,サルデーニャのアカシカ),主食が減ったり(イランのチーター,イラン,シベリア,ジャワ島などのトラ),放牧した家畜に水場を奪われたり(フタコブラクダプシバルスキーウマ)したため減少したものもある。

 IUCNでは,希少動物を選定してランクをつけ,レッド・データ・ブックその他の出版物でそれを公表し,各国にそれらの保護を呼びかけている。そのランクには6段階があり,データは数年ごとに更新されている。1996年現在,5205種の動物が選定されているが,日本に産するものをいくつか抜粋すると次のとおりである。(1)絶滅種(extinct) ニホンアシカ(島根県),オガサワラマシコ(小笠原)。(2)絶滅の危険があるもの(endangered) 現在の生息状態では,減少の原因が除去されない限り生存が期待できない種,または亜種。魚類ではアユモドキ(琵琶湖,岡山)とネコギギ(岐阜,三重),鳥類ではトキ(佐渡),ノグチゲラ(沖縄本島),哺乳類ではアマミノクロウサギ(奄美諸島),イリオモテヤマネコ(西表島),ケラマジカ(沖縄の慶良間諸島),リュウキュウトゲネズミ(琉球諸島,奄美大島)などがこのランクに入れられている。(3)注意を要するもの(vulnerable) 環境が改善されない限り,近い将来(2)に移行すると思われる種,または亜種。魚類ではミヤコタナゴ(関東平地),鳥類ではヤンバルクイナ(沖縄本島),カンムリスズメ(琉球諸島など),哺乳類ではジュゴン(沖縄)があげられている。(4)希少なもの(rare) (2)と(3)ほどではないが世界的に見て生息数が少なく,厳重な保護対策を必要とする種,または亜種。両生類のオオサンショウウオ(岐阜以西の本州と九州北部),鳥類のナベヅル(鹿児島と山口に飛来),シマフクロウ(北海道),オオワシ(北日本),コアホウドリ(小笠原)などがあげられている。(5)状況不明のもの(indeterminate) (2)(3)(4)のどれかに当たると推定されるが,生息状態が不明のため確定できない種,または亜種。鳥類のヘラシギ,哺乳類のゼニガタアザラシ(北海道東部と千島)があげられている。

 なお,1994年には,より客観的な評価を可能とするために,カテゴリー分けとその基準が全面改定された。現在は,(1)絶滅extinct,(2)野生絶滅extinct in the wild,(3)絶滅危惧threatened,(4)低リスクlower risk,(5)情報不足data deficient,(6)未評価not evaluatedに区分されている。

 IUCNのリストは,日本に関する限り不完全であるが,ワシントン条約に規定された種類にも同様な傾向が見られる。日本では環境庁が1991年に〈日本の絶滅のおそれのある野生生物--レッドデータブック〉を作成した。絶滅種,絶滅危惧種,危急種,希少種,(保護に留意すべき)地域個体群のカテゴリーに分けられている。該当する種または亜種は,数年ごとに検討が加えられる。
絶滅生物
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