学生の大学運営参加(読み)がくせいのだいがくうんえいさんか(英語表記)students' participation in university management

大学事典 「学生の大学運営参加」の解説

学生の大学運営参加
がくせいのだいがくうんえいさんか
students' participation in university management

[大学の起源学生参加]

中世ヨーロッパにおける初期の大学が,与えられた学校組織ではなく,学びたい熱意意欲のある人たちが自ら運営主体となり,一定の自主ルールの下で組織を動かしていたことはよく知られている。一方,時代が下って,1810年設立のベルリン大学創始とする近代の大学は,国家社会の近代化の推進のための人材育成を主目的に再構築されたものであり,明治維新を経て国家有為のエリートを輩出する組織として高等教育機関が設立された日本においても,その面が前面に強く出ている。しかし,そのようにしてできた大学でも真理探究の自由が意識的に語られ継承されることで,ルーツとしての大学の精神が意識され次第に根づいていくこととなる。ただし,少なくとも第2次世界大戦前においては,大学自治という考え方はあっても,学生が大学運営に関与するという発想は日本ではほとんど見られなかった。やがて,戦後の民主化の動きの中で新制大学が次々と誕生すると,大学の本質的性格が意識され,学生自治の考え方が表面に登場する。

[学生自治会の台頭と運営参加への行き詰まり]

戦後の日本の大学においては,社会的混乱の中での学生の学ぶ権利の保証という観点から,次々と学生自治団体が設立され,大学当局と折衝する形で自らの要求を実現せんと努力を重ねることになる。この場合,学生代表が団体交渉をするという労使交渉に近いイメージで活動が展開され,必ずしも学生が大学運営に積極的に関与することには至っていない。たとえば立命館大学では1948年(昭和23)から,常任理事会に学生自治会(学友会)代表や院生協議会の代表も加えた全学協議会(日本)を大学としての最高意思決定機関としているほか,4年に1度程度,全構成員に参加(傍聴)を呼び掛ける公開全学協議会(日本)を開催している。しかし,これは例外的であり,大半の大学では今日に至っても運営組織そのものの中に学生が入り込んではいない。とくに1960年代以降,学生自治活動が政治運動と結びつき,必ずしも学内運営ではない広範な社会的諸矛盾の解決に向けた学生運動に発展し,その一部が先鋭的,暴力的行動を引き起こして大学当局と対立する図式が定着すると,学生自治そのものにも社会的批判が向けられ,学生自治組織が大学運営に関わるという可能性は急速に低下することとなった。

[学生参画型FDの登場]

この状況に変化を与える契機となったのは,2000年(平成12)文部省が発表した,いわゆる「廣中レポート」(「大学における学生生活の充実方策について」)である。岡山大学のように,これを直接の契機とはせずに学生参画型FD(ファカルティ・ディベロップメント)をスタートさせた例もあるが,「教員中心の大学から学生中心の大学への転換」を提言する同レポートは,1991年の大学設置基準の大綱化以降,改革を模索する各大学にとって一つの指針を与えた面が強い。岡山大学の場合,「廣中レポート」と関係なく,2001年に「学生・教員FD検討会」(現在は「学生・教職員教育改善委員会」)を始動させ,それまで教員の問題とされたFDを学生とともに進める姿勢に切り替えることで,大学の教学運営に学生が関与する道を切り拓いた。たとえばシラバスや授業評価アンケートを学生と一緒に再検討したり,学生が構想案を固める学生発案授業を次々誕生させたりするなど,ミクロ・ミドルレベルのFDを学生と教員との協働で進めていく体制づくりが進んでいる。

 これは,ヨーロッパでかつて見られた,あるいはその流れを汲む,大学運営全体への学生の関与と違って限定的な範囲ではあるが,正課教育を視野に入れた内容での学生の組織参加は,上述の「廣中レポート」でも必要性はうたいながらも日本ではすぐに実現は困難であろうと指摘する内容だっただけに,注目すべきものと思われる。また,大学における「主体的な学び」が注目される中,2009年頃からは岡山大学に触発される形でサークル型の学生主体型FDも各地の大学で活発化し,中には同大学に準じた形で運営組織の中に学生が新たな形で入り込んでいく形も試されている。

[教育の質保証への学生参画]

一方,イギリスやデンマークなどを中心にヨーロッパ各国では,近年,教育の質保証という観点から学生参画を推進する動きが活発化している。大学評価において学生が積極的に関与することは,アメリカ合衆国におけるエンパワーメント評価の考え方とも重なり,急速に勢いを増しつつある。これは大学運営全体への学生の本格参加を企図した流れの中で,とくに教育に焦点を当てたものである。教育内容の統合・調整を目指すボローニャ・プロセスが進むヨーロッパと,認証評価や法人評価が第2サイクルに入っている日本の双方で,別々の経緯からではあるが,結果として教学面での大学運営への学生参加が注目を集めているのは歴史的必然を感じさせる。
著者: 橋本勝

参考文献: 橋本勝,清水亮,松本美奈編著『学生と変える大学教育―FDを楽しむという発想』ナカニシヤ出版,2009.

参考文献: 木野茂編著『大学を変える,学生が変える―学生FDガイドブック』ナカニシヤ出版,2012.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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