日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ワレンシュタイン(シラーの戯曲)
われんしゅたいん
Wallenstein
ドイツの劇作家シラーの戯曲。1800年出版。三十年戦争の際の皇帝軍の総指揮官ワレンシュタイン公(1583―1634)の反逆と没落を描いた三部作の韻文悲劇。悲劇はまず第一部「ワレンシュタインの陣営」(全一幕)において、主人公が兵士たちの間でいかに絶大な信望を得ているかを示し、第二部「ピッコロミニ父子」(全五幕)において、主人公を取り巻く将軍たちの多彩な顔ぶれと皇帝に対する謀反の計画の進行を示して、主人公の「罪の大半は不幸な運星に帰せられ」うること、「彼の心を誤って導いたのは彼の軍隊である」ことを暗示したのち、第三部「ワレンシュタインの死」(全五幕)において、不服従のかどで解任された主人公が、彼の軍隊の彼への忠誠の過信と占星術への盲信から正しい判断力と決断力を失って、結局部下に暗殺されるさまを描く。功利と野心と陰謀の渦巻く世界にピッコロミニの息子マックスとワレンシュタインの娘テクラの清純な悲恋を配して、陰影の深いドイツ最大の歴史悲劇のひとつとなった。
[内藤克彦]
『鼓常良訳『ワレンシュタイン』(岩波文庫)』