天気とことわざ

ことわざを知る辞典 「天気とことわざ」の解説

天気とことわざ

日本の最初の天気予報は明治17年といわれますが、それよりもそのはるか昔から、ことわざによる天気の予測がなされていました。

■たとえば、「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」は、ほぼ同じ認識が古代からあったと思われ、中国やヨーロッパにも類例があります。日本では、農作業と結びつけ、「秋の夕焼け鎌を研げ」ともいいます。また、「朝雷に川越すな」(朝の雷は天気が荒れやすいので、遠出をしてはならない)も各地で使われていました。これらは、一種の経験則で当たる確率が高く、リスクを教えてくれるので、長く言い伝えられてきたものでしょう。

■こうしたことわざには、科学的にも正しいものが散見されます。夕焼けの例でいうと、夕焼けは西のほうが晴れ、朝焼けは東のほうが晴れていることを意味します。中緯度の地域(温帯)では、天気はふつう西から東へ移動するので、予測はおおむね的中するわけです。

■「暑さ寒さも彼岸まで」も、お彼岸が庶民年中行事となった江戸時代以来、よく使われてきました。しかし、同じお彼岸でも、春と秋ではかなり気温が違います。東京の春分の日と秋分の日の気温を比べると、最高気温は秋のほうが約12度高いのです。このことわざと気温データのずれは、なぜ生じるのでしょうか。

■人間が感じる暑さ寒さは、寒暖計どおりではなく、冬の寒さに慣れていると15度ぐらいでも温かく感じ、逆に夏の残暑の後では27度前後でも涼しく感じられます。ことわざは、客観的な気温データではなく、人間の感覚が基準で、季節の変わり目の体感温度を表現していると考えてよいでしょう。

■さらに「朝雨、女の腕まくり」(恐れることはない)や「朝のぴっかり、姑の笑い」(いつ変わるかわからない)など、天候と人間の振る舞いを結びつけ、ユーモラスに表現するものも目につきます。

■このように、天気に関することわざには、なかなか興味深いものも少なくないのですが、辞典類にはごく少数しか収録されていません。天気に関する口頭伝承がことわざと俗信の入り混じった領域で、根拠不明の迷信の類や、ことばの洗練度が低いものが多いせいでしょう。また、天候が地域の自然環境によってそれぞれ微妙に異なるため、狭い地域でしか使われないものが多いことも影響していると思われます。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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