日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リンダール(Tomas Lindahl)
りんだーる
Tomas Lindahl
(1938- )
スウェーデンの生化学者。ストックホルム生まれ。1970年にカロリンスカ研究所で医学博士号を取得。その後、プリンストン大学、ロックフェラー大学のポスドク研究員(博士研究員)を務めた。1978年からイョーテボリ大学教授を務め、1981年イギリスの帝国癌(がん)研究ファンドImperial Cancer Research Fund(現、キャンサー・リサーチUK:Cancer Research UK:CRUK)に移籍、同所のディレクターを務めた後、2009年からはフランシス・クリック研究所名誉研究員。
生命の設計図である遺伝子DNAは、全細胞がもっている。細胞が分裂して増えるときに、DNAもコピーされる。DNAに放射線やある種の化学物質が作用すると部分的に損傷したり、DNAがコピーされるとき間違ってコピーされることもある。生体はこのように壊れたり、間違ったりしたDNAを修復する機能をもっていることをリンダールは「塩基除去修復base excision repair」という方法で解明した。これは、(1)DNAを構成する塩基のペアに何らかの理由で異常が発生したとき、間違っている塩基をDNAグリコシラーゼという酵素が介在して切除、(2)その後、いくつかの分解酵素が関与して、塩基についている糖とリン酸部分が切り取られ、正しい塩基・糖・リン酸の組合せ(ヌクレオチド)になったあと、(3)異常があった箇所にDNAポリメラーゼとDNAリガーゼという酵素が隙間(すきま)を埋めて修復が完了する、という機能である。リンダールはこの修復機能を世界で初めて示した。この機能の解明は癌(がん)の新しい治療法などの開発に寄与するものとみられている。2015年「DNA修復の仕組みの研究」でアメリカの生化学者ポール・モドリッチ、トルコ出身の生化学者アジズ・サンジャルとノーベル化学賞を共同受賞した。
[馬場錬成 2016年5月19日]