ファン・アイク(兄弟)(読み)ふぁんあいく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファン・アイク(兄弟)」の意味・わかりやすい解説

ファン・アイク(兄弟)
ふぁんあいく

兄フーベルトHubert van Eyck(1370ころ―1426)、弟ヤンJan van Eyck(1390ころ―1441)。北方ルネサンスといわれる15世紀ネーデルラントに発展した絵画の、真の創始者、代表者。彼ら兄弟によって、それまでのテンペラ画法にかわって油彩画法が初めて確立されたといえる。2人が協力して描いたベルギーヘント(ガン)市の聖バボン(シント・バーフォ)大聖堂の祭壇画は、北方ルネサンスのもっとも輝かしい金字塔である。兄弟のうち、兄フーベルトについては、この祭壇画の銘に「ヨドクス・ファイトの需(もと)めに応じて最大の画家フーベルト・ファンアイクがこの作品に着手し、彼に次ぐ画家たる弟ヤンがこれを完成した。ときに1432年5月6日」とある以外、その生涯や作品を知る確実な資料はない。しかし、彼も弟ヤン同様、リエージュ北方のマーサイクに生まれ、当時のネーデルラントの文化および商工業の中心地であったブリッヘ(ブリュージュ)を主舞台に活躍したとされる。

 一方、弟ヤンについてはかなり詳しく知られている。すなわち、フーベルトの弟として、同時にその弟子として成長し、1425年以後ブルゴーニュ公フィリップ善良公の従者兼宮廷画家となり、31年以後はほとんどブリッヘで活躍し、同地で没した。彼は兄の衣鉢を継いで、深い自然観察と豊かな写実力により、親しみやすく温かい北方ルネサンス様式をみごとに完成した。その後の北方ルネサンス絵画の展開は多くを彼ら兄弟に、とくにヤンに負うところが多いが、同時にその自然主義はイタリア・ルネサンスにも多大の刺激を与えた。現存するヤンの作品としては、『ニコラ・ロランの聖母』(ルーブル美術館)、『聖バルバラ』(アントウェルペン王立美術館)、『室内の聖母子』(フランクフルト美術館)などのしっとりと親密な宗教画のほかに、『画家の妻』(ブリュージュ美術館)、『アルノルフィニ夫妻』(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)のような肖像画が名作として名高く、近代肖像画の一つの典型をつくりあげた。

嘉門安雄

『黒江光彦著『世界美術全集2 ファン・アイク』(1978・集英社)』


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