ワインバーグ=サラムの理論(読み)ワインバーグサラムのりろん

改訂新版 世界大百科事典 の解説

ワインバーグ=サラムの理論 (ワインバーグサラムのりろん)

電磁相互作用と中性カレントを含む弱い相互作用との統一理論。アメリカのワインバーグSteven Weinberg(1933- )とパキスタンサラムAbdus Salam(1926-96)によって独立に提案(ワインバーグは1967年,サラム68年)されたものであるが,その後,アメリカのグラショーSheldon Lee Glashow(1932- )による貢献が大きく,ワインバーグ=サラム=グラショーの理論とも呼ばれる(この3人は1979年ノーベル物理学賞を受賞)。三つの結合定数(相互作用の強さを表すパラメーター)を二つにまでしか減らしていない点で不完全な統一理論といえるが,弱い相互作用もやはりゲージ理論であり,しかもくりこみ可能であることを示したのがこの理論の非常に重要な特質である。この理論を可能にした重要なものとしてヒッグス機構Higgs mechanismとGIM機構(GIMはGlashow,Iliopoulos,Maianiの頭文字をとったもの)がある。前者ゲージ粒子質量をもちうる機構を明らかにしたもので,後者のGIM機構はフレーバーをかえるような中性カレントの出現妨げ,またクォークレプトンの協力関係がくりこみ可能性をこわすような不定項の出現を防いでいる。このいわば人為的な消合いはより高い対称性を示唆するものとうけとられる。中性カレントの発見(1973)およびワインバーグ角の一意性などで理論の正しさが証拠づけられるが,1983年のCERNセルン)におけるZ0,W±のゲージ粒子発見が直接的にこの理論の正当性を示していると思われる。
相互作用
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

ワインバーグ=サラムの理論
ワインバーグ=サラムのりろん
Weinberg-Salam theory

1967年にスティーブン・ワインバーグが,1968年にアブドゥス・サラムが個別に提案した電磁相互作用弱い相互作用の統一理論。2種類の荷電ベクトル中間子 W+,W-と 2種類の中性ベクトル中間子をゲージボソンとして導入することにより,二つの相互作用を統一的に記述するくりこみ可能な(非可換)ゲージ場の場の量子論。中性中間子は一定の割合で混合して非常に重い中間子 Zと電磁相互作用を媒介するゼロ質量の光子となり,Z中間子は荷電中間子 W+,W-とともに弱い相互作用を媒介するとみなされる。光子以外の 3種のゲージボソンはヒッグス機構により質量を獲得する。W中間子の質量は 3.8×104/sinθWMeV(メガ電子ボルト),Z中間子の質量は 7.6×104/sin2θWMeVと予言された。ただし,θWは中性中間子の混合比を表す量で,ワインバーグ角と呼ばれる。高エネルギーのニュートリノ実験の分析によれば sin2θW=0.2315±0.0005である。1983年ヨーロッパ原子核研究機関 CERNで W+,W-および Z0が理論の予言どおりの質量で発見された。

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世界大百科事典(旧版)内のワインバーグ=サラムの理論の言及

【素粒子】より

…この力は非常に短距離で作用し,また陽子を中性子にかえる働きをする。電磁気力と弱い力とは一見まったく異なった力のように見えるが,実は両方の力の源は同じであるという統一理論がS.ワインバーグとA.サラムによって提唱(ワインバーグ=サラムの理論)され,実験による検証も得られて大きな成功を収めた。最後の力は〈強い力〉(強い相互作用)と呼ばれるもので,π中間子が陽子と中性子,あるいは陽子と陽子の間に交換されて生ずる核力がこれである。…

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