先天性血小板機能異常症

内科学 第10版 「先天性血小板機能異常症」の解説

先天性血小板機能異常症(血小板/凝固系の疾患)

 血小板数が正常か増加しているにもかかわらず,一次止血の異常(皮膚の点状出血などの症状,出血時間の延長)を呈する疾患を総称して血小板機能異常症(disorders of platelet function)とよんでいる.von Willebrand因子フィブリノゲンの異常症など,血小板機能を補助する外因物質の異常も広義の血小板機能異常症としてまとめられる.日常臨床では血小板機能異常は後天性が多い(薬剤,MPD, MDS,腎障害などが原因.【⇨14-11-7)】).先天性血小板機能異常は多くの場合幼少時より発症するため,小児科領域で発見される頻度が高い.先天性血小板機能異常症はその異常により粘着放出凝集の各異常症に分けられる.特定の血小板膜蛋白の欠損症/分子異常症が多く,近年その原因遺伝子異常が多数報告されている.一方,後天性血小板機能異常症では複数の因子が関与しているため,粘着異常,凝集異常,放出異常などが明確に区別できないことが多い.図14-11-9
に先天性血小板機能異常症の鑑別診断を示した.
(1)血小板無力症(thrombasthenia,Glanzmann血小板無力症)
常染色体劣性遺伝で,膜糖蛋白(GP)Ⅱb/Ⅲa複合体(インテグリンαⅡb/β3,フィブリノゲン受容体)の欠損/異常により,血小板凝集機能の低下をきたし,出血傾向をみる.血小板数,血小板形態は正常で出血時間延長,ADP,コラーゲンなどによる血小板凝集の欠如がみられ,血餅退縮能低下を認める.確定診断はGPⅡb/Ⅲa複合体欠損の証明である.治療は出血に対する対症療法が中心となる.外科手術の際などには血小板輸血を行う.
(2)Bernard-Soulier症候群
 常染色体劣性遺伝で,GPⅠb/Ⅸ/Ⅴ複合体(von Willebrand因子受容体)の欠損/異常による.比較的まれな疾患であるが,出血傾向は合併する血小板減少もあるため比較的強く,紫斑,鼻出血,歯肉出血が幼少時よりみられる.検査所見では血小板減少(軽度),巨大血小板の出現を特長とし,血小板粘着能低下(ガラスビーズ法),リストセチン凝集が欠如している.May-Hegglin異常や特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)との鑑別を要す.確定診断はGPⅠb/Ⅸ/Ⅴ複合体欠損を証明する.根治療法はなく,出血に対する対症療法が中心となる.出血症状が強い場合や外科手術の際には血小板輸血を行う.
(3)放出異常症
 放出そのものの障害(放出機構異常症)と放出物質の欠如(ストレージプール病)が含まれる.一般にこの機序による障害では出血傾向は軽微であり,出血時間も軽度の延長にとどまることも多い.
 このほかコラーゲン不応症,GPⅠa/Ⅱa複合体欠損症(コラーゲンとの結合障害による粘着能低下),GPVⅠ欠損症(GPVⅠとコラーゲンとの結合障害による粘着能低下),血小板プロコアグラント活性欠損症(Scott症候群)などが報告されている.
 血小板機能異常症を疑った場合まず血小板凝集能,血小板粘着能(血小板停滞率)を検査するとともに,von Willebrand因子抗原(VWFAg),von Willebrand因子リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)を検査して頻度の高いvon Willebrand病を除外する.先天性血小板機能異常症は図14-11-9に従って鑑別する.一般に血小板機能検査は血小板に影響する薬剤の服用中止後1週間以上経過してから行う必要がある.[村田 満]
■文献
村田 満:出血と血栓がおこる病気血液疾患のとらえかた(池田康夫編),pp136-145, 文光堂,東京,2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報