子宮腟部びらん(読み)しきゅうちつぶびらん(英語表記)Ectocervical erosion

六訂版 家庭医学大全科 「子宮腟部びらん」の解説

子宮腟部びらん
しきゅうちつぶびらん
Ectocervical erosion
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 子宮頸部(けいぶ)内腔をおおっている上皮が、外子宮口を越えて子宮腟部(子宮の最下方の部分で腟内に突出している)の表面に及ぶ状態を指します。真びらんは人為的な損傷や、がんなどによる上皮の欠損を意味しますが、大部分は、肉眼では一見上皮がはがれたように見える仮性びらんです。成熟女性の60~80%に、びらんがみられます。

原因は何か

 思春期以前(初経前)には、子宮腟部は重層扁平上皮(ちょうそうへんぺいじょうひ)におおわれています。思春期(初経以降)になると女性ホルモン(エストロゲン)の作用によって子宮頸管が腟腔に外反するようになります。その結果、子宮頸管上皮が腟腔に露出した状態になります。子宮頸管上皮は1層の円柱上皮からなるため、結合組織内の豊富な血管網が()けて赤色をしていて、肉眼ではびらん状に見えます(仮性(かせい)びらん)。

 閉経期以降、子宮頸管上皮は再び頸管内に退縮し、子宮腟部は重層扁平上皮におおわれます。

症状の現れ方

 分泌物の多いびらん面が大きいと、それだけで帯下(たいげ)(おりもの)が増えます。1層の円柱上皮だけでは感染に対しても抵抗力が弱くなるため炎症を起こしやすく、黄色の帯下が著しく増えて不快なものになります。また、びらん面は機械的・化学的刺激に対する抵抗力が弱く、性交後や排尿・排便時の不正出血などが起こりやすくなります。

治療の方法

 子宮腟部びらんがあること自体は異常ではありません。無症状であれば治療の対象にはなりません。ただし、帯下が非常に多い時やびらん面からの出血を伴う時は、冷凍療法、レーザー療法電気凝固法などでびらん部分を壊死(えし)させます。

 いずれも治るまでには1~2カ月を要し、完全治癒のためには治療を繰り返し行う場合があります。

矢野 哲

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「子宮腟部びらん」の解説

しきゅうちつぶびらん【子宮腟部びらん】

 子宮の入り口の上皮(じょうひ)が、傷や炎症でむけてしまったり(真性びらん)、奥の粘膜(ねんまく)が、入り口のまわりまで広がってただれたようにみえる(仮性びらん)ことがあります。
 真性びらんはまれにしかおこりません。仮性びらんは、性成熟期の女性の8~9割にみられる生理的な変化です。
 一般的には治療しなくてもよいのですが、出血しやすかったり、帯下(たいげ)(おりもの)が多くて気になるときは治療をします。
 治療法には、腟内に薬を入れる方法や、びらんを凍結したり、電気やレーザーで焼灼凝固(しょうしゃくぎょうこ)する方法、子宮腟部を切除する方法(子宮頸部円錐切除術(しきゅうけいぶえんすいせつじょじゅつ)(「子宮頸部異形成」の子宮頸部円錐切除術/子宮腟部円錐切除術))があります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「子宮腟部びらん」の意味・わかりやすい解説

子宮腟部びらん
しきゅうちつぶびらん
cervical erosion

外子宮口を中心として,子宮腟部の扁平上皮が破壊され,ここにびらんが生じた状態をいう。外子宮口を中心として,輪状に赤色を呈する。この部分では,扁平上皮よりも頸管の円柱上皮の増殖力が強いので,扁平上皮の欠損は円柱上皮におおわれて償われる。この状態を偽びらんと呼び,普通,腟びらんといわれる場合はこの偽びらんが多い。原因の多くは子宮頸管の炎症で,抗生物質の投与,局所の焼灼,冷凍療法などが有効である。子宮癌との鑑別に注意を要する。

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