知恵蔵「ポスティングシステム」の解説
ポスティングシステム
1998年にNPBとMLBによって調印された「日米間選手契約に関する協定」によって導入され、当初はMLB球団が移籍の独占交渉権を入札で獲得する形であった。落札したMLB球団と当該選手の交渉が成立した場合、入札金は所属するNPB球団へと支払われた。この形式によって、A.ケサダ、イチロー、石井一久、R.ラミーレス、大塚晶文(晶則)、中村紀洋、森慎二、松坂大輔、岩村明憲、井川慶、西岡剛、ダルビッシュ有、青木宣親の13人がMLB球団へと移籍している。
しかしこの形では最高額で入札した球団のみに30日間の独占交渉権が与えられ、当該選手は他のMLB球団と交渉することができなかった。さらに交渉不成立の場合には、次のオフまで申請を希望することができないなど、日本プロ野球選手会は移籍希望選手に不利な制度であると問題視していた。
またこの制度では入札金額が青天井だったこともあり、2011年オフにポスティング申請をしてMLB球団のテキサス・レンジャーズへ移籍したダルビッシュ有の落札額が、過去最高となる約5170万ドル(当時39億8千万円)へと高騰するなど、MLB側もこのままの制度では問題があると疑問視する。そして12年にMLBは「日米間選手契約に関する協定」を破棄するに至り、この制度は効力を失った。
その後、交渉を経て、13年に新たな制度が合意される。これまでの入札という形式はとらず、移籍希望選手の保有権をMLB球団へ譲る際に生じる譲渡金を最高2000万ドルとし、その範囲内で所属するNPB球団が譲渡金を設定。その金額に応じるすべてのMLB球団と交渉することになった。
これによりMLB球団は選手が所属するNPB球団へ支払う額が2000万ドル以下に抑えられ、当該選手は譲渡金に応じる用意のあるすべてのMLB球団と交渉することができるようになった。その一方で所属するNPB球団は、この制度によって得られる金額が2000万ドルを超えることはなくなった。この形式で田中将大、前田健太、大谷翔平、牧田和久の4人がMLB球団へと移籍している。
2018年オフにはさらに制度が変更された。移籍希望選手の保有権をMLB球団へ譲る際に生じる譲渡金を、それまでの最高2000万ドルから、当該選手の契約内容の総額によって変動する仕組みへと改定された。
この譲渡金は、契約金、年俸、バイアウト(契約解除)額の総額のうち2500万ドルまで20%、2500万ドルから5000万ドルまで17.5%、5000万ドルを超えた部分に15%を掛けた額を足して算出する。さらに出来高払いがあれば、年度ごとに当該選手が獲得した出来高に15%を掛けた額が追加譲渡金として支払われる。菊池雄星はこの形式で、シアトル・マリナーズへと移籍した。
なお、以前の譲渡金最高額は2000万ドルだったが、現制度で2000万ドルに達するには、選手の契約総額が1億2000万ドルもの高額を超える必要がある。ちなみに菊池雄星の譲渡金は1027万5000ドルだったと報道された。
19年オフには筒香嘉智と山口俊が、この制度を使ってMLB球団への移籍を決めた。筒香はタンパベイ・レイズと2年総額1200万ドル(約13億1100万円)で契約を交わし、NPBの所属球団だったDeNAには、譲渡金として240万ドル(約2億6200万円)が支払われる。山口俊はトロント・ブルージェイズと、2年総額635万ドル(約6億9850万円)で契約。さらに投球回数が170イニングに達すれば、140万ドル(約1億5400万円)の出来高払いが付くと報道された。山口の所属球団だった巨人には、譲渡金として127万ドル(約1億4000万円)が支払われる。なお、巨人からポスティングシステムを使ってMLBへ移籍したのは、山口が初めてのケースである。
(場野守泰 ライター/2020年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報