一酸化炭素(CO)中毒

内科学 第10版 「一酸化炭素(CO)中毒」の解説

一酸化炭素(CO)中毒(ガス・その他の工業中毒)

(1)一酸化炭素(CO)中毒
 吸入されたCOは,体内で酸素(O2)に代わってヘモグロビンHb)に結合し,カルボキシヘモグロビン(CO-Hb)になるため血中O2濃度は減少し,低酸素症を生じる.一方,COはチトクローム酸化酵素を阻害し,脳組織を傷害する.急性期では脳や髄膜のうっ血,脳浮腫,点状小出血,神経細胞の虚血性変化を認める.後期では脳萎縮,脳室拡大,白質変性,淡蒼球の小壊死巣を認める.
 急性期は頭痛,嘔吐,めまい,倦怠感,集中力低下,意識障害をきたす.重症例では昏睡,呼吸器・循環器障害で死亡する.遅発性神経精神症候群(間欠型)はCO中毒の10~30%にみられる.暴露後3~240日間に起こり,健忘,意欲低下,知能低下,人格障害,異常行動,無動性無言症などを認め,錐体外路症状(筋硬直,寡動・動作緩慢,運動稚拙など),深部反射亢進,失行,失認(視覚失認視空間失認)などがみられる.後遺症として軽度の神経症状を残すことが多く,認知症,小脳性失調やパーキンソニズムがみられる.
 急性期の脳波では,びまん性に徐波や平坦化を認める.後期は正常化するが,ときに異常所見を残す.頭部CTは,急性期は多くは正常,後期には脳萎縮,両側淡蒼球の低吸収域を認める.頭部MRIのT2強調画像では,両側淡蒼球に左右対称性に限局性の高信号域と広範な大脳白質の高信号域を認める.
 血中CO-Hb値が上昇する.正常の非喫煙者では5%以下,10%以上で頭痛などの自覚症状,40%で意識障害,70%で呼吸器・循環器障害がみられる.CO-Hbは経時的に低下し,臨床症状は血中濃度と必ずしも一致せず,正常値でもCO中毒を否定できない.
 治療は顔面マスクによる100%O2投与,または高圧酸素療法を行う.CO-Hb値が5~10%以下になるまで継続する.[熊本俊秀]
■文献
Harris J, Chimelli L, et al: Nutritional deficiencies, metabolic disorder and toxins affecting the nervous system. In: Greenfield’s Neuropathology, 8th ed (Love S, Louis DN, et al eds), pp 675-731, Hodder Arnold, London, 2008.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),医学書院東京,2009.Prockop LD, Rowland LP: Occupational and environmental neurotoxicology. In: Merritt’s Neurology, 11th ed (Rowland LP ed), pp1173-1184, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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